夏目漱石「こころ」3-55
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夏目漱石の「こころ」(下)でございます。
なるべく原文ママで問題を設定しておりますので、誤字なのか原文なのかややこしいとは思われますが最後までお付き合い下さい。
オリジナルの書き方・読み方については以下に載せますので、参考の程よろしくお願い致します。
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6:非道い(ひどい)
7:腥さい(なまぐさい)
23:小魚(こうお)
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お待たせしました。大分期間が空いてしまいました。
楽しみにして下さっている方には申し訳ございません。
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問題文
(にじゅうはち)
二十八
(「けいはあまりたびへでないおとこでした。)
「Kはあまり旅へ出ない男でした。
(わたくしにもぼうしゅうははじめてでした。)
私にも房州は始てでした。
(ふたりはなんにもしらないで、ふねがいちばんさきへついたところからじょうりくしたのです。)
二人は何にも知らないで、船が一番先へ着いた所から上陸したのです。
(たしかほたとかいいました。)
たしか保田とか云いました。
(いまではどんなにかわっているかしりませんが、そのころはひどいぎょそんでした。)
今ではどんなに変っているか知りませんが、その頃は非道い漁村でした。
(だいいちどこもかしこもなまぐさいのです。)
第一何処も彼処も腥さいのです。
(それからうみへはいると、なみにおしたおされて、)
それから海へ入ると、波に押し倒されて、
(すぐてだのあしだのをすりむくのです。)
すぐ手だの足だのを擦り剝くのです。
(こぶしのようなおおきないしがうちよせるなみにもまれて、)
拳のような大きな石が打ち寄せる波に揉まれて、
(しじゅうごろごろしているのです。)
始終ごろごろしているのです。
(わたくしはすぐいやになりました。)
私はすぐ厭になりました。
(しかしけいはいいともわるいともいいません。)
然しKは好いとも悪いとも云いません。
(すくなくともかおつきだけはへいきなものでした。)
少なくとも顔付だけは平気なものでした。
(そのくせかれはうみへはいるたんびにどこかにけがをしないことはなかったのです。)
その癖彼は海へ入るたんびに何処かに怪我をしない事はなかったのです。
(わたくしはとうとうかれをときふせて、そこからとみうらにいきました。)
私はとうとう彼を説き伏せて、其所から富浦に行きました。
(とみうらからまたなこにうつりました。)
富浦から又那古に移りました。
(すべてこのえんがんはそのじぶんからおもにがくせいのあつまるところでしたから、)
総てこの沿岸はその時分から重に学生の集まる所でしたから、
(どこでもわれわれにはちょうどてごろのかいすいよくじょうだったのです。)
何処でも我々には丁度手頃の海水浴場だったのです。
(けいとわたくしはよくかいがんのいわのうえにすわって、とおいうみのいろや、)
Kと私は能く海岸の岩の上に坐って、遠い海の色や、
(ちかいみずのそこをながめました。)
近い水の底を眺めました。
(いわのうえからみおろすみずは、またとくべつにきれいなものでした。)
岩の上から見下す水は、又特別に綺麗なものでした。
(あかいいろだのあいのいろだの、ふつうしじょうにのぼらないようないろをしたこうおが、)
赤い色だの藍の色だの、普通市場に上らないような色をした小魚が、
(すきとおるなみのなかをあちらこちらとおよいでいるのがあざやかにゆびさされました。)
透き通る波の中をあちらこちらと泳いでいるのが鮮やかに指さされました。