月虹蝶

(わたしはてんからおちたちょうですから)

「わたしは天から堕ちた蝶ですから

(つきのひかりにみちびかれ)

月の光に導かれ

(いつかはよるにかえらねばなりません)

いつかは夜に還らねばなりません

(それでもあなたがはざまのゆめをのぞむなら)

それでもアナタが狭間の夢を望むなら

(こちょうはおもいにこたえましょう)

胡蝶は想いに応えましょう」

(そばにいてあなたはなれてようそよ)

そばにいて　アナタ　はなれてよ　ウソよ

(こいをしたしょうじょわがままなおひめさま)

恋をした少女　わがままなお姫さま

(ほしいのはすべていらないわぜんぶ)

欲しいのは　すべて　要らないわ　ぜんぶ

(うつつさえおおうちょうのはばたき)

うつつさえ覆う　蝶のはばたき

(そらにまうなないろのはねもよう)

宙(そら)に舞う　七色の翅模様

(ふたりしかしらないにじのなか)

ふたりしか知らない虹の中

(あいしてるふたりでつくうそゆれるあお)

「愛してる」　ふたりで吐(つ)くウソ　ゆれる蒼

(どくでんぱのりんぷんはくるえるあまいむらさき)

毒電波の鱗粉は　狂える　甘い紫

(だきしめてふたりがさくまゆさえるあか)

「抱きしめて」　ふたりが裂く繭　冴える朱

(いちやのゆめやみよのたまのえこいのしじまに)

一夜の夢　闇夜の玉の枝(え)　恋の静寂(しじま)に

(わたしおひめさまだからほしいものたくさんあるの)

「わたし　お姫様だから欲しい物たくさんあるの

(ぜんぶぜーんぶあなたがもってくるの)

ぜんぶ　ぜーんぶアナタが持ってくるの

(どうかやくそくしてくださいましね)

どうか約束してくださいましね

(はなればなれになるそのときがくるまで)

離れ離れになる その時がくるまで……」

(わすれてよいやよわすれないですきよ)

忘れてよ　イヤよ　忘れないで　好きよ

(こいをするしょうじょうるわしのおひめさま)

恋をする少女　うるわしのお姫さま

(しらないわつみもあたえるのばつを)

知らないわ罪も　あたえるの罰を

(ぬばたまのあめちょうのかがやき)

ぬばたまのあめ　蝶のかがやき

(うごきだすときのはりこいもよう)

動き出す時の針　恋模様

(ふたりだけそれだけでいいのに)

「ふたりだけ」それだけでいいのに

(あいしてるふたりでみたゆめかすむあお)

「愛してる」　ふたりで視た夢　霞む蒼

(そらにおちるりんかくはふるえていのるむらさき)

宙(そら)に落ちる　輪郭は　ふるえて祈る紫

(だきしめてふたりがむくきずしたるあか)

「抱きしめて」　ふたりが剥く傷　したる朱

(せんやいちやてんにょのはごろもおわるよかんに)

千夜一夜　天女(てんにょ)の羽衣　終わる予感に

(わたしつきにかえらねばなりません)

「わたし、月に還らねばなりません

(まよえるこうさぎたちが)

迷える子兎たちが

(ごくさいしきのおびをよういしてまっています)

極彩色の帯を用意して待っています

(わたしはかりそめのからだをすて)

わたしは、仮初めの躰(からだ)を捨て

(ちよりはながかれようと)

地より花が枯れようと

(てんからやまいがふろうとも)

天から病(やまい)が降ろうとも

(てんしのすがたにもどるのです)

天使の姿に戻るのです

(いいえこれいじょうほしいものはないよ)

「いいえ　これ以上　欲しいものは無いよ

(ほとけさまのありがたいはちもよにもうつくしいかいがらも)

仏様のありがたい鉢も　世にも美しい貝殻も

(いろとりどりなたまのえだもけっしてもえないねずみのころもも)

色とりどりな玉の枝も　決して燃えない鼠の衣も

(りゅうのくびからとったほうぎょくも)

龍の頸から取った宝玉も

(なんでなくんですかそれはひきょうです)

「……なんで泣くんですか　それは卑怯です

(ちょうちょうはゆめのしょうちょう)

蝶々は夢の象徴

(あいなんてちょうがみせたげんそうだと)

愛なんて蝶が見せた幻想だと

(わかっていたくせに)

わかっていたくせに

(おつきさまはばかなふたりのことみまもっていたんです)

お月さまは馬鹿なふたりのこと見守っていたんです」

(まったくしかたのないひとですね)

「まったく仕方のない人ですね

(ではひめのさいごのわがままきいてくれますか)

では姫の最後のわがまま聞いてくれますか

(どうかどうかてんがゆるしてくれるのなら)

どうか　どうか　天が許してくれるのなら

(ゆめからさめてもわたしのことを)

夢から醒めてもわたしのことを

(しょうてん)

+昇天+

(かくしてたかんじょうはゆきもよう)

かくしてた感情は　雪模様

(ふたりにははかなくふりつもる)

ふたりには　儚く降り積もる

(あいしてたふたりがみたゆめかけるあお)

愛してた　ふたりが視た夢　欠ける蒼

(ときのざんしりんぺんはまぼろしよるのむらさき)

刻(とき)の残滓　鱗片は幻　夜の紫

(だきしめたふたりのくちびるとけたあか)

抱きしめた　ふたりの唇　溶けた朱

(えいけつのよげっこうにきらめくはねのにじいろ)

永訣の夜(よ)　月光に煌めく　翅の虹色

(すきだったよばいばい)

「好きだったよ　ばいばい」