《笑い女》2

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実話

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問題文

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(まず、やたらとうぉーくまんでおんがくをきくようになった。)

まず、やたらとウォークマンで音楽を聴くようになった。

(べつにそれじたいはおかしなことではないけど、しゅっきんとちゅうにかおをあわせて)

別にそれ自体はおかしなことではないけど、出勤途中に顔を合わせて

(こっちからこえをかけても、かるくてをあげるだけでいやほんをはずそうとしない。)

こっちから声を掛けても、軽く手を上げるだけでイヤホンを外そうとしない。

(ちかよってみると、ものすごいだいおんりょうできいてるみたいで、やたらとおともれしてた。)

近寄ってみると、物凄い大音量で聴いてるみたいで、やたらと音漏れしてた。

(ちょっとかんじわるいなとおもったけど、そのときはべつになにもいわないでおいた。)

ちょっと感じ悪いなと思ったけど、その時は別に何も言わないでおいた。

(それが、ひるやすみにまでおんがくをきくようになった。)

それが、昼休みにまで音楽を聴くようになった。

(ひるめしにさそおうとしても、おおむらはそそくさといやほんをつけて、)

昼飯に誘おうとしても、大村はそそくさとイヤホンをつけて、

(ひとりでどこかにいってしまう。あげく、しごとちゅうにまでいやほんをはずさなくなった。)

一人でどこかに行ってしまう。挙句、仕事中にまでイヤホンを外さなくなった。

(さすがにこれはおかしいとおもっていたら、おおむらよりもさらにうえのせんぱいが)

流石にこれはおかしいと思っていたら、大村よりも更に上の先輩が

(おおむらをどなりつけた。それからは、しごとちゅうにおんがくをきくようなことは)

大村を怒鳴りつけた。それからは、仕事中に音楽を聴くようなことは

(なくなったけど、かわりにひとりごとをいうようになった。)

なくなったけど、代わりに独り言を言うようになった。

(しかも、「うるさい」とか「あああああ」とかおおごえでいう。)

しかも、「うるさい」とか「あああああ」とか大声で言う。

(まわりがちゅういしてもやめようとしない。みな、しょうじききみわるがってた。)

周りが注意してもやめようとしない。皆、正直気味悪がってた。

(みるにみかねて、たいきんしてからおおむらをよびだしてはなしをすることにした。)

見るに見かねて、退勤してから大村を呼び出して話をする事にした。

(おおむらはさいしょ、おれとはなすのをしぶったけど、)

大村は最初、俺と話すのを渋ったけど、

(「にぎやかなところだったらはなす」っていいだしながら、ふぁみれすにつれだした。)

「賑やかな所だったら話す」って言い出しながら、ファミレスに連れ出した。

(ふぁみれすはそこそこのこみぐあいで、こうこうせいっぽいのがおおごえで)

ファミレスはそこそこの混み具合で、高校生っぽいのが大声で

(はしゃいだりしてた。それからおれが「さいきんのおまえはおかしい」ってきりだすと)

はしゃいだりしてた。それから俺が「最近のお前はおかしい」って切り出すと

(おおむらは「じぶんでもわかってる」っていったうえで、ひとりでにはなしはじめた。)

大村は「自分でも分かってる」って言った上で、独りでに話し始めた。

(なかなかようりょうをえないはなしだったんだけど、おおざっぱにまとめるとこんなかんじ)

なかなか要領を得ない話だったんだけど、大雑把にまとめるとこんな感じ

など

(れいのすーぱーでのいっけんいこう、ふとしたひょうしに、)

例のスーパーでの一件以降、ふとした拍子に、

(わらいおんなお「いひゃっいひゃっ」っていうわらいごえがきこえるようになった。)

笑い女尾「いひゃっいひゃっ」っていう笑い声が聞こえるようになった。

(はじめはかすかにきこえるていどで、そらみみかともおもってたんだけど、ちょうど、)

始めは微かに聞こえる程度で、空耳かとも思ってたんだけど、丁度、

(はいごからだんだんちかづいてきているようなかんじで、ひをおうごとにわらいごえは)

背後から段々近づいて来ているような感じで、日を追う毎に笑い声は

(おおきくなってきてる。まわりでなにかのおと(おんがくとか)がしているようなときはには、)

大きくなってきてる。周りで何かの音(音楽とか)がしているような時はには、

(わらいごえはきこえてこないのだけれど、ふとぶいんじょうたいになると、)

笑い声は聞こえてこないのだけれど、ふと無音状態になると、

(「いひゃっいひゃっ」がきこえてくる。)

「いひゃっいひゃっ」が聞こえてくる。

(いまでは、すこしくらいあたりがさわがしくても、それいじょうのぼりゅーむでわらいごえが)

今では、少しくらい辺りが騒がしくても、それ以上のボリュームで笑い声が

(きこえてくることもある。なによりつらいのはよなかで、ねようとおもってでんきをけすと)

聞こえてくる事もある。何より辛いのは夜中で、寝ようと思って電気を消すと

(へやちゅうになりひびくようないきおいでわらいごえがおそってくるので、)

部屋中に鳴り響くような勢いで笑い声が襲ってくるので、

(とてもじゃないけど、ねつくことなんてできない。)

とてもじゃないけど、寝付く事なんてできない。

(まとめるとさっぱりしているけど、じっさいにははなしてるとちゅうでおおごえだしたり、)

まとめるとさっぱりしているけど、実際には話してる途中で大声出したり、

(「あいつが、あいつが」ってなきそうなこえでくりかえしたりするから、)

「あいつが、あいつが」って泣きそうな声で繰り返したりするから、

(ないようをつかむにはかなりじかんがかかった。)

内容を掴むにはかなり時間が掛かった。

(しまいには「あのおんなにのろわれた」とか)

終いには「あの女に呪われた」とか

(「あいつ、ゆうれいなんじゃないか」とかいいだすしまつ。)

「あいつ、幽霊なんじゃないか」とか言い出す始末。

(おれがなによりもまずおもったのは、おおむらはへんなもうそうにとりつかれてるってこと。)

俺が何よりもまず思ったのは、大村は変な妄想に取り憑かれてるって事。

(わらいおんなはゆうれいなんかではないし、ただのちょっとかわったおんなでしかない。)

笑い女は幽霊なんかではないし、ただのちょっと変わった女でしかない。

(そのしょうこに、あのひいこうもおれはわらいおんながすーぱーでかいものをしてるとこを)

その証拠に、あの日以降も俺は笑い女がスーパーで買い物をしてるとこを

(なんどもみてる。じつざいするにんげんだ。)

何度も見てる。実在する人間だ。

(わらいごえがどくとくできみがわるいからみみにのこったっていうのと、)

笑い声が独特で気味が悪いから耳に残ったっていうのと、

(おおむらなりのざいあくかんみたいなものが、もうそうのげんいんだとおもった。)

大村なりの罪悪感みたいなものが、妄想の原因だと思った。

(だいたい、すーぱーにでるゆうれいっていうのも、なんだかまぬけだとおもう。)

大体、スーパーに出る幽霊っていうのも、何だか間抜けだと思う。

(そういってきかせても、おおむらはまるでこっちのいうことをきこうとしない。)

そう言って聞かせても、大村はまるでこっちの言う事を聞こうとしない。

(のろいとかゆうれいとかくりかえすばっかり。)

呪いとか幽霊とか繰り返すばっかり。

(おれはだんだんいらいらしてきて、「そんなにいうなら、いっしょにすーぱーにいこう」)

俺は段々イライラしてきて、「そんなに言うなら、一緒にスーパーに行こう」

(ってきりだした。おおむらのいってることのばかばかしさにもはらがたっていたし、)

