夏目漱石「こころ」2-23
こっちゃん様が(上)の方を上げて下さっていたものの続きでございます。
タイピングを投稿するのは初めてですので、誤字脱字等ありましたらご連絡何卒宜しくお願い致します。
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こっちゃん様による(上)
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次回続きからです。
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | berry | 7468 | 光 | 7.6 | 97.6% | 270.2 | 2067 | 49 | 40 | 2024/09/22 |
2 | なおきち | 6845 | S++ | 7.0 | 97.1% | 294.5 | 2076 | 60 | 40 | 2024/10/14 |
3 | 饅頭餅美 | 4981 | B | 5.2 | 94.6% | 395.5 | 2087 | 117 | 40 | 2024/09/30 |
4 | やまちゃん | 4497 | C+ | 4.6 | 96.9% | 447.1 | 2076 | 65 | 40 | 2024/10/03 |
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問題文
(じゅうろく)
十六
(ちちはときどきうわごとをいうようになった。)
父は時々囈語を云う様になった。
(「のぎたいしょうにすまない。じつにめんぼくしだいがない。いえわたしもすぐおあとから」)
「乃木大将に済まない。実に面目次第がない。いえ私もすぐ御後から」
(こんなことばをひょいひょいだした。はははきみをわるがった。)
こんな言葉をひょいひょい出した。母は気味を悪がった。
(なるべくみんなをまくらもとへあつめておきたがった。)
なるべくみんなを枕元へ集めて置きたがった。
(きのたしかなときはしきりにさびしがるびょうにんにもそれがきぼうらしくみえた。)
気のたしかな時は頻りに淋しがる病人にもそれが希望らしく見えた。
(ことにへやのなかをみまわしてははのかげがみえないと、ちちはかならず「おみつは」ときいた。)
ことに室の中を見廻して母の影が見えないと、父は必ず「御光は」と聞いた。
(きかないでも、めがそれをものがたっていた。)
聞かないでも、眼がそれを物語っていた。
(わたくしはよくたってははをよびにいった。)
私はよく起って母を呼びに行った。
(「なにかごようですか」と、ははがしかけたようをそのままにしておいてびょうしつへくると、)
「何か御用ですか」と、母が仕掛けた用をそのままにして置いて病室へ来ると、
(ちちはただははのかおをみつめるだけでなにもいわないことがあった。)
父はただ母の顔を見詰めるだけで何も云わない事があった。
(そうかとおもうと、まるでかけはなれたはなしをした。)
そうかと思うと、まるで懸け離れた話をした。
(とつぜん「おみつおまえにもいろいろせわになったね」などとやさしいことばをだすときもあった。)
突然「御光御前にも色々世話になったね」などと優しい言葉を出す時もあった。
(はははそういうことばのまえにもきっとなみだぐんだ。)
母はそう云う言葉の前にもきっと涙ぐんだ。
(そうしたあとではまたきっとじょうぶであったむかしのちちを)
そうした後では又きっと丈夫であった昔の父を
(そのたいしょうとしておもいだすらしかった。)
その対照として思い出すらしかった。
(「あんなあわれっぽいことをおいいだがね、あれでもとはずいぶんひどかったんだよ」)
「あんな憐れっぽい事を御言いだがね、あれでもとは随分酷かったんだよ」
(はははちちのためにほうきでせなかをどやされたときのことなどをはなした。)
母は父のために箒で脊中をどやされた時の事などを話した。
(いままでなんべんもそれをきかされたわたくしとあには、いつもとはまるでちがったきぶんで、)
今まで何遍もそれを聞かされた私と兄は、何時もとはまるで違った気分で、
(ははのことばをちちのかたみのようにみみへうけいれた。)
母の言葉を父の記念のように耳へ受け入れた。
(ちちはじぶんのめのまえにうすぐらくうつるしのかげをながめながら、)
父は自分の眼の前に薄暗く映る死の影を眺めながら、
(まだゆいごんらしいものをくちにださなかった。)
まだ遺言らしいものを口に出さなかった。
(「いまのうちになにかきいておくひつようはないかな」とあにがわたくしのかおをみた。)
「今のうちに何か聞いて置く必要はないかな」と兄が私の顔を見た。
(「そうだなあ」とわたくしはこたえた。)
「そうだなあ」と私は答えた。
(わたくしはこちらからすすんでそんなことをもちだすのも)
私はこちらから進んでそんな事を持ち出すのも
(びょうにんのためによしあしだとかんがえていた。)
病人のために良し悪しだと考えていた。
(ふたりはけっしかねてついにおじにそうだんをかけた。おじもくびをかたむけた。)
二人は決しかねてついに伯父に相談をかけた。伯父も首を傾けた。
(「いいたいことがあるのに、いわないでしぬのもざんねんだろうし、といって、)
「云いたい事があるのに、云わないで死ぬのも残念だろうし、と云って、
(こっちからさいそくするのもわるいかもしれず」)
此方から催促するのも悪いかも知れず」
(はなしはとうとうぐずぐずになってしまった。)
話はとうとう愚図々々になってしまった。
(そのうちにこんすいがきた。)
そのうちに昏睡が来た。
(れいのとおりなにもしらないはははそれをただのねむりとおもいちがえてかえってよろこんだ。)
例の通り何も知らない母はそれをただの眠と思い違えて反って喜こんだ。
(「まあああしてらくにねられれば、はたにいるものもたすかります」といった。)
「まあああして楽に寐られれば、傍にいるものも助かります」と云った。
(ちちはときどきめをあけて、だれはどうしたなどととつぜんきいた。)
父は時々眼を開けて、誰はどうしたなどと突然聞いた。
(そのだれはついさっきまでそこにすわっていたひとのなにかぎられていた。)
その誰はつい先刻までそこに坐っていた人の名に限られていた。
(ちちのいしきにはくらいところとあかるいところとできて、)
父の意識には暗い所と明るい所と出来て、
(そのあかるいところだけが、やみをぬうしろいいとのように、)
その明るい所だけが、闇を縫う白い糸のように、
(あるきょりをおいてれんぞくするようにみえた。)
ある距離を置いて連続するように見えた。
(ははがこんすいじょうたいをふつうのねむりととりちがえたのもむりはなかった。)
母が昏睡状態を普通の眠りと取り違えたのも無理はなかった。
(そのうちしたがだんだんもつれてきた。)
そのうち舌が段々縺れて来た。