「毒草」1 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「毒草」です。
今はあまり使われていない漢字や、読み方、表現などがありますが、原文のままです。

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問題文

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(よくはれたあきのいちにちであった。なかのよいともだちがたずねてきて、ひとしきりはなしが)

よく晴れた秋の一日であった。仲のよい友達が訪ねて来て、一しきり話が

(はずんだあとで、「きもちのいいてんきじゃないか。どうだ、そこいらをすこし)

はずんだあとで、「気持のいい天気じゃないか。どうだ、そこいらを少し

(あるこうか」ということになって、わたしとそのともだちとは、わたしのいえはばすえに)

歩こうか」ということになって、私とその友達とは、私の家は場末に

(あったので、ちかくのひろっぱへとさんぽにでかけたことであった。ざっそうのおいしげった)

あったので、近くの広っぱへと散歩に出掛けたことであった。雑草の生い茂った

(ひろっぱには、ひるまでもあきのむしがちろちろとないていた。くさのなかをいっしゃくばかりの)

広っぱには、昼間でも秋の虫がチロチロと鳴いていた。草の中を一尺ばかりの

(おがわがながれていたりした。ところどころにはこだかいおかもあった。わたしたちはとあるおかの)

小川が流れていたりした。所々には小高い丘もあった。私達はとある丘の

(ちゅうふくにこしをおろして、いってんのくももなくすみわたっているそらをながめたり、あるいはまた、)

中腹に腰をおろして、一点の雲もなくすみ渡っている空を眺めたり、或は又、

(すぐあしのしたにながれている、みぞのようなおがわや、そのきしにはえているさまざまの、)

すぐ足の下に流れている、溝の様な小川や、その岸に生えている様々の、

(みればみるほど、むすうのしゅるいの、ちいさいざっそうをながめたり、そして「あああきだなあ」)

見れば見る程、無数の種類の、小さい雑草を眺めたり、そして「アア秋だなあ」

(とためいきをついてみたり、ながいあいだひとつところにじっとしていたものである。)

とため息をついて見たり、長い間一つ所にじっとしていたものである。

(すると、ふとわたしは、やはりおがわのきしのじめじめしたところにはえていた、ひとむらの)

すると、ふと私は、やはり小川の岸のじめじめした所に生えていた、一叢の

(あるしょくぶつにきがついたのである。「きみ、あれなんだかしっているか」)

ある植物に気がついたのである。「君、あれ何だか知っているか」

(そうともだちにきいてみると、かれは、いったいしぜんのふうぶつなどにはきょうみをもたぬおとこ)

そう友達に聞いて見ると、彼は、一体自然の風物などには興味を持たぬ男

(だったので、ぶあいそうに、「しらない」とこたえたばかりであった。が、いかに)

だったので、無愛想に、「知らない」と答えたばかりであった。が、如何に

(くさばなのきらいなかれも、このしょくぶつだけには、きっときょうみをもつにそういないわけが)

草花の嫌いな彼も、この植物丈けには、きっと興味を持つに相違ない訳が

(あった。いや、しぜんをかえりみないようなおとこにかぎって、このしょくぶつのもつ、)

あった。いや、自然を顧みない様な男に限って、この植物の持つ、

(あるすごみには、いっそうひきつけられるはずだった。そこで、わたしは、わたしのめずらしいちしきを)

ある凄味には、一層惹きつけられる筈だった。そこで、私は、私の珍しい知識を

(ほこるいみもあって、そのしょくぶつのようとについてせつめいをはじめたものである。)

誇る意味もあって、その植物の用途について説明を初めたものである。

(「それはばつばつばつばつといってね、どこにでもはえているものだ。べつにはげしいどくそうと)

「それは××××といってね、どこにでも生えているものだ。別に激しい毒草と

(いうわけでもない。ふつうのひとは、ただこうしてくさばなだとおもっている。)

いう訳でもない。普通の人は、ただこうして草花だと思っている。

など

(ちゅういもしない。ところが、このしょくぶつはだたいのみょうやくなんだよ。いまのようにいろいろな)

注意もしない。ところが、この植物は堕胎の妙薬なんだよ。今の様に色々な

(やくひんのないじぶんのだたいやくといえば、もうこれにきまっていたものだ。よくむかしの)

薬品のない時分の堕胎薬といえば、もうこれに極っていたものだ。よく昔の

(さんばなんかが、ひほうのおろしやくとしてもちいたのは、つまりこのくさなんだよ」)

産婆なんかが、秘宝のおろし薬として用いたのは、つまりこの草なんだよ」

(それをきくと、わたしのともだちはあんのじょう、おおいにこうきしんをおこしたものである。そして、)

それを聞くと、私の友達は案の定、大いに好奇心を起したものである。そして、

(いったいぜんたい、それはどういうほうほうでもちいるのだと、はなはだねっしんにききただすのであった。)

一体全体、それはどういう方法で用いるのだと、甚だ熱心に聞訊すのであった。

(わたしは「さては、さっそくいりようがあるとみえるね」などとからかいながら、)

私は「さては、早速入用があると見えるね」などとからかいながら、

(おしゃべりにも、そのくわしいほうほうをせつめいしたのである。)

お喋りにも、その詳敷い方法を説明したのである。

(「これをね、てのひらのはばだけへずりとるのだ。そしてかわをむいて、)

「これをね、手の平の幅だけ折り取るのだ。そして皮をむいて、

(そいつを・・・・・・」と、みぶりいりで、そういうひみつがかかったことは、)

そいつを・・・・・・」と、身振り入りで、そういう秘密がかかったことは、

(はなすほうでもまたおもしろいものだ、ふんふんとかんしんしてきいているともだちのかおを)

話す方でも又面白いものだ、フンフンと感心して聞いている友達の顔を

(ながめながめ、こまごまとせつめいしたのである。)

眺め眺め、こまごまと説明したのである。

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