怖い話《ユキオ》

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問題文

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(しょうがっこうのころ、おれのくらすにゆきおっていうやつがてんこうしてきた。)

小学校の頃、俺のクラスにユキオっていうやつが転校してきた。

(こがらではーふっぽいかおで、どことなくおどおどしたかんじのやつだった。)

小柄でハーフっぽい顔で、どことなくオドオドした感じの奴だった。

(ゆきおにはりょうしんがいなくて、じいちゃんとばあちゃんといっしょにくらしていた。)

ユキオには両親がいなくて、爺ちゃんと婆ちゃんと一緒に暮らしていた。

(そのへんのじじょうを、せんせいはおしえてくれなかったが、ゆきおほんにんからきいた。)

その辺の事情を、先生は教えてくれなかったが、ユキオ本人から聞いた。

(おれたちは、さいしょのうち、ゆきおをいじめた。)

俺達は、最初のうち、ユキオをいじめた。

(といっても、かねおどしとったりとかじゃなくて、すれちがいざませなかに)

と言っても、金脅し取ったりとかじゃなくて、すれ違いざま背中に

(えるぼーをしたり、ふでばこをかったーできったり、しゅうかいのときにおならをしたりと)

エルボーをしたり、筆箱をカッターで切ったり、集会の時にオナラをしたりと

(さわぎたててみたり、まぁたわいもないものだったとおもう。)

騒ぎ立ててみたり、まぁ他愛もないものだったと思う。

(それでも、ほんにんにはつらかったかもしれんけど。)

それでも、本人には辛かったかもしれんけど。

(だけど、ゆきおはふだんおどおどしてるくせに、そんなときはみょうにこんじょうをみせて、)

だけど、ユキオは普段オドオドしてるくせに、そんな時は妙に根性を見せて、

(ないたりむきになったりすることがなかった。せんせいにつげぐちもしなかった。)

泣いたりムキになったりする事が無かった。先生に告げ口もしなかった。

(だから、あまりおもしろくなくて、そのうちおれらもいじめたりしなくなった。)

だから、あまり面白くなくて、そのうち俺らもいじめたりしなくなった。

(ただ、ゆきおはよくがっこうをやすんだ。)

ただ、ユキオは良く学校を休んだ。

(つきにどれくらいやすんだのかはわすれたけど、)

月にどれくらい休んだのかは忘れたけど、

(しょっちゅうやすんでたっていういんしょうはある。)

しょっちゅう休んでたっていう印象はある。

(そのころ、うちのがっこうでは、きゅうしょくのぱんをやすんだやつのところへ、)

その頃、うちの学校では、給食のパンを休んだ奴のところへ、

(おなじくらすできんじょのやつがとどけるっているるーるがあった。)

同じクラスで近所の奴が届けるっているルールがあった。

(ゆきおのいえにぱんをとどけるのはおれのやくめだった。)

ユキオの家にパンを届けるのは俺の役目だった。

(いえははなれていたけれど、どうきゅうではいちばんちかいし、よくとおるかえりみちのとちゅうだったし。)

家は離れていたけれど、同級では一番近いし、良く通る帰り道の途中だったし。

(ゆきおのいえはもくぞうのぶんかじゅうたくで、じいちゃんばあちゃんがすんでそうないえだった。)

ユキオの家は木造の文化住宅で、爺ちゃん婆ちゃんが住んでそうな家だった。

など

(なかにはいったことはなかった。なんとなくくらいかんじで、おれてきにいやなふんいきのいえだった。)

中に入った事は無かった。何となく暗い感じで、俺的に嫌な雰囲気の家だった。

(ぱんをとどけるときは、いつもばあちゃんにぱんをわたしてそそくさとかえった。)

パンを届ける時は、いつも婆ちゃんにパンを渡してそそくさと帰った。

(あるひ、またゆきおがやすんだので、おれはぱんをとどけにいった。)

ある日、またユキオが休んだので、俺はパンを届けに行った。

(げんかんでよぶと、めずらしくゆきおほんにんがでてきた。)

玄関で呼ぶと、珍しくユキオ本人が出てきた。

(かぜでもひいているのか、かおいろがわるい。)

風邪でも引いているのか、顔色が悪い。

(ゆきおはおれに、いえのなかにはいるようにさそった。)

ユキオは俺に、家の中に入るように誘った。

(「xxxがあるから、やろうよ。」とかいって、そのおもちゃはおれの)

「xxxがあるから、やろうよ。」とか言って、そのおもちゃは俺の

(ほしかったやつだったんで、いやなかんじをふりはらって、いえのなかにはいった。)

欲しかったやつだったんで、嫌な感じを振り払って、家の中に入った。

(ゆきおのへやにはいって、ちょっとおどろいた。)

ユキオの部屋に入って、ちょっと驚いた。

(そこらじゅうにしーるやすてっかーがべたべたとはってあって、)

