怖い話《笑い女》1

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実話

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問題文

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(せんしゅうのきんようのことなんだけど、かいしゃのせんぱいのおおむらっていうおとこがしんだらしい。)

先週の金曜の事なんだけど、会社の先輩の大村っていう男が死んだらしい。

(もちろんちょくせつみたわけじゃないけど、まんしょんのじしつで、)

もちろん直接見た訳じゃないけど、マンションの自室で、

(じぶんのりょうみみにぼーるぺんをつきさしてしんだらしい。)

自分の両耳にボールペンを突き刺して死んだらしい。

(おおむらじしんのてがぺんをぎゅっとにぎりしめてたっていうんで、)

大村自身の手がペンをギュッと握りしめてたっていうんで、

(けいさつもじけんせいはみとめずに、すぐにじさつだってはんだんした。)

警察も事件性は認めずに、すぐに自殺だって判断した。

(かいしゃのれんちゅうは、そんなおおむらのしにざまをずいぶんふしぎがったりしてたけど、)

会社の連中は、そんな大村の死に様を随分不思議がったりしてたけど、

(おれはとくにおどろきもしなかった。それでもしほうかいぼうっていうやつが)

俺は特に驚きもしなかった。それでも司法解剖っていうやつが

(どうしてもひつようらしくて、おおむらのからだはくわしくしらべられたんだとそうぞうしてる。)

どうしても必要らしくて、大村の体は詳しく調べられたんだと想像してる。

(わかりきってることをしらべるためにからだをいじくりまわされるなんてきのどくだとおもう。)

分かりきってる事を調べるために体を弄り回されるなんて気の毒だと思う。

(すぐにつやがあって、おなじかのやつらはかちょうをせんとうにつれだってこうきょうさいじょうに)

すぐに通夜があって、同じ課の奴らは課長を先頭に連れだって公共斎場に

(いったらしいけど、おれだけは「どうしてもはずせないようじがある」って)

行ったらしいけど、俺だけは「どうしても外せない用事がある」って

(かちょうにことわって、ちょっきした。まわりからみたらふしぜんだったろうとおもうけど、)

課長に断って、直帰した。周りから見たら不自然だったろうと思うけど、

(つやなんていう、しめっぽくてみながおしだまってるようなくうかんには、)

通夜なんていう、湿っぽくて皆が押し黙ってるような空間には、

(いまはたえられそうにないから。)

今は耐えられそうにないから。

(おおむらとおれとは、せんぱいこうはいっていうこととはあまりかんけいなく、なかがよかった。)

大村と俺とは、先輩後輩っていう事とはあまり関係なく、仲が良かった。

(おたがいにあいてのまんしょんのしょざいちをしってたってかけば、)

お互いに相手のマンションの所在地を知ってたって書けば、

(どのていどのなかだったかはつたわるかなとおもう。)

どの程度の仲だったかは伝わるかなと思う。

(さんしゅうかんくらいまえのあのひも、おおむらがかいしゃがえりにおれのへやにあそびにきてた。)

三週間くらい前のあの日も、大村が会社帰りに俺の部屋に遊びに来てた。

(おれらはかんびーるをのみながら、どうりょうのかげぐちばかりたたいてた。)

俺らは缶ビールを飲みながら、同僚の陰口ばかり叩いてた。

(ふたりとも、さけをのむときはかいわだけをたのしみたいってたいぷだったから、)

二人とも、酒を飲む時は会話だけを楽しみたいってタイプだったから、

など

(てれびもつけなかったし、おんがくをながしたりもしてなかった。)

テレビもつけなかったし、音楽を流したりもしてなかった。

(われながらくらいとはおもうけど。そのうちに、かいだめてあったびーるがつきた。)

我ながら暗いとは思うけど。そのうちに、買い溜めてあったビールが尽きた。

(おれはあるこーるがなくてもかいわがたのしければよいとおもっていたんだけど、)

俺はアルコールが無くても会話が楽しければ良いと思っていたんだけど、

(おおむらはそれじゃだめみたいだった。「すぐにかいにいこう」っていいだす。)

大村はそれじゃダメみたいだった。「すぐに買いに行こう」って言い出す。

(しぶしぶながらも、おおむらをつれてきんじょのすーぱーにかいだしにいった。)

渋々ながらも、大村を連れて近所のスーパーに買い出しに行った。

(みせにはいるとすぐに、おおむらが「おい、なにだよあれ」ってにやにやしながら)

店に入るとすぐに、大村が「おい、何だよあれ」ってニヤニヤしながら

(きいてきた。ゆびさすさきをみると、ぼさぼさのかみをこしまでたらしたおんなが、)

聞いてきた。指差す先を見ると、ボサボサの髪を腰まで垂らした女が、

(かいものかごをぶらさげてやさいをえらんでた。)

