源氏物語 若菜上「夕霧、朱雀院を見舞う」
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問題文
(ろくじょういんよりも、おんとぶらひしばしばあり。みづからもまいりたまふべきよし、)
六条院よりも、御訪らひしばしばあり。みづからも参りたまふべきよし、
(きこしめして、いんはいといたくよろこびきこえさせたまふ。)
聞こし召して、院はいといたく喜びきこえさせたまふ。
(ちゅうなごんのきみまいりたまへるを、みすのうちにめしいれて、おんものがたりこまやかなり。)
中納言の君参りたまへるを、御簾の内に召し入れて、御物語こまやかなり。
(「こいんのうへの、いまはのきざみに、あまたのごゆいごんありしなかに、このいんのおんこと、)
「故院の上の、今はのきざみに、あまたの御遺言ありし中に、この院の御こと、
(いまのうちのおんことなむ、とりわきてのたまひおきしを、おほやけとなりて、)
今の内裏の御ことなむ、取り分きてのたまひ置きしを、公けとなりて、
(ことかぎりありければ、うちうちのおんこころよせは、かはらずながら、)
こと限りありければ、 うちうちの御心寄せは、変らずながら、
(はかなきことのあやまりに、こころおかれたてまつることもありけむとおもふを、)
はかなきことのあやまりに、心おかれたてまつることもありけむと思ふを、
(としごろことにふれて、そのうらみのこしたまへるけしきをなむもらしたまはぬ。)
年ごろことに触れて、その恨み残したまへるけしきをなむ漏らしたまはぬ。
(さかしきひとといへど、みのうへになりぬれば、ことたがひて、こころうごき、)
賢しき人といへど、身の上になりぬれば、こと違ひて、心動き、
(かならずそのむくいみえ、ゆがめることなむ、いにしへだにおほかりける。)
かならずその報い見え、ゆがめることなむ、いにしへだに多かりける。
(いかならむをりにか、そのおんこころばへほころぶべからむと、)
いかならむ折にか、その御心ばへほころぶべからむと、
(よのひともおもむけうたがひけるを、つひにしのびすぐしたまひて、)
世の人もおもむけ疑ひけるを、つひに忍び過ぐしたまひて、
(とうぐうなどにもこころをよせきこえたまふ。いまはた、またなくしたしかるべきなかとなり、)
春宮などにも心を寄せきこえたまふ。今はた、またなく親しかるべき仲となり、
(むつびかはしたまへるも、かぎりなくこころにはおもひながら、ほんしやうのおろかなるにそへて、)
睦び交はしたまへるも、限りなく心には思ひながら、本性の愚かなるに添へて、
(このみちのやみにたちまじり、かたくななるさまにやとて、)
子の道の闇にたち交じり、かたくななるさまにやとて、
(なかなかよそのことにきこえはなちたるさまにてはべる。)
なかなかよそのことに聞こえ放ちたるさまにてはべる。
(うちのおんことは、かのごゆいごんたがへずつかうまつりおきてしかば、)
内裏の御ことは、かの御遺言違へず仕うまつりおきてしかば、
(かくすえのよのあからけききみとして、こしかたのおんおもてをもおこしたまふ。)
かく末の世の明らけき君として、来しかたの御面をも起こしたまふ。
(ほいのごと、いとうれしくなむ。)
本意のごと、いとうれしくなむ。
(このあきのみゆきののち、いにしへのこととりそへて)
この秋の行幸の後、いにしへのこととり添へて
(ゆかしくおぼつかなくなむおぼえたまふ。たいめにきこゆべきことどもはべり。)
ゆかしくおぼつかなくなむおぼえたまふ。 対面に聞こゆべきことどもはべり。
(かならずみづからとぶらひものしたまふべきよし、もよほしまうしたまへ」)
かならずみづから訪らひものしたまふべきよし、もよほし申したまへ」
(など、うちしほたれつつのたまはす。)
など、うちしほたれつつのたまはす。
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