華散里

(すれちがうかげにてをふりかさねる)

すれ違う影に 手を振り重ねる

(あさいまどろみおだやかにあさぼらけをおよぐ)

浅い微睡み 穏やかに 朝ぼらけを泳ぐ

(ひばりのさえずりそよぐじんちょうげ)

雲雀の囀り そよぐ沈丁花

(とこしえつげるしずけさもうすべにいろにちる)

とこしえ告げる静けさも 薄紅色に散る

(しののめのこもれびにゆれる)

東雲の木漏れ日に 揺れる

(やわらかなさわらびのほのかにあまく)

柔らかな早蕨の 仄かに甘く

(まれびとよはるのいぶきにいだかれであえたしゅくえんをいのりましょう)

客人よ 春の息吹に抱かれ 出逢えた宿縁を祈りましょう

(とものさかずきまじわせながらはららさくらばまう)

友の盃 交わせながら はらら 桜葉舞う

(さあここがとこよのかたすみならこころにひとはなさかせましょう)

さあ 此処が常世の片隅なら 心にひと華咲かせましょう

(うかぶはくちゅうのおぼろづきびろくがのどをさす)

浮かぶ白昼の朧月 美祿が喉を射す

(あすをつなぐみちたえぬひとのむれ)

明日を繋ぐ道 絶えぬ人の群れ

(とまるもゆくもかぜまかせちぎれたくもにきく)

止まるも行くも風任せ 千切れた雲に訊く

(かすみかかるみやまがはこぶ)

霞かかる深山が 運ぶ

(そぞろながるもものかみなもにあふれ)

そぞろ流る桃の香 水面に溢れ

(まれびとよはるのしらべをかなでともにしあわせをうたいましょう)

客人よ 春の調を奏で 共に幸せを謡いましょう

(みよのさかずきあそばせながらたまゆらをただよう)

御代の盃 遊ばせながら たまゆらを漂う

(さあひとよかぎりのたわむれならつまらぬうれいはのみほしましょう)

さあ 一夜限りの戯れなら つまらぬ憂いは呑み乾しましょう

(まつりばやしのねはてるまでからさわぎはつづく)

祭囃子の音果てるまで 空騒ぎは続く

(しきはめぐりすぎてもながく)

四季は巡り過ぎても 永く

(うつろうこともしらずかわらぬけしき)

うつろうことも知らず 変わらぬ景色

(ゆめのあととおいひのけんそうにひそかにまたてをのばしては)

夢のあと 遠い日の喧騒に 密かにまた手を伸ばしては

(きょうもさかずきかたむけながらむかしがたりつむぐ)

今日も盃 傾けながら 昔語り 紡ぐ

(さあここがうきよのかりそめならかれないひとはなさかせましょう)

さあ 此処が浮世の仮初めなら 枯れないひと華咲かせましょう

(つどうひとのこえつきるまでさめないいまによう)

集う人の声尽きるまで 醒めない現世に酔う