芥川龍之介『女体』

順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | ねね | 4600 | C++ | 4.6 | 98.0% | 511.2 | 2401 | 49 | 31 | 2025/03/19 |
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問題文
(ようぼうというしなじんが、あるなつのよる、あまりむしあついのにめがさめて、ほおづえを)
楊某と云う支那人が、ある夏の夜、あまり蒸暑いのに眼がさめて、頬杖を
(つきながらはらんばいになって、とりとめのないもうぞうにふけっていると、ふと1ぴきの)
つきながら腹んばいになって、とりとめのない妄想に耽っていると、ふと一匹の
(しらみがねどこのふちをはっているのにきがついた。へやのなかにともした、うすぐらいひの)
虱が寝床の縁を這っているのに気がついた。部屋の中にともした、うす暗い灯の
(ひかりで、しらみはちいさなせなかをぎんのこなのようにひからせながら、となりにねているさいくんのかたを)
光で、虱は小さな背中を銀の粉のように光らせながら、隣に寝ている細君の肩を
(めがけて、もずもずはっていくらしい。さいくんは、はだかのまま、さっきからようのほうへ)
目がけて、もずもず這って行くらしい。細君は、裸のまま、さっきから楊の方へ
(かおをむけて、やすらかなねいきをたてているのである。ようは、そのしらみののろくさい)
顔を向けて、安らかな寝息を立てているのである。楊は、その虱ののろくさい
(あゆみをながめながら、こんなむしのせかいはどんなだろうとおもった。じぶんが2そくか)
歩みを眺めながら、こんな虫の世界はどんなだろうと思った。自分が二足か
(3そくでいけるところも、しらみには1じかんもかからなければ、あるけない。しかもその)
三足で行ける所も、虱には一時間もかからなければ、歩けない。しかもその
(あるきまわるところが、せいぜいねどこのうえだけである。じぶんもしらみにうまれたら、さぞ)
歩きまわる所が、せいぜい寝床の上だけである。自分も虱に生れたら、さぞ
(たいくつだったことであろう。・・・・・・そんなことをまんぜんとかんがえているなかに、ようのいしきは)
退屈だった事であろう。……そんな事を漫然と考えている中に、楊の意識は
(しだいにおぼろげになってきた。もちろんゆめではない。そうかといってまた、うつつでもない。)
次第に朧げになって来た。勿論夢ではない。そうかと云ってまた、現でもない。
(ただ、みょうにこうこつたるこころもちのそこへ、しずむともなくしずんでいくのである。それが)
ただ、妙に恍惚たる心もちの底へ、沈むともなく沈んで行くのである。それが
(やがて、はっとめがさめたようなきにかえったとおもうと、いつかようのたましいはあのしらみの)
やがて、はっと眼がさめたような気に帰ったと思うと、いつか楊の魂はあの虱の
(からだへはいって、あせくさいねどこのうえを、ぜんぜんぜんとしてあるいている。ようはあまりにことが)
体へはいって、汗臭い寝床の上を、蠕々然として歩いている。楊は余りに事が
(いがいなので、おもわずぼうぜんとたちすくんだ。が、かれをおどろかしたのは、ひとりそれ)
意外なので、思わず茫然と立ちすくんだ。が、彼を驚かしたのは、独りそれ
(ばかりではない。--かれのゆくてには、いちざのたかいやまがあった。それがまた)
ばかりではない。――彼の行く手には、一座の高い山があった。それがまた
(おのずからなまるみをあたたかくだいて、めのとどかないうえのほうから、めのさきのねどこのうえまで、)
自らな円みを暖く抱いて、眼のとどかない上の方から、眼の先の寝床の上まで、
(おおきなしょうにゅうせきのようにたれさがっている。そのねどこについているぶぶんは、なかに)
大きな鍾乳石のように垂れ下っている。その寝床についている部分は、中に
(かきをぞうしているかとおもうほど、うすあかいざくろのみのかたちをつくっているが、そこを)
火気を蔵しているかと思うほど、うす赤い柘榴の実の形を造っているが、そこを
(のぞいては、やま1えん、どこをみてもしろくないところはない。そのしろさがまた、ぎょうしの)
除いては、山一円、どこを見ても白くない所はない。その白さがまた、凝脂の
(ようなやわらかみのある、なめらかないろのしろさで、さんぷくのなだらかなくぼみでさえ、ちょうど)
ような柔らかみのある、滑な色の白さで、山腹のなだらかなくぼみでさえ、丁度
(ゆきにさすつきのひかりのような、かすかにあおいかげをたたえているだけである。ましてひかりを)
雪にさす月の光のような、かすかに青い影を湛えているだけである。まして光を
(うけているぶぶんは、とけるようなべっこういろのこうたくをおびて、どこのさんみゃくにも)
うけている部分は、融けるような鼈甲色の光沢を帯びて、どこの山脈にも
(みられない、うつくしいゆみなりのきょくせんを、はるかなてんさいにえがいている。・・・・・・ようはきょうたんの)
見られない、美しい弓なりの曲線を、遥な天際に描いている。……楊は驚嘆の
(めをみひらいて、このうつくしいやまのすがたをながめた。が、そのやまがかれのさいくんのちちの)
眼を見開いて、この美しい山の姿を眺めた。が、その山が彼の細君の乳の
(1つだということをしったときに、かれのおどろきははたしてどれくらいだったことであろう。)
一つだと云う事を知った時に、彼の驚きは果してどれくらいだった事であろう。
(かれは、あいもにくしみも、ないしまたせいよくもわすれて、このぞうげのやまのような、きょだいな)
彼は、愛も憎みも、乃至また性よくも忘れて、この象牙の山のような、巨大な
(ちぶさをみまもった。そうして、きょうたんのあまり、ねどこのあせくさいにおいもわすれたのか、)
乳房を見守った。そうして、驚嘆の余り、寝床の汗臭い匂も忘れたのか、
(いつまでもこりかたまったようにうごかなかった。--ようは、しらみになってはじめて、)
いつまでも凝固まったように動かなかった。――楊は、虱になって始めて、
(さいくんのにくたいのうつくしさを、にょじつにかんずることができたのである。しかし、げいじゅつのしに)
細君の肉体の美しさを、如実に観ずる事が出来たのである。しかし、芸術の士に
(とって、しらみのごとくみるべきものは、ひとりにょたいのうつくしさばかりではない。)
とって、虱の如く見る可きものは、独り女体の美しさばかりではない。