そこら中にシールやステッカーがベタベタと貼ってあって、

(そのなかにはじんじゃのおふだみないなものもまざっていた。)

その中には神社のお札みないなものも混ざっていた。

(おれらがはいってきたふすまにもすきまがないくらいはってある。)

俺らが入ってきた襖にも隙間がないくらい貼ってある。

(「・・・なんだ、これ。」「おじいちゃんとおばあちゃんがおふだをはるんだけど)

「・・・なんだ、これ。」「おじいちゃんとおばあちゃんがお札を貼るんだけど

(それだけだとなんとなくこわいからしーるもはるんだ。」)

それだけだと何となく怖いからシールも貼るんだ。」

(ゆきおがじぶんでかいたようなおふだもあった。「おふだやぶったらいいじゃん。」)

ユキオが自分で書いたようなお札もあった。「お札破ったらいいじゃん。」

(「そんなことしたら、おじいちゃんにいかられるし・・・」)

「そんな事したら、おじいちゃんに怒られるし・・・」

(ゆきおはくちごもってしまった。)

ユキオは口籠ってしまった。

(そのひは、ゆきおのへやでいちじかんぐらいあそんでかえった。)

その日は、ユキオの部屋で一時間ぐらい遊んで帰った。

(つぎのひも、ゆきおはがっこうをやすんだ。せんせいがおれにゆきおのようすをきいてきた。)

次の日も、ユキオは学校を休んだ。先生が俺にユキオの様子を聞いてきた。

(なんかちょうしわるそうだった、というと)

なんか調子悪そうだった、と言うと

(「そうか・・・やすむっていうでんわもかかってこないから、)

「そうか・・・休むっていう電話も掛かってこないから、

(どんなようすなのかとおもってな。」「でんわしたら?」)

どんな様子なのかと思ってな。」「電話したら?」

(「いや、したんだけどだれもでないんだ。おじいさんかおばあさんは、いたか?」)

「いや、したんだけど誰も出ないんだ。おじいさんかおばあさんは、居たか?」

(「きのうはみなかった。」)

「昨日は見なかった。」

(「やすむんだったらでんわしてくれって、ゆきおにでもいいからいっといてくれ。」)

「休むんだったら電話してくれって、ユキオにでもいいから言っといてくれ。」

(そのひもゆきおのへやであそんだ。ゆきおはおもちゃをたくさんもっていた。)

その日もユキオの部屋で遊んだ。ユキオはおもちゃを沢山持っていた。

(すこしうらやましくなってきくと、おとうさんとおかあさんがかってくれた、とこたえた。)

少し羨ましくなって聞くと、お父さんとお母さんが買ってくれた、と答えた。

(「おまえのおとうさんとおかあさんってどこにいるんだよ?」)

「お前のお父さんとお母さんってどこにいるんだよ?」

(「しんだ。」ゆきおはあっさりとそういった。)

「死んだ。」ユキオはあっさりとそう言った。

(「なんで?」「こうつうじこ。」)

「何で?」「交通事故。」

(おもちゃをいじりながらうつむいてこたえるゆきおをみて、)

おもちゃをいじりながら俯いて答えるユキオを見て、

(さすがに、これいじょうはわるいきがして、はなしをかえた。)

流石に、これ以上は悪い気がして、話を変えた。

(「あしたはがっこういく?」「わかんない。」)

「明日は学校行く?」「分かんない。」

(「おまえ、だいじょうぶかよ。」「・・・」)

「お前、大丈夫かよ。」「・・・」

(「やすむときはでんわしろってせんせいいってたぞ。」「・・・ごめん。」)

「休む時は電話しろって先生言ってたぞ。」「・・・ごめん。」

(「おれにいってもしょーがないよ。おじいちゃんとおばあちゃんは?」)

「俺に行ってもしょーがないよ。おじいちゃんとおばあちゃんは?」

(「おくのへやにいるよ。」「じゃあ、そういっとけよな。」)

「奥の部屋にいるよ。」「じゃあ、そう言っとけよな。」

(「・・・ねれないんだ。」「はぁ?」)

「・・・眠れないんだ。」「はぁ?」

(「おとうさんとおかあさんがゆめにでてきて、ぼくのことをよぶんだ。」「・・・」)

「お父さんとお母さんが夢に出てきて、僕の事を呼ぶんだ。」「・・・」

(「ゆきお、ゆきおってぼくのことをなんどもよぶんだ。それがこわくて、)

「ユキオ、ユキオって僕の事を何度も呼ぶんだ。それが怖くて、

(だからねむれないんだ。」「・・・」)

だから眠れないんだ。」「・・・」

(「きのうは、うでをつかまれた、ぼくをつれていくつもりなんだ。」)

「昨日は、腕を掴まれた、僕を連れて行くつもりなんだ。」

(おれはだんだんこわくなってきて、かