見えない気持ち

(しゅうさくさんうちひろしまにかえります)

周作さん　うち広島に帰ります

(うごくな)

動くな！

(もどってこんつもりか)

戻って来んつもりか

(てのことをきにしとんか)

手のことを気にしとんか

(そう)

そう...

(くうしゅうがこわいんか)

空襲が怖いんか

(そう)

そう...

(はるみのことか)

晴美のことか

(そう)

そう...

(きこえんわい)

聞こえんわい！

(ちがいます)

違います！

(じゃあなんでじゃ)

じゃあなんでじゃ！

(あなたにはわからない)

あなたには分からない

(ひろしまへかえります)

広島へ帰ります

(すずさんわしはたのしかったで)

すずさん　わしは楽しかったで

(ふたりですごしたこのいちねん えがおがあふれたこのわがや)

二人で過ごしたこの一年 笑顔があふれたこのわが家

(まばゆくうつったこのけしき のんびりあるいたこのこみち)

眩く映ったこの景色 のんびり歩いたこの小道

(かえる)

帰る...

(なにげにすごしたこのいちねん ちかくにおるとおもうだけで)

何気に過ごしたこの一年 近くにおると思うだけで

(せかいにいろがともされた やさしいこえをきくだけで)

世界に色が灯された 優しい声を聞くだけで

(きこえん)

聞こえん！

(あんたのきもちはちがうんか まだしらんおとこのいえのままか)

あんたの気持ちは違うんか まだ知らん男の家のままか

(いつになったらかぞくになれる いつになったらわかちあえる)

いつになったら家族になれる いつになったら分かち合える

(このせかいをあんたと このせかいをあんたと)

この世界をあんたと この世界をあんたと

(ふたりであゆみたい)

二人で歩みたい

(ふたりでいきたい)

二人で生きたい

(いっこもきこえんひろしまへかえる)

一個も聞こえん！　広島へ帰る！

(ほうそうかかちてにせえ)

ほう　そうか勝手にせえ

(ゆがんどる)

歪んどる

(しらきりんのしょうそくをしりたがっとったの)

白木リンの消息を知りたがっとったの

(あなたのくちが)

あなたの口が

(ぜったいおしえたらん)

絶対教えたらん

(そのなまえで)

その名前で

(ぜったいおしえたらん)

絶対教えたらん！

(あいにそまる)

愛に染まる

(もうくれにおらんのならかんけいなかろ)

もう呉におらんのなら関係なかろ

(すずさん)

すずさん！

(わたしひとりとうちころせない)

私一人と撃ち殺せない

(なんてさえんひこうきじゃ)

なんてさえん飛行機じゃ

(このひとひとりひきはなせない)

この人ひとり引き離せない

(なんてさえんひだりてじゃ)

なんてさえん左手じゃ

(しらんほうがよかった)

知らん方がよかった

(このせかいを)

この世界を

(ないほうがよかった)

ない方がよかった

(あんたと)

あんたと

(もとには)

元には

(ふたりで)

二人で

(もどらない)

戻らない

(あゆみたい)

歩みたい

(こないほうがよかった)

来ない方がよかった

(このせかいを)

この世界を

(おらんほうがよかった)

おらん方がよかった

(あんたと)

あんたと

(もとには)

元には

(ふたりで)

二人で

(もどらない)

戻らない

(あゆみたい)

歩みたい

(もとにはもどれない)

元には戻れない