買い物かごをぶら下げて野菜を選んでた。

(べつになにのへんてつもない、よくあるこうけいだ。)

別に何の変哲もない、よくある光景だ。

(ただひとつかわってるとしたら、おんながおおごえでわらってることだけ。)

ただ一つ変わってるとしたら、女が大声で笑ってることだけ。

(れたすをてにとりながら、「いひゃっいひゃっ」ってわらってるだけ。)

レタスを手に取りながら、「いひゃっいひゃっ」って笑ってるだけ。

(それすらも、おれにしてみればなにのへんてつもない、よくあるこうけいだ。)

それすらも、俺にしてみれば何の変哲もない、よくある光景だ。

(「ああ、あれわらいおんなだよ」せつめいしとくと、わらいおんなはきんじょではゆうめいなじんぶつ。)

「ああ、あれ笑い女だよ」説明しとくと、笑い女は近所では有名な人物。

(ぱっとみにはごくふつうのわかいじょせいで、とりたててどうこういうべきところもない。)

パッと見にはごく普通の若い女性で、取り立ててどうこういうべき所もない。

(たしかにこしまであるかみはいたみきっていてぼさぼさだけど、)

確かに腰まである髪は痛みきっていてボサボサだけど、

(そんなおんな、どこにいったっているとおもう。)

そんな女、どこに行ったっていると思う。

(ただ、わらいおんなのかわっているところは、そのよびなどおりに、)

ただ、笑い女の変わっているところは、その呼び名通りに、

(いつでもわらっているところ。)

いつでも笑っているところ。

(「いひゃっいひゃっ」ってなにかからくうきがもれるような、)

「いひゃっいひゃっ」って何かから空気が漏れるような、

(それでいてちょっとしめったかんじのわらいごえをまきちらして、)

それでいてちょっと湿った感じの笑い声を撒き散らして、

(くちのはからよだれをたらしてる。だからみな「わらいおんな」とか、)

口の端から涎を垂らしてる。だから皆「笑い女」とか、

(れじうちのおばちゃんも「おわらいさん」とかよんでる。)

レジ打ちのおばちゃんも「お笑いさん」とか呼んでる。

(ただそれだけのそんざいだ。)

ただそれだけの存在だ。

(だれにめいわくをかけるわけでもないから、まわりはあんまりきにしない。)

誰に迷惑をかけるわけでもないから、周りはあんまり気にしない。

(きにしたとしても「いやなものをみた」ってちょっとのあいだおもうだけで、)

気にしたとしても「嫌な物を見た」ってちょっとの間思うだけで、

(すぐにみてみぬふりをする。)

すぐに見て見ぬふりをする。

(いまになっておもえば、そのときのおおむらはかなりよっていたんだとおもう。)

今になって思えば、その時の大村はかなり酔っていたんだと思う。

(「ちょっとからかってくるわ」とかいって、わらいおんなにちかよっていった。)

「ちょっとからかってくるわ」とか言って、笑い女に近寄っていった。

(おれもよっていたんだとおもう。なにしろ、おおむらのことをとめようとはしなかったから。)

俺も酔っていたんだと思う。何しろ、大村の事を止めようとはしなかったから。

(「なぁ、おい、あんた。なにがそんなにおかしいんだよ」)

「なぁ、おい、アンタ。何がそんなにおかしいんだよ」

(おおむらは、ぶっきらぼうなくちょうでわらいおんなにこえをかけた。)

大村は、ぶっきらぼうな口調で笑い女に声を掛けた。

(けれど、わらいおんなはこたえない。「いひゃっいひゃっ」ってわらうばかりだ。)

けれど、笑い女は答えない。「いひゃっいひゃっ」って笑うばかりだ。

(「おいこたえてみろって。よのなかこんなふけいきだっつーのに、)

「おい答えてみろって。世の中こんな不景気だっつーのに、

(なにをたのしそうにしてやがんだ」おおむらはそんなないようのことをいってた。)

何を楽しそうにしてやがんだ」大村はそんな内容の事を言ってた。

(たぶん、それまではおれといっしょにかげぐちをたたくことではっさんしていたものが、)

多分、それまでは俺と一緒に陰口を叩くことで発散していたものが、

(よいのせいでたにんにまでむいたんだとおもう。)

酔いのせいで他人にまで向いたんだと思う。

(やっぱりわらいおんなは「いひゃっいひゃっ」てわらうだけで、なにもこたえない。)

やっぱり笑い女は「いひゃっいひゃっ」て笑うだけで、何も答えない。

(そんなことをしばらくくりかえして、おおむらは「なにだよこいつ、つまんね。)

そんな事を暫く繰り返して、大村は「何だよこいつ、つまんね。

(おい、もういこうぜ」っていって、ふきげんそうにそのばからはなれた。)

おい、もう行こうぜ」って言って、不機嫌そうにその場から離れた。

(おれらは、かごにすなっくがしとかをつめこんでから、さけのならんだたなにいった。)

俺らは、カゴにスナック菓子とかを詰め込んでから、酒の並んだ棚に行った。

(おおむらはすぐにかんびーるをてにとっていたけど、おれはあきはじめてたから、)

大村はすぐに缶ビールを手に取っていたけど、俺は飽き始めてたから、

(ちゅーはいをじっくりえらぶことにしたんだけど、)

チューハイをじっくり選ぶことにしたんだけど、

(そのうち、おおむらが「うおっ」っていうさけびごえをあげた。)

そのうち、大村が「うおっ」っていう叫び声をあげた。

(なにかとおもってふりかえると、おおむらとわらいおんながしきんきょりでむきあってる。)

何かと思って振り返ると、大村と笑い女が至近距離で向き合ってる。

(れいの「いひゃっいひゃっ」っていうこえをいっしょに、おんなのくちからおおむらのかおに)

例の「いひゃっいひゃっ」って言う声を一緒に、女の口から大村の顔に

(つばがとんでいるのがみえた。それから、おおむらがりょうてをつきだしていて)

唾が飛んでいるのが見えた。それから、大村が両手を突き出していて

(わらいおんなをおしたおすまでは、いっしゅんだった。)

笑い女を押し倒すまでは、一瞬だった。

(わらいおんなはふらふらっとたおれて、ぺたんとしりもちをついて、)

笑い女はフラフラっと倒れて、ペタンと尻餅をついて、

(それでも「いひゃっいひゃっ」ってわらいつづけた。)

それでも「いひゃっいひゃっ」って笑い続けた。

(かいものきゃくとかてんいんがとおまきにふたりをながめて、おれもきまずくなってきたから、)

買い物客とか店員が遠巻きに二人を眺めて、俺も気まずくなってきたから、

(てきとうにちゅーはいをえらんで、おおむらといっしょにそそくさとかいけいをすませた。)

適当にチューハイを選んで、大村と一緒にそそくさと会計を済ませた。

(わらいおんなにあやまろうかともおもったけど、じじょうがよくわからないし、)

笑い女に謝ろうかとも思ったけど、事情が良く分からないし、

(おれがあやまるのもへんなきもしてやめておいた。)

俺が謝るのも変な気もしてやめておいた。

(なにがあったのかきくと、おおむらがいうには、)

何があったのか聞くと、大村が言うには、

(「おまえがさけえらんでるのながめてぼーっとしてたら、みみもとできもちわるいこえが)

「お前が酒選んでるの眺めてボーっとしてたら、耳元で気持ち悪い声が

(きこえた。おどろいてふりかえったら、すぐめのまえにあのおんなのかおがあった」)

聞こえた。驚いて振り返ったら、すぐ目の前にあの女の顔があった」

(それで、きみがわるかったからとっさにつきとばしたっていうことらしい。)

それで、気味が悪かったから咄嗟に突き飛ばしたっていうことらしい。

(それから「よくみたらあいつ・・・」ってなにかいいかけたけど、)

それから「よく見たらあいつ・・・」って何か言いかけたけど、

(とちゅうでくちごもって、さいごまできかせてくれなかった。)

途中で口ごもって、最後まで聞かせてくれなかった。

(へやにかえってから、またふたりでのみはじめた。)

部屋に帰ってから、また二人で飲み始めた。

(でも、おおむらはさっきのことでばつがわるいのかもときがなくて、)

でも、大村はさっきのことでバツが悪いのか元気がなくて、

(ふとしたひょうしにかいわがとぎれて、おたがいだまってしまうようなことがおおくなった。)

ふとした拍子に会話が途切れて、お互い黙ってしまうような事が多くなった。

(かいわがとぎれると、おおむらはきょろきょろとしせんをうごかしたりする。)

会話が途切れると、大村はキョロキョロと視線を動かしたりする。

(そのうちに「なにかげーむやろうぜ」っておおむらがいいだした。)

そのうちに「何かゲームやろうぜ」って大村が言い出した。

(げーむであそびたがるなんてめずらしいなーとはおもいつつも、しんむそう3であそんだ。)

ゲームで遊びたがるなんて珍しいなーとは思いつつも、真・無双3で遊んだ。

(そうしてるうちに、ばすがなくなるじかんになって、おおむらはかえっていった。)

そうしてるうちに、バスがなくなる時間になって、大村は帰っていった。

(このときのおれは、すーぱーでのことなんてかんぜんにわすれてたとおもう。)

この時の俺は、スーパーでの事なんて完全に忘れてたと思う。

(つぎのひから、おおむらのこうどうがおかしくなりはじめた。)

次の日から、大村の行動がおかしくなり始めた。

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