「野分」夏目漱石 4
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問題文
(てんかにしたしきものがただひとりあって、ただこのひとりよりほかにしたしきものを)
天下に親しきものがただ一人あって、ただこの一人よりほかに親しきものを
(みいだしえぬとき、このひとりはおやでもある、きょうだいでもある。さてはあいじんである。)
見出し得ぬとき、この一人は親でもある、兄弟でもある。さては愛人である。
(たかやなぎくんはたんなるほうゆうをもってなかのくんをもくしてはおらぬ。そのなかのくんがわがふへいを)
高柳君は単なる朋友をもって中野君を目してはおらぬ。その中野君がわが不平を
(のこりなくきいてくれぬのはざんねんである。とちゅうでゆうだちにあっておもうところへいかずに)
残りなく聞いてくれぬのは残念である。途中で夕立に逢って思う所へ行かずに
(ひきかえしたようなものである。のこりなくきいてくれぬうえに、のんきないしゃを)
引き返したようなものである。残りなく聞いてくれぬ上に、呑気な慰藉を
(かぶせられるのはなおさらざんねんだ。うみをだしてくれとたのんだしゅもつを、いいかげんの)
かぶせられるのはなおさら残念だ。膿を出してくれと頼んだ腫物を、いい加減の
(まわたで、なでまわされたってむずがゆいばかりである。)
真綿で、撫で廻わされたってむず痒いばかりである。
(しかしこうおもうのはたかやなぎくんのむりである。おひなさまにげいしゃのたてひきがないと)
しかしこう思うのは高柳君の無理である。御雛様に芸者の立て引きがないと
(いってこうげきするのはおひなさまのこいをかいせぬもののいいぐさである。なかのくんはふゆうな)
云って攻撃するのは御雛様の恋を解せぬものの言草である。中野君は富裕な
(めいもんにうまれて、あたたかいかていにそだったほか、うきよのあめかぜは、こたつへあたって、)
名門に生れて、暖かい家庭に育ったほか、浮世の雨風は、炬燵へあたって、
(えんがわのがらすどごしにながめたばかりである。ゆうぜんのもようはわかる、きんびょうのさえも)
椽側の硝子戸越に眺めたばかりである。友禅の模様はわかる、金屏の冴えも
(かいせる、ぎんしょくのかがやきもまばゆくおもう。いきたおんなのうつくしさはなおさらにめにうつる。)
解せる、銀燭の耀きもまばゆく思う。生きた女の美しさはなおさらに眼に映る。
(おやのおん、きょうだいのじょう、ほうゆうのしん、これらをしらぬほどのぼっきょうかんではむろんない。ただ)
親の恩、兄弟の情、朋友の信、これらを知らぬほどの木強漢では無論ない。ただ
(かれのすむはんきゅうにはいままでいつでもひがてっていた。ひのてっているはんきゅうにすんで)
彼の住む半球には今までいつでも日が照っていた。日の照っている半球に住んで
(いるものが、かたあしをとんとちについて、このあしのしたにまっくらなはんきゅうがあるときが)
いるものが、片足をとんと地に突いて、この足の下に真暗な半球があると気が
(つくのはちりがくをならったときばかりである。たまにはあるいていて、きがつかぬとも)
つくのは地理学を習った時ばかりである。たまには歩いていて、気がつかぬとも
(かぎらぬ。しかしさぞくらいことだろうとみにしみてぞっとすることはあるまい。)
限らぬ。しかしさぞ暗い事だろうと身に沁みてぞっとする事はあるまい。
(たかやなぎくんはこのくらいところにさびしくすんでいるにんげんである。なかのくんとはただだいちを)
高柳君はこの暗い所に淋しく住んでいる人間である。中野君とはただ大地を
(ふまえるあしのうらがむきあっているというほかになんらのこうしょうもない。)
踏まえる足の裏が向き合っているというほかに何らの交渉もない。
(ぬいあわされたおおしまのおもてとちちぶのうらとはおぼつかなきはりのめをしのんでつなぐ、ほそいいとの)
縫い合わされた大島の表と秩父の裏とは覚束なき針の目を忍んで繋ぐ、細い糸の
(おかげである。このほそいものを、するするとぬけばかごしまけんとさいたまけんのあいだには)
御蔭である。この細いものを、するすると抜けば鹿児島県と埼玉県の間には
(いぜんとしてなんびゃくりのさんががよこたわっている。はをやんだことのないものに、はの)
依然として何百里の山河が横たわっている。歯を病んだ事のないものに、歯の
(いたみをもっていくよりも、はやくはいしゃにかけつけるのがちかみちだ。そう)
痛みを持って行くよりも、早く歯医者に馳けつけるのが近道だ。そう
(いたがらんでもいいさといわれるびょうにんは、けっしていしゃをうけたとはおもうまい。)
痛がらんでもいいさと云われる病人は、けっして慰藉を受けたとは思うまい。
(「きみなどはひかんするひつようがないからけっこうだ」と、びすてきをはんぶんでだんねんした)
「君などは悲観する必要がないから結構だ」と、ビステキを半分で断念した
(たかやなぎくんはしきしまをふかしながら、あいてのかおをながめた。あいてはくちをもがもが)
高柳君は敷島をふかしながら、相手の顔を眺めた。相手は口をもがもが
(させながら、みぎのてをくびとともにさゆうにふったのは、たかやなぎくんにどういをひょうしないのと)
させながら、右の手を首と共に左右に振ったのは、高柳君に同意を表しないのと
(みえる。「ぼくがひかんするひつようがない?ひかんするひつようがないとすると、つまり)
見える。「僕が悲観する必要がない? 悲観する必要がないとすると、つまり
(おめでたいにんげんといういみになるね」)
おめでたい人間と云う意味になるね」
(たかやなぎくんはおぼえず、うすいくちびるをうごかしかけたが、かすかなさざなみはほおまでひろがらぬさきに)
高柳君は覚えず、薄い唇を動かしかけたが、微かな漣は頬まで広がらぬ先に
(きえた。あいてはなおことばをつづける。「ぼくだってさんねんもだいがくにいてたしょうのてつがくしょ)
消えた。相手はなお言葉をつづける。「僕だって三年も大学にいて多少の哲学書
(やぶんがくしょをよんでるじゃないか。こうみえてもよのなかが、どれほどひかんすべき)
や文学書を読んでるじゃないか。こう見えても世の中が、どれほど悲観すべき
(ものであるかぐらいはしってるつもりだ」「しょもつのうえでだろう」とたかやなぎくんはたかい)
ものであるかぐらいは知ってるつもりだ」「書物の上でだろう」と高柳君は高い
(やまからたにぞこをみおろしたようにいう。「しょもつのうえーーしょもつのうえではむろんだが、)
山から谷底を見下ろしたように云う。「書物の上ーー書物の上では無論だが、
(じっさいだって、これでなかなかくつうもありはんもんもあるんだよ」「だって、せいかつには)
実際だって、これでなかなか苦痛もあり煩悶もあるんだよ」「だって、生活には
(こまらないし、じかんはじゅうぶんあるし、べんきょうはしたいだけできるし、じっさくはおもうとおりに)
困らないし、時間は充分あるし、勉強はしたいだけ出来るし、述作は思う通りに
(やれるし。ぼくにくらべるときみはじつにこうふくだ」とたかやなぎくんこんどはさもうらやましそうに)
やれるし。僕に較べると君は実に幸福だ」と高柳君今度はさも羨ましそうに
(たんそくする。「ところがりめんはなかなかそんなきらくなんじゃないさ。これでも)
嘆息する。「ところが裏面はなかなかそんな気楽なんじゃないさ。これでも
(いろいろしんぱいがあって、いやになるのだよ」となかのくんはしいてしんぱいのしょゆうけんを)
いろいろ心配があって、いやになるのだよ」と中野君は強いて心配の所有権を
(しゅちょうしている。「そうかなあ」とあいては、なかなかしんじない。「そうきみまで)
主張している。「そうかなあ」と相手は、なかなか信じない。「そう君まで
(ちゃかしちゃ、いよいよつまらなくなる。じつはきょうあたり、きみのところへでも)
茶かしちゃ、いよいよつまらなくなる。実は今日あたり、君の所へでも
(でかけて、おおいにどうじょうしてもらおうかとおもっていたところさ」「わけを)
出掛けて、大に同情してもらおうかと思っていたところさ」「訳を
(きかせなくっちゃどうじょうもできないね」「わけはだんだんはなすよ。あんまり、)
きかせなくっちゃ同情も出来ないね」「訳はだんだん話すよ。あんまり、
(くさくさするから、こうやってさんぽにきたくらいなものさ。ちっとは)
くさくさするから、こうやって散歩に来たくらいなものさ。ちっとは
(さっしるがいい」)
察しるがいい」
(たかやなぎくんはこんどはこうぜんとにやにやとわらった。ちっとはさっしるつもりでも、)
高柳君は今度は公然とにやにやと笑った。ちっとは察しるつもりでも、
(さっしようがないのである。「そうして、きみはまたなんでいまごろこうえんなんかさんぽ)
察しようがないのである。「そうして、君はまたなんで今頃公園なんか散歩
(しているんだね」となかのくんはしょうめんからたかやなぎくんのかおをみたが、「や、きみのかおは)
しているんだね」と中野君は正面から高柳君の顔を見たが、「や、君の顔は
(みょうだ。ひのさしているみぎがわのほうはたいへんけっしょくがいいが、かげになってるほうはひじょうに)
妙だ。日の射している右側の方は大変血色がいいが、影になってる方は非常に
(いろつやがわるい。きみょうだな。はなをさかいにむじゅんがにらめこをしている。ひげきときげきのかめんを)
色沢が悪い。奇妙だな。鼻を境に矛盾が睨めこをしている。悲劇と喜劇の仮面を
(はんはんにつぎあわせたようだ」といきもつがず、のべたてた。)
半々につぎ合せたようだ」と息もつがず、述べ立てた。
(このむしんのひょうをきいた、たかやなぎくんはこころのひみつをかおのうえでよまれたように、はっと)
この無心の評を聞いた、高柳君は心の秘密を顔の上で読まれたように、はっと
(おもうと、みぎのてでひたいのほうからあごのあたりまで、ぐるりとなでまわした。こうして)
思うと、右の手で額の方から顋のあたりまで、ぐるりと撫で廻わした。こうして
(かおのうえのむじゅんをかきまぜるつもりなのかもしれない。「いくらてんきが)
顔の上の矛盾をかき混ぜるつもりなのかも知れない。「いくら天気が
(よくっても、さんぽなんかするひまはない。きょうはしんばしのさきまでいしつひんをさがしに)
よくっても、散歩なんかする暇はない。今日は新橋の先まで遺失品を探がしに
(いってそのかえりがけにちょっとついでだから、ここでやすんでいこうとおもって)
行ってその帰りがけにちょっとついでだから、ここで休んで行こうと思って
(きたのさ」とかおをかきまわしたてをあごのしたへかっていぜんとしてうかぬようすをする。)
来たのさ」と顔を攪き廻した手を顎の下へかって依然として浮かぬ様子をする。
(ひげきのめんときげきのめんをまぜかえしたからつうれいのかおになるはずであるのに、みょうに)
悲劇の面と喜劇の面をまぜ返えしたから通例の顔になるはずであるのに、妙に
(にごったものができあがってしまった。)
濁ったものが出来上ってしまった。
(「いしつひんて、なにをおとしたんだい」「きのうでんしゃのなかでそうこうをうしなってーー」「そうこう?)
「遺失品て、何を落したんだい」「昨日電車の中で草稿を失ってーー」「草稿?
(そりゃたいへんだ。ぼくはかきあげたげんこうがざっしへでるまではしんぱいでたまらない。)
そりゃ大変だ。僕は書き上げた原稿が雑誌へ出るまでは心配でたまらない。
(じっさいそうこうなんてものは、われわれにとって、いのちよりたいせつなものだからね」「なに、)
実際草稿なんてものは、吾々に取って、命より大切なものだからね」「なに、
(そんなたいせつなそうこうでもかけるひまがあるようだといいんだけれどもーーだめだ」)
そんな大切な草稿でも書ける暇があるようだといいんだけれどもーー駄目だ」
(とじぶんをけいべつしたようなくちょうでいう。「じゃなんのそうこうだい」「ちりきょうじゅほうの)
と自分を軽蔑したような口調で云う。「じゃ何の草稿だい」「地理教授法の
(やくだ。あしたまでにとどけるはずにしてあるのだから、いまなくなっちゃげんこうりょうも)
訳だ。あしたまでに届けるはずにしてあるのだから、今なくなっちゃ原稿料も
(もらえず、またやりなおさなくっちゃならず、じつにいやになっちまう」「それで、)
貰えず、またやり直さなくっちゃならず、実に厭になっちまう」「それで、
(さがしにいってもでてこないのかい」「こない」「どうしたんだろう」)
探がしに行っても出て来ないのかい」「来ない」「どうしたんだろう」
(「おおかたしゃしょうが、うちへもっていって、はたきでもこしらえたんだろう」)
「おおかた車掌が、うちへ持って行って、はたきでも拵えたんだろう」
(「まさか、しかしでなくっちゃこまるね」「こまるなあじぶんのふちゅういとがまんするが、)
「まさか、しかし出なくっちゃ困るね」「困るなあ自分の不注意と我慢するが、
(そのいしつひんがかりのいやなやつだことってーーじつにふしんせつで、けいしきてきでーーまるではんこうに)
その遺失品係りの厭な奴だ事ってーー実に不親切で、形式的でーーまるで版行に
(おしたようなことをぺらぺらとひととおりのべたがいじょう、なにをきいてもしりません)
おしたような事をぺらぺらと一通り述べたが以上、何を聞いても知りません
(しりませんでもちきっている。あいつはにじゅっせいきのにほんじんをだいひょうしているもはんてき)
知りませんで持ち切っている。あいつは廿世紀の日本人を代表している模範的
(じんぶつだ。あすこのしゃちょうもきっとあんなやつにちがない」「ひどくしゃくにさわった)
人物だ。あすこの社長もきっとあんな奴に違ない」「ひどく癪に障った
(ものだね。しかしよのなかはそのいしつひんがかりのようなのばかりじゃないから)
ものだね。しかし世の中はその遺失品係りのようなのばかりじゃないから
(いいじゃないか」「もうすこしにんげんらしいのがいるかい」「ひにくなことをいう」)
いいじゃないか」「もう少し人間らしいのがいるかい」「皮肉な事を云う」
(「なによのなかがひにくなのさ。いまのよのなかはれいこくのきょうしんかいみたようなものだ」)
「なに世の中が皮肉なのさ。今の世のなかは冷酷の競進会見たようなものだ」
(といいながらのみかけの「しきしま」をにかいのらんかんから、したへなげるとたんに、)
と云いながら呑みかけの「敷島」を二階の欄干から、下へ抛げる途端に、
(ありがとうというこえがして、ぬっとかどぐちをでたふたりづれのなかおれぼうのうえへ、うまい)
ありがとうと云う声がして、ぬっと門口を出た二人連の中折帽の上へ、うまい
(ぐあいにもえがらがのっかった。おとこはぼうしからけむりをはいてとくいになっていく。)
具合に燃殻が乗っかった。男は帽子から煙を吐いて得意になって行く。
(「おい、ひどいことをするぜ」となかのくんがいう。「なにあやまちだ。ーーありゃ、)
「おい、ひどい事をするぜ」と中野君が云う。「なに過ちだ。ーーありゃ、
(さっきのじつぎょうかだ。かまうもんかほうっておけ」「なるほどさっきのおとこだ。なんで)
さっきの実業家だ。構うもんか抛って置け」「なるほどさっきの男だ。何で
(いままでぐずぐずしていたんだろう。したでたまでもついていたのかしらん」「どうせ)
今までぐずぐずしていたんだろう。下で球でも突いていたのか知らん」「どうせ
(いしつひんがかりのどうるいだからなんでもするだろう」「そらきがついたーーぼうしをとって)
遺失品係りの同類だから何でもするだろう」「そら気がついたーー帽子を取って
(はたいている」「ははははこっけいだ」とたかやなぎくんはゆかいそうにわらった。「ずいぶんひとが)
はたいている」「ハハハハ滑稽だ」と高柳君は愉快そうに笑った。「随分人が
(わるいなあ」となかのくんがいう。「なるほどよくないね。ぐうぜんとはもうしながら、)
悪いなあ」と中野君が云う。「なるほど善くないね。偶然とは申しながら、
(あんなことでかたきをうつのはかとうだ。こんなまねをしてうれしがるようではぶんがくしの)
あんな事で仇を打つのは下等だ。こんな真似をして嬉しがるようでは文学士の
(ねうちもめちゃめちゃだ」とたかやなぎくんはしゅんじにしてまたもとのうかぬかおにかえる。)
価値もめちゃめちゃだ」と高柳君は瞬時にしてまた元の浮かぬ顔にかえる。
(「そうさ」となかのくんはひなんするようなさんせいするようなへんじをする。「しかし)
「そうさ」と中野君は非難するような賛成するような返事をする。「しかし
(ぶんがくしはなまえだけで、そのじつはひっこうだからな。ぶんがくしにもなって、ちりきょうじゅほうの)
文学士は名前だけで、その実は筆耕だからな。文学士にもなって、地理教授法の
(ほんやくのしたばたらきをやってるようじゃ、こころぼそいわけだ。これでもぼくがそつぎょうしたら、)
翻訳の下働きをやってるようじゃ、心細い訳だ。これでも僕が卒業したら、
(そつぎょうしたらってまっててくれたおやもあるんだからな。かんがえるときのどくなものだ。)
卒業したらって待っててくれた親もあるんだからな。考えると気の毒なものだ。
(このようすじゃいつまでまっててくれたってしかたがない」「まだそつぎょうした)
この様子じゃいつまで待っててくれたって仕方がない」「まだ卒業した
(ばかりだから、そうきゅうにゆうめいにはなれないさ。そのうちりっぱなさくぶつをだして、)
ばかりだから、そう急に有名にはなれないさ。そのうち立派な作物を出して、
(おおいにほんりょうをはっきするときにてんかはわれわれのものとなるんだよ」「いつのことやら」)
大に本領を発揮する時に天下は我々のものとなるんだよ」「いつの事やら」
(「そうせいたって、いけない。おいおいしんちんたいしゃしてくるんだから、なんでもきを)
「そう急いたって、いけない。追々新陳代謝してくるんだから、何でも気を
(ながくしてしりをすえてかからなくっちゃ、だめだ。なに、せけんじゃおいおいわれわれの)
永くして尻を据えてかからなくっちゃ、駄目だ。なに、世間じゃ追々我々の
(しんかをみとめてくるんだからね。ぼくなんぞでも、こうやってしじゅうかいていると)
真価を認めて来るんだからね。僕なんぞでも、こうやって始終書いていると
(すこしはひとのくちにのるからね」)
少しは人の口に乗るからね」