夏目漱石「こころ」2-27

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夏目漱石「こころ」2-27
中)両親と私
こっちゃん様が(上)の方を上げて下さっていたものの続きでございます。
タイピングを投稿するのは初めてですので、誤字脱字等ありましたらご連絡何卒宜しくお願い致します。

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こっちゃん様による(上)
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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 6963 S++ 7.3 95.0% 255.9 1879 97 35 2024/09/22
2 なおきち 6909 S++ 7.1 96.7% 264.7 1892 63 35 2024/10/15
3 饅頭餅美 5233 B+ 5.5 95.2% 344.5 1898 95 35 2024/09/30
4 れもん 4757 B 4.9 96.3% 380.9 1884 72 35 2024/09/22
5 やまちゃん 4711 C++ 4.7 98.2% 393.1 1886 34 35 2024/10/04

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問題文

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(じゅうはち)

十八

(びょうしつにはいつのまにかいしゃがきていた。)

病室には何時の間にか医者が来ていた。

(なるべくびょうにんをらくにするというしゅいからまたかんちょうをこころみるところであった。)

なるべく病人を楽にするという主意からまた浣腸を試みるところであった。

(かんごふはゆうべのつかれをやすめるためにべっしつでねていた。)

看護婦は昨夜の疲れを休める為に別室で寐ていた。

(なれないあにはたってまごまごしていた。)

慣れない兄は起ってまごまごしていた。

(わたくしのかおをみると、「ちょっとてをおかし」といったまま、じぶんはせきについた。)

私の顔を見ると、「一寸手を御貸し」と云ったまま、自分は席に着いた。

(わたくしはあににかわって、あぶらがみをちちのしりのしたにあてがったりした。)

私は兄に代って、油紙を父の尻の下に宛てがったりした。

(ちちのようすはすこしくつろいできた。)

父の様子は少しくつろいで来た。

(さんじゅっぷんほどまくらもとにすわっていたいしゃは、)

三十分程枕元に坐っていた医者は、

(かんちょうのけっかをみとめたうえ、またくるといって、かえっていった。)

浣腸の結果を認めた上、また来ると云って、帰って行った。

(かえりぎわに、)

帰り際に、

(もしものことがあったらいつでもよんでくれるようにわざわざことわっていた。)

若しもの事があったら何時でも呼んでくれるようにわざわざ断っていた。

(わたくしはいまにもへんがありそうなびょうしつをしりぞいてまたせんせいのてがみをよもうとした。)

私は今にも変がありそうな病室を退いて又先生の手紙を読もうとした。

(しかしわたくしはすこしもゆっくりしたきぶんになれなかった。)

然し私はすこしも寛くりした気分になれなかった。

(つくえのまえにすわるやいなや、またあにからおおきなこえでよばれそうでならなかった。)

机の前に坐るや否や、又兄から大きな声で呼ばれそうでならなかった。

(そうしてこんどよばれれば、それがさいごだといういふがわたくしのてをふるわした。)

そうして今度呼ばれれば、それが最後だという畏怖が私の手を顫わした。

(わたくしはせんせいのてがみをただむいみにぺーじだけはぐっていった。)

私は先生の手紙をただ無意味に頁だけ剝繰って行った。

(わたくしのめはきちょうめんにわくのなかにはめられたじかくをみた。)

私の眼は几帳面に枠の中に嵌められた字画を見た。

(けれどもそれをよむよゆうはなかった。ひろいよみにするよゆうすらおぼつかなかった。)

けれどもそれを読む余裕はなかった。拾い読みにする余裕すら覚束なかった。

(わたくしはいちばんしまいのぺーじまでじゅんじゅんにあけてみて、)

私は一番仕舞の頁まで順々に開けて見て、

など

(またそれをもとのとおりにたたんでつくえのうえにおこうとした。)

又それを元の通りに畳んで机の上に置こうとした。

(そのときふとけつまつにちかいいっくがわたくしのめにはいった。)

その時不図結末に近い一句が私の眼に這入った。

(「このてがみがあなたのてにおちるころには、)

「この手紙があなたの手に落ちる頃には、

(わたしはもうこのよにはいないでしょう。とくにしんでいるでしょう」)

私はもうこの世には居ないでしょう。とくに死んでいるでしょう」

(わたくしははっとおもった。)

私ははっと思った。

(いままでざわざわとうごいていたわたくしのむねがいちどにぎょうけつしたようにかんじた。)

今までざわざわと動いていた私の胸が一度に凝結したように感じた。

(わたくしはまたぎゃくにぺーじをはぐりかえした。)

私は又逆に頁をはぐり返した。

(そうしていちまいにいっくくらいずつのわりでさかさによんでいった。)

そうして一枚に一句くらいずつの割で倒に読んで行った。

(わたくしはとっさのあいだに、わたくしのしらなければならないことをしろうとして、)

私は咄嗟の間に、私の知らなければならない事を知ろうとして、

(ちらちらするもんじを、めでさしとおそうとこころみた。)

ちらちらする文字を、眼で刺し通そうと試みた。

(そのときわたくしのしろうとするのは、ただせんせいのあんぴだけであった。)

その時私の知ろうとするのは、ただ先生の安否だけであった。

(せんせいのかこ、かつてせんせいがわたくしにはなそうとやくそくしたうすぐらいそのかこ、)

先生の過去、かつて先生が私に話そうと約束した薄暗いその過去、

(そんなものはわたくしにとって、まったくむようであった。)

そんなものは私に取って、全く無用であった。

(わたくしはさかさまにぺーじをはぐりながら、)

私は倒まに頁をはぐりながら、

(わたくしにひつようなちしきをよういにあたえてくれないこのながいてがみをじれったそうにたたんだ。)

私に必要な知識を容易に与えてくれないこの長い手紙を自烈たそうに畳んだ。

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