日記帳6 江戸川乱歩
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | pechi | 6100 | A++ | 6.8 | 90.1% | 257.2 | 1761 | 192 | 27 | 2024/09/29 |
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問題文
(そうかんがえて、おとうとのはがきをだしたひづけをみますと、そこになにかいみが)
そう考えて、弟の葉書を出した日附を見ますと、そこに何か意味が
(ありそうにおもわれます。もしやかれはあんごうのこいぶみをかいたのではないでしょうか。)
あり相に思われます。若しや彼は暗号の恋文を書いたのではないでしょうか。
(そして、このはがきのひづがそのあんごうぶんをかたちづくっているのではありますまいか。)
そして、この葉書の日附がその暗号文を形造っているのではありますまいか。
(これは、おとうとのひみつをこのむせいしつだったことからおして、)
これは、弟の秘密を好む性質だったことから推して、
(まんざらありえないことではないのです。)
満更あり得ないことではないのです。
(そこで、わたしはひづけのすうじが「いろは」か「あいうえお」か「abc」か、)
そこで、私は日附の数字が「いろは」か「アイウエオ」か「ABC」か、
(いずれかのもじのじゅんじょをしめすものではないかといちいちためしてみました。)
いずれかの文字の順序を示すものではないかと一々試して見ました。
(こうかふこうかわたしはあんごうかいどくについていくらかけいけんがあったのです。)
幸か不幸か私は暗号解読についていくらか経験があったのです。
(すると、どうでしょう。さんがつここのかはあるふぁべっとのだいきゅうばんめのi、)
すると、どうでしょう。三月九日はアルファベットの第九番目のI、
(おなじくじゅうににちはだいじゅうにばんめの、l、そういうふうにあてはめていきますと、)
同じく十二日は第十二番目の、L、そういう風にあてはめて行きますと、
(このやっつのひづけは、なんとiloveyouととくことが)
この八つの日附は、なんとI LOVE YOU と解くことが
(できるではありませんか。ああ、なんというこどもらしい、どうじに、)
出来るではありませんか。ああ、何という子どもらしい、同時に、
(よにもしんぼうづよいこいぶみだったのでしょう。かれはこの「わたしはあなたをあいする」という)
世にも辛抱強い恋文だったのでしょう。彼はこの「私はあなたを愛する」という
(たったひとことをつたえるために、たっぷりさんかげつのにっしをついやしたのです。)
たった一言を伝える為に、たっぷり三ヶ月の日子を費やしたのです。
(ほんとうにうそのようなはなしです。でも、おとうとのいようなせいへきをじゅくちしていたわたしには、)
ほんとうにうその様な話しです。でも、弟の異様な性癖を熟知していた私には、
(これがぐうぜんにふごうだななどとは、どうにもかんがえられないのでした。)
これが偶然に符合だななどとは、どうにも考えられないのでした。
(かようにすいさつすればいっさいがめいはくになります。「しつぼう」といういみもわかります。)
か様に推察すれば一切が明白になります。「失望」という意味も分ります。
(かれがさいごのuのじにあたるはがきをだしたのにたいして、ゆきえさんはあいかわらず)
彼が最後のUの字に当る葉書を出したのに対して、雪枝さんは相変わらず
(むいみなえはがきをむくいたのです。しかも、それはちょうど、おとうとがいしゃからの)
無意味な絵葉書をむくいたのです。しかも、それはちょうど、弟が医者からの
(あのいまわしいやまいをせんこくせられたじぶんなのでした。かわいそうなかれは、)
あのいまわしい病を宣告せられた時分なのでした。可哀想な彼は、
(このにじゅうのいたでにもはやふたたびこいぶみをかくきになれなかったのでしょう。)
この二重の痛手に最早再び恋文を書く気になれなかったのでしょう。
(そして、だれにもうちあけなかった、とうのこいびとにさえ、うたけはしたけれど、)
そして、誰にも打開けなかった、当の恋人にさえ、打開けはしたけれど、
(そのいしのつうじなかったせつないおもいをいだいて、しんでいったのです。)
その意志の通じなかった切ない思いを抱いて、死んで行ったのです。
(わたしはいいしれぬくらいきもちにおそわれて、じっとそこにすわったままたちあがろうとも)
私はいい知れぬ暗い気持に襲われて、じっとそこに坐ったまま立上がろうとも
(しませんでした。そして、まえにあったゆきえさんからのえはがきを、)
しませんでした。そして、前にあった雪枝さんからの絵葉書を、
(おとうとがてぶんこのそこふかくひめていたそれらのえはがきを、)
弟が手文庫の底深くひめていたそれらの絵葉書を、
(なにのゆえもなくぼんやりみつめていました。)
何の故もなくボンヤリ見つめていました。