って切り出した。大村の言ってる事のバカバカしさにも腹が立っていたし、

(あいてがげんにじつざいしているただのおんなだってにんしきすれば、)

相手が現に実在しているただの女だって認識すれば、

(へんなもうそうもなくなるんじゃないかとおもったから。)

変な妄想もなくなるんじゃないかと思ったから。

(もちろんおおむらはもうれつにいやがったけど、おれはおおむらをむりやりひきずるようにして)

もちろん大村は猛烈に嫌がったけど、俺は大村を無理やり引き摺るようにして

(れすとらんからでて、でんしゃにのって、れいのすーぱーにむかった。)

レストランから出て、電車に乗って、例のスーパーに向かった。

(でんしゃのなかでもおおむらは、ぶつぶつつぶやいてびびってた。)

電車の中でも大村は、ブツブツ呟いてびびってた。

(やっとすーぱーのまえまでついたところで、おおむらが「やっぱりいやだ」)

やっとスーパーの前まで着いたところで、大村が「やっぱり嫌だ」

(っていいだした。「ぜったいになかにははいりたくない」って。)

って言い出した。「絶対に中には入りたくない」って。

(しかたないから、「みせのまえのちゅうりんじょうからてんないをのぞこう」っておれがていあんした。)

仕方ないから、「店の前の駐輪場から店内を覗こう」って俺が提案した。

(それでもおおむらはかえるっていいだしたけど、おれはあいてのかたをがっちりおさえて、)

それでも大村は帰るって言い出したけど、俺は相手の肩をがっちり押さえて、

(にげだせないようにした。じゃくしゃをいたぶるきもちもあったとはおもう。)

逃げ出せないようにした。弱者をいたぶる気持ちもあったとは思う。

(けれど、がらすごしにてんあにをながめわたしても、わらいおんなはいなかった。)

けれど、ガラス越しに天兄を眺め渡しても、笑い女はいなかった。

(いつもわらいじょとでくわすじかんはたいていこのくらいだから、)

いつも笑い女と出くわす時間は大抵このくらいだから、

(きっといるだろうとおもったのがしっぱいだったのかもしれない。まずいなとおもった。)

きっといるだろうと思ったのが失敗だったのかもしれない。マズいなと思った。

(ここでわらいおんなをみておかないと、おおむらはよけいに「あいつはゆうれいだ」って)

ここで笑い女を見ておかないと、大村は余計に「あいつは幽霊だ」って

(おもいこむかもしれないから。それでももうすこしまってれば、)

思い込むかもしれないから。それでももう少し待ってれば、

(いつものようにかいものにあらわれるかもしれないって、おれはねばった。)

いつものように買い物に現れるかもしれないって、俺は粘った。

(そのうちに、おおむらがりょうみみをふさいでがたがたふるえだした。)

そのうちに、大村が両耳を塞いでガタガタ震え出した。

(「きこえるよう、きこえるよう」ってこどもがなきじゃくってるみたいなちょうしで)

「聞こえるよう、聞こえるよう」って子供が泣きじゃくってるみたいな調子で

(はなみずをたらしていう。「やっぱりのろわれてたんだよう」って。)

鼻水を垂らして言う。「やっぱり呪われてたんだよう」って。

(でもおれは、それがわらいおんなののろいなんかできこえてるわけじゃないって)

でも俺は、それが笑い女の呪いなんかで聞こえてる訳じゃないって

(はっきりきづいた。なぜなら「いひゃっいひゃっ」っていうわらいごえは、)

はっきり気付いた。なぜなら「いひゃっいひゃっ」っていう笑い声は、

(おおむらだけじゃなくておれにもきこえてたから。)

大村だけじゃなくて俺にも聞こえてたから。

(くびだけをよこにむけてふりかえると、おれにかたをつかまれたおおむらのまうしろに)

首だけを横に向けて振り返ると、俺に肩を掴まれた大村の真後ろに

(わらいおんながたってた。「いひゃっいひゃっ」ってわらいながらよだれをたらしている。)

笑い女が立ってた。「いひゃっいひゃっ」って笑いながら涎を垂らしている。

(おれはおおむらがぜったいにうしろをふりむかないように、かたをおさえるてにちからをこめた。)

俺は大村が絶対に後ろを振り向かないように、肩を押さえる手に力を込めた。

(ただでさえわらいおんなをこわがっているおおむらが、こんなしきんきょりでとうのほんにんと)

ただでさえ笑い女を怖がっている大村が、こんな至近距離で当の本人と

(むかいあうのはぜったいにまずい。すこしすると(すさまじくながいじかんにかんじたけど))

向かい合うのは絶対にまずい。少しすると(凄まじく長い時間に感じたけど)

(わらいおんなはすーぱーとはぎゃくのほうこうにわらいながらさっていった。)

笑い女はスーパーとは逆の方向に笑いながら去っていった。

(たちさりぎわに、わらいおんなのかおがおれのほうをむいた。)

立ち去り際に、笑い女の顔が俺の方を向いた。

(おれはそれまでわらいおんなをとおまきにみたことはあっても、)

俺はそれまで笑い女を遠巻きに見たことはあっても、

(あんなしきんきょりでましょうめんからみるのははじめてだった。)

あんな至近距離で真正面から見るのは初めてだった。

(くちはにんまりひらかれてるのに、ぼさぼさのかみのなかで)

口はにんまり開かれてるのに、ボサボサの髪の中で

(こっちをむいてるめはぜんぜんわらってない。)

こっちを向いてる目は全然笑ってない。

(でも、こわいとおもったのはそんなことじゃなくて、わらいおんなのくちそのものだった。)

でも、怖いと思ったのはそんな事じゃなくて、笑い女の口そのものだった。

(よだれがくちびるのはしであわになってるわらいおんなのくちには、はがなかった。)

涎が唇の端で泡になってる笑い女の口には、歯がなかった。

(それからあと、おれはずいぶんじぶんかってなことをしたとおもう。)

それから後、俺は随分自分勝手な事をしたと思う。

(なにもしらずにまだふるえてるおおむらを、むりやりばすにのせてひとりでかえらせた。)

何も知らずにまだ震えてる大村を、無理やりバスに乗せて一人で帰らせた。

(もうそのときのおれにとって、おおむらのもうそうとかはどうでもよかった。)

もうその時の俺にとって、大村の妄想とかはどうでもよかった。

(ただただじぶんがみたもののきみわるさがおそろしくて、)

ただただ自分が見たものの気味悪さが恐ろしくて、

(はやくじぶんのへやにかえりたいっていういっしんだった。)

早く自分の部屋に帰りたいっていう一心だった。

(そのひいらい、おおむらはかいしゃにでてこなくなった。)

その日以来、大村は会社に出てこなくなった。

(さいしょはみな(おれいがい)「あいつこのねんまつにさぼりかよ」とかいってたけど、)

最初は皆(俺以外)「あいつこの年末にサボりかよ」とか言ってたけど、

(あまりにもむだんけっきんがつづいたから、いくらなんでもこれはおかしいって)

あまりにも無断欠勤が続いたから、いくらなんでもこれはおかしいって

(はなしになった。そのうちに、おおむらがしんだってことがわかったのが、せんしゅうのきんよう。)

話になった。そのうちに、大村が死んだって事が分かったのが、先週の金曜。

(いまとなっては、おおむらもきづいていたのかわからないけど、)

今となっては、大村も気付いていたのか分からないけど、

(おれにははっきりわかっていることがひとつだけある。)

俺にはハッキリ分かっている事が一つだけある。

(わらいおんなの「いひゃっいひゃっ」ってのは、わらいごえなんかじゃない。)

笑い女の「いひゃっいひゃっ」ってのは、笑い声なんかじゃない。

(よくきくと、「いた、いた」っていってる。)

良く聞くと、「居た、居た」って言ってる。

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