遁生

(これからさきはしぬるまで)

これから先は死ぬるまで

(おもてへでないでくらすひと。)

表へ出ないでくらす人。

(たまにおもてへでるときも)

たまに表へ出るときも

(たばことさんぽにひをつぶす。)

タバコと散歩に日をつぶす。

(はたらくつまのよこがおにちからのぬけためをむける)

働く妻の横顔に力のぬけた目を向ける

(なるのはてれびのおとばかり。)

鳴るのはテレビの音ばかり。

(せいかつなきみのはかなさは)

生活無き身のはかなさは

(くるむふとんのあたたかさ)

くるむふとんの温かさ

(ごろりとねころぶずじょうには)

ゴロリと寝ころぶ頭上には

(つみあげられたほんのやま)

積み上げられた本の山

(くるしみなきみのむなしさよ)

苦しみ無き身のむなしさよ

(うかぶみらいはくるしげで。)

浮かぶ未来は苦しげで。

(こつこつなってるひばちをあいだに)

コツコツ鳴ってる火鉢を間に

(だれかがおれにきいている。)

誰かが俺に聞いている。

(おまえはなぜにひきこもる？)

お前はなぜに 引きこもる?

(おれはなにもこたえずに)

俺は何も答えずに

(ひきつるえがおをむけていた。)

引きつる笑顔を向けていた。

(これからさきはしぬるまで)

これから先は死ぬるまで

(おもてへでないでくらすひと。)

表へ出ないでくらす人。

(こつこつなってるひばちをあいだに)

コツコツ鳴ってる火鉢を間に

(だれかがおれにきいている。)

誰かが俺に聞いている。

(からだのちょうしはどうなんだ？)

体の調子は何うなんだ?

(きせいちゅうにやられてる。)

寄生虫にやられてる。

(おまえにおんなはひつようか？)

お前に女は必要か？

(ぺっとのようならかってもいい。)

ペットのようなら飼ってもいい。

(くるまにのってでかけよう。)

車に乗って出かけよう。

(おれはふとんでねていよう。)

俺はふとんで寝ていよう。

(それじゃてれびをみるとしようか？)

それじゃテレビを見るとしようか?

(かなしすぎてみてられぬ。)

悲しすぎて見てられぬ。

(おまえはなにがほしいのだ？)

お前は何が欲しいのだ?

(ゆうひにうかぶふじのやま。)

夕陽に浮かぶ富士の山。

(おまえはなぜにいきている？)

お前はなぜに生きている?

(ちいさきはなをみるために。)

小さき花を見るために。

(ちいさきはなをみるために。)

小さき花を見るために。

(うたをだれかしらないか？)

歌を誰か知らないか?

(つまらぬときにくちずさむ)

つまらぬときに口ずさむ

(やさしいうたをしらないか？)

やさしい歌を知らないか?

(かねのためになにをする？)

金のために何をする?

(おんなのためになにをする？)

女のために何をする?

(ひとのためになにをする？)

人のために何をする?

(それでおまえはどこにいく？)

それでお前は何処に行く?

(それでおれはどこへいく？)

それで俺は何処へ行く?

(ららら)

ラララ

(どうだきさまもくらさぬか？)

どうだ貴様もくらさぬか?

(おれといっしょにねてくらそう。)

俺と一緒に寝てくらそう。