夏目漱石「こころ」3-108

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「こころ」3-108
下)先生と遺書
夏目漱石の「こころ」(下)でございます。
なるべく原文ママで問題を設定しておりますので、誤字なのか原文なのかややこしいとは思われますが最後までお付き合い下さい。

オリジナルの書き方・読み方については以下に載せますので、参考の程よろしくお願い致します。
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23:睜る(みはる)
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作成したまま公開していませんでした。
申し訳ございませんでした。

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問題文

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(ごじゅうご)

五十五

(「しんだつもりでいきていこうとけっしんしたわたくしのこころは、)

「死んだ積りで生きて行こうと決心した私の心は、

(ときどきげかいのしげきでおどりあがりました。)

時々外界の刺戟で躍り上がりました。

(しかしわたくしがどのほうめんへきってでようとおもいたつやいなや、)

然し私がどの方面へ切って出ようと思い立つや否や、

(おそろしいちからがどこからかでてきて、)

恐ろしい力が何処からか出て来て、

(わたくしのこころをぐいとにぎりしめてすこしもうごけないようにするのです。)

私の心をぐいと握り締めて少しも動けないようにするのです。

(そうしてそのちからが)

そうしてその力が

(わたくしにおまえはなにをするしかくもないおとこだとおさえつけるようにいってきかせます。)

私に御前は何をする資格もない男だと抑え付けるように云って聞かせます。

(するとわたくしはそのいちげんですぐぐたりとしおれてしまいます。)

すると私はその一言で直ぐたりと萎れてしまいます。

(しばらくしてまたたちあがろうとすると、またしめつけられます。)

しばらくして又立ち上がろうとすると、又締め付けられます。

(わたくしははをくいしばって、なんでひとのじゃまをするのかとどなりつけます。)

私は歯を食いしばって、何で他の邪魔をするのかと怒鳴り付けます。

(ふかしぎなちからはひややかなこえでわらいます。)

不可思議な力は冷かな声で笑います。

(じぶんでよくしっているくせにといいます。)

自分で能く知っている癖にと云います。

(わたくしはまたぐたりとなります。)

私は又ぐたりとなります。

(はらんもきょくせつもないたんちょうなせいかつをつづけてきたわたくしのないめんには、)

波瀾も曲折もない単調な生活を続けて来た私の内面には、

(つねにこうしたくるしいせんそうがあったものとおもってください。)

常にこうした苦しい戦争があったものと思って下さい。

(さいがみてはがゆがるまえに、)

妻が見て歯痒がる前に、

(わたくしじしんがなんそうばいはがゆいおもいをかさねてきたかしれないくらいです。)

私自身が何層倍歯痒い思いを重ねて来たか知れない位です。

(わたくしがこのろうやのうちにじっとしていることがどうしてもできなくなったとき、)

私がこの牢屋の中に凝としている事がどうしても出来なくなった時、

(またそのろうやをどうしてもつきやぶることができなくなったとき、)

又その牢屋をどうしても突き破る事が出来なくなった時、

など

(ひっきょうわたくしにとっていちばんらくなどりょくですいこうできるものは)

必竟私にとって一番楽な努力で遂行出来るものは

(じさつよりほかにないとわたくしはかんずるようになったのです。)

自殺より外にないと私は感ずるようになったのです。

(あなたはなぜといってめをみはるかもしれませんが、)

貴方は何故と云って眼を睜るかも知れませんが、

(いつもわたくしのこころをにぎりしめにくるそのふかしぎなおそろしいちからは、)

何時も私の心を握り締めに来るその不可思議な恐ろしい力は、

(わたくしのかつどうをあらゆるほうめんでくいとめながら、)

私の活動をあらゆる方面で食い留めながら、

(しのみちだけをじゆうにわたくしのためにあけておくのです。)

死の道だけを自由に私のために開けて置くのです。

(うごかずにいればともかくも、すこしでもうごくいじょうは、)

動かずにいればともかくも、少しでも動く以上は、

(そのみちをあるいてすすまなければわたくしにはすすみようがなくなったのです。)

その道を歩いて進まなければ私には進みようがなくなったのです。

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