日記帳7 江戸川乱歩
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | pechi | 6967 | S++ | 7.6 | 92.0% | 250.6 | 1910 | 164 | 30 | 2024/09/29 |
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問題文
(すると、おお、これはまあなんといういがいなじじつでしょう。ろくでもないこうきしんよ)
すると、おお、これはまあ何という意外な事実でしょう。ろくでもない好奇心よ
(のろわれてあれ。わたしはいっそすべてをしらないでいたほうが、)
のろわれてあれ。私はいっそ凡てを知らないでいた方が、
(どれほどよかったことか、このゆきえさんからのえはがきのおもてには、)
どれ程良かったことか、この雪枝さんからの絵葉書の表には、
(きれいなもじでおとうとのあてながかかれたわきに、ひとつのれいがいもなく、)
綺麗な文字で弟の宛名が書かれたわきに、一つの例外もなく、
(きってがななめにはってあるではありませんか。わざとでなければできないように、)
切手がななめにはってあるではありませんか。態とでなければ出来ない様に、
(きちんとぎょうぎよく、ななめにはってあるではありませんか。)
キチンと行儀よく、ななめにはってあるではありませんか。
(それはけっしてぐうぜんのそそうなぞではないのです。)
それは決して偶然の粗相なぞではないのです。
(わたしはずっといぜん、たぶんしょうがくじだいだったとおもいます。あるぶんがくざっしに)
私はずっと以前、多分小学時代だったと思います。ある文学雑誌に
(きってのはりかたによってひみつつうしんをするほうほうがかいてあったのを、)
切手の貼り方によって秘密通信をする方法が書いてあったのを、
(もうそのころからこうきしんのつよいおとこだったとみえて、よくおぼえていました。)
もうその頃から好奇心の強い男だったと見えて、よく覚えていました。
(なかにも、こいをあらわすにはきってをななめにはればよいというところは、)
中にも、恋を現すには切手をななめにはればよいという所は、
(じつはいちどおうようしてみたことがあるほどで、けっしてわすれません。)
実は一度応用して見た事がある程で、決して忘れません。
(このほうほうはとうじのせいねんだんじょのにんきにとうじて、ずいぶんりゅうこうしたものです。)
この方法は当時の青年男女の人気に投じて、随分流行したものです。
(しかしそんなふるいじだいのりゅうこうを、いまのわかいおんながしっていようはずは)
しかしそんな古い時代の流行を、今の若い女が知っていようはずは
(ありませんが、ちょうどゆきえさんとおとうととのぶんつうがおこなわれたじぶんに、)
ありませんが、ちょうど雪枝さんと弟との文通が行われた時分に、
(うのこうじの「ふたりのあおきあいざぶろう」というしょうせつがでて、そのなかにこのほうほうが)
宇野浩二の「二人の青木愛三郎」という小説が出て、その中にこの方法が
(くわしくかいてあったのです。とうじわたしたちのあいだにわだいになったほどですから、)
くわしく書いてあったのです。当時私達の間に話題になった程ですから、
(おとうともゆきえさんも、それをよくしっていたはずです。)
弟も雪枝さんも、それをよく知っていたはずです。
(では、おとうとはそのほうほうをしっていながら、ゆきえさんがさんかげつもおなじことを)
では、弟はその方法を知っていながら、雪枝さんが三月も同じことを
(くりかえして、ついにはしつぼうしてしまうまでも、かのじょのこころもちをさとることが)
繰返して、遂には失望してしまうまでも、彼女の心持を悟ることが
(できなかったのはどういうわけなのでしょう。そのてんはわたしにもわかりません。)
できなかったのはどういう訳なのでしょう。その点は私にもわかりません。
(あるいはわすれてしまっていたのかもしれません。それともまた、)
あるいは忘れてしまっていたのかも知れません。それともまた、
(きってのはりかたなどにはきづかないほど、のぼせきっていたのかもしれません。)
切手のはり方などには気づかない程、のぼせ切ていたのかも知れません。
(いずれにしても、「しつぼう」などとかいているからは、)
いずれにしても、「失望」などと書いているからは、
(かれがそれにきづいていなかったことはたしかです。)
彼がそれに気づいていなかったことは確です。
(それにして、いまのよにかくもこふうなこいがあるものでしょうか。)
それにして、今の世にかくも古風な恋があるものでしょうか。
(もしわたしのすいさつがあやまらぬとすれば、かれらはおたがいにこいしあっていながら、)
若し私の推察が誤らぬとすれば、彼等はお互に恋しあっていながら、
(このこいをうったえあってさえいながら、しかしそうほうともすこしもあいてのこころをしらずに、)
この恋を訴えあってさえいながら、しかし双方とも少しも相手の心を知らずに、
(ひとりはいたでをおうたままこのよをさり、ひとりはかなしいしつれんのおもいをいだいて)
一人は痛手を負うたままこの世を去り、一人は悲しい失恋の思いを抱いて
(ながいしょうがいをくらさねばならぬとは。)
長い生がいを暮さねばならぬとは。