ヘッドフォンアクター

(そのひはずいぶんとへいぼんであたりさわりないいちにちだった)

その日は随分と平凡で　当たり障り無い一日だった

(ひまつぶしにきいてたらじおからあのはなしがながれだすまでは)

暇つぶしに聞いてたラジオから　あの話が流れ出すまでは

(ひじょうにざんねんなことですがほんじつちきゅうはおわりますと)

「非常に残念なことですが、本日地球は終わります」と

(どこかのくにのだいとうりょうがなきながらはなしをするまでは)

どこかの国の大統領が　泣きながら話をするまでは。

(まどのそとはおおきなとりたちがそらおおいつくしてくじゅうたいちゅう)

窓の外は大きな鳥たちが　空覆い尽くしてく渋滞中

(みかづきをのみこんでどこかへとむかってる)

三日月を飲み込んで　どこかへと向かってる

(やりかけてたげーむはのーせーぶ)

やりかけてたゲームはノーセーブ

(つくえにほぼてつかずさんこうしょ)

机にほぼ手つかず参考書

(ふるえるからだをいなすようにすぐにへっどふぉんをした)

震える身体をいなす様に　すぐにヘッドフォンをした

(ふめいなあーてぃすとこうもくのたいとるふめいのなんばーが)

不明なアーティスト項目の　タイトル不明のナンバーが

(とたんにみみもとながれだした)

途端に耳元流れ出した

(いきのこりたいでしょう)

「生き残りたいでしょう？」

(うごめきだすせかいかいじょうをなみうつようにゆれるまてんろう)

蠢きだす世界会場を　波打つように揺れる摩天楼

(まぎれもないこのこえはどうきいてもききあきたじぶんのこえだ)

紛れもないこの声はどう聞いても　聞き飽きた自分の声だ

(あのおかをこえたらにじゅうびょうでそのいみをいやでもしることになるよ)

「あの丘を越えたら20秒でその意味を嫌でも知ることになるよ。

(うたがわないでみみをすませたらにじゅうびょうさきへ)

疑わないで、耳を澄ませたら20秒先へ」

(こうさてんはとうぜんだいじゅうたいもうろうにゃくなんにょはかんけいない)

交差点は当然大渋滞　もう老若男女は関係ない

(どごうやらあかんぼうのなきごえでうまっていく)

怒号やら赤ん坊の泣き声で埋まっていく

(あばれだすひとなきだすしょうじょいのりだしたしんぷをおいぬいて)

暴れだす人　泣き出す少女　祈りだした神父を追い抜いて

(ただひとりめざすのはぎゃくほうこうあのおかのむこうへと)

ただ一人目指すのは逆方向　あの丘の向こうへと

(へっどふぉんからいぜんこえがしてあとじゅうにふんだよとつげる)

ヘッドフォンから依然声がして　「あと12分だよ」と告げる

(このまますべてきえさってしまうならもうすべはないだろう)

このまま全て消え去ってしまうなら　もう術は無いだろう

(ざわめきだすひめいがっしょうをなみだめになってかすめるじゅうびょう)

ざわめき出す悲鳴合唱を　涙目になってかすめる10秒

(うたがいたいけどだれがどうやっても)

疑いたいけど誰がどうやっても

(おわらないじんるいさんか)

終わらない人類賛歌

(かけぬけろもうのこりいっぷんだ)

「駆け抜けろ,もう残り１分だ。」

(そのことばももうきこえないくらいに)

その言葉ももう聞こえない位に

(ただめざしていたおかのむこうはすぐめのまえに)

ただ目指していた丘の向こうは　すぐ目の前に

(いきもたえだえたどりついたんだそらをうつしだすかべのまえに)

息も絶え絶えたどり着いたんだ　　空を映し出す壁の前に

(そのむこうはくいのかがくしゃたちはすばらしいとてをうった)

その向こう白衣の科学者たちは　「素晴らしい」と手を打った

(うたがうよ)

疑うよ。

(そこからみるまちのふうけいはまるでじっけんしせつのようでさ)

そこから見る街の風景は　まるで実験施設の様でさ

(もうふひつようだ)

「もう不必要だ。」

(かがくしゃはかたてまにばくだんをなげた)

科学者は片手間に爆弾を投げた

(はこのなかのちいさなせかいでいままでずっといきてきたんだなと)

箱の中の小さな世界で　今までずっと生きてきたんだなと

(もえつきていくまちだったものをただぼうぜんとみるみみもとで)

燃え尽きていく街だったモノを　ただ、呆然と見る耳元で

(へっどふぉんのむこうから)

ヘッドフォンの向こうから

(ごめんねとこえがした)

「ごめんね」と声がした