人でなしの恋8

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(し)

(どぞうのにかいでしょけんをするというのはすこしふうがわりともうせ、べつだんとがむべきこと)

土蔵の二階で書見をするというのは少し風変りと申せ、別段とがむべきこと

(でもなく、なんのあやしいわけもない、といちおうはそうおもうのですけれど、またかんがえなおせば)

でもなく、何の怪しい訳もない、と一応はそう思うのですけれど、又考え直せば

(わたしとしましては、できるだけきをくばって、かどののいっきょいちどうをかんしもし、あのひとの)

私としましては、出来るだけ気を配って、門野の一挙一動を監視もし、あの人の

(もちものなどもしらべましたのに、なんのかわったところもなく、それで、いっぽうではあの)

持物なども検べましたのに、何の変った所もなく、それで、一方ではあの

(ぬけがらのあいじょう、うつろのめ、そしてときにはわたしのそんざいをすらわすれたかとみえる)

抜けがらの愛情、うつろの目、そして時には私の存在をすら忘れたかと見える

(ものおもいでございましょう。もうくらのにかいをうたがいでもするほかには、なんのてだても)

物思いでございましょう。もう蔵の二階を疑いでもする外には、何のてだても

(のこっていないのでございます。それにみょうなのは、あのひとがくらへいきますのが、)

残っていないのでございます。それに妙なのは、あの人が蔵へ行きますのが、

(きまってよふけなことで、ときにはとなりにねていますわたしのねいきをうかがうようにして、)

極って夜更けなことで、時には隣に寝ています私の寝息を窺う様にして、

(こっそりととこのなかをぬけだして、おこようにでもいらっしったのかと)

こっそりと床の中を抜け出して、御小用にでもいらっしったのかと

(おもっていますと、そのままながいあいだかえっていらっしゃらない。えんがわにでてみれば、)

思っていますと、そのまま長い間帰っていらっしゃらない。縁側に出て見れば、

(どぞうのまどから、ぼんやりとあかりがついているのでございます。なんとなく)

土蔵の窓から、ぼんやりとあかりがついているのでございます。何となく

(すごいような、いうにいわれないかんじにうたれることがしばしばなのでございます。)

凄い様な、いうにいわれない感じに打たれることが屡々なのでございます。

(どぞうだけは、およめいりのとうじ、ひとまわりなかをみせてもらいましたのとじこうのかわりめに)

土蔵だけは、お嫁入りの当時、一巡中を見せて貰いましたのと時候の変り目に

(いちにどはいったばかりで、たとえ、そこへかどのがとじこもっていましても、まさか、)

一二度入ったばかりで、たとえ、そこへ門野がとじ籠っていましても、まさか、

(くらのなかにわたしをうとうとしくするげんいんがひそんでいようともかんがえられませんので、)

蔵の中に私をうとうとしくする原因がひそんでいようとも考えられませんので、

(べつだん、あとをつけてみたこともなく、したがってくらのにかいだけが、これまで、わたしの)

別段、あとをつけて見たこともなく、従って蔵の二階だけが、これまで、私の

(かんしをのがれていたのでございますが、それをすら、いまはうたがいのめをもって)

監視を脱れていたのでございますが、それをすら、今は疑いの目を以て

(みなければならなくなったのでございます。およめいりをしましたのがはるのなかば、)

見なければならなくなったのでございます。お嫁入りをしましたのが春の半、

(おっとにうたがいをいだきはじめましたのがそのあきのちょうどめいげつじぶんでございました。)

夫に疑いを抱き始めましたのがその秋の丁度名月時分でございました。

など

(いまでもふしぎにおぼえていますのは、かどのがえんがわにむこうむきにうずくまって、あおじろい)

今でも不思議に覚えていますのは、門野が縁側に向うむきに蹲って、青白い

(げっこうにあらわれながら、ながいあいだじっとものおもいにふけっていた、あのうしろすがた、それを)

月光に洗われながら、長い間じっと物思いに耽っていた、あのうしろ姿、それを

(みて、どういうわけか、みょうにむねをうたれましたのが、あのぎわくのきっかけに)

見て、どういう訳か、妙に胸を打たれましたのが、あの疑惑のきっかけに

(なったのでございます。それから、やがてそのうたがいがふかまっていき、ついには、)

なったのでございます。それから、やがてその疑いが深まって行き、遂には、

(あさましくも、かどののあとをつけて、どぞうのなかへはいるまでになったのが、)

あさましくも、門野のあとをつけて、土蔵の中へ入るまでになったのが、

(そのあきのおわりのことでございました。なんというはかないえにしでありましょう。)

その秋の終りのことでございました。何というはかない縁でありましょう。

(あのようにもわたしをうちょうてんにさせた、おっとのふかいあいじょうが(さきにももうすとおり、それは)

あの様にも私を有頂天にさせた、夫の深い愛情が(先にも申す通り、それは

(けっしてほんとうのあいじょうではなかったのですけれど)たったはんとしのあいだにさめてしまって)

決して本当の愛情ではなかったのですけれど)たった半年の間にさめてしまって

(わたしはこんどはたまてばこをあけたうらしまたろうのように、うまれてはじめてのとうすいきょうから、)

私は今度は玉手箱をあけた浦島太郎の様に、生れて初めての陶酔境から、

(はっとめざめると、そこにはおそろしいぎわくとしっとの、むげんじごくがくちをひらいて)

ハッと眼覚めると、そこには恐しい疑惑と嫉妬の、無限地獄が口を開いて

(まっていたのでございます。)

待っていたのでございます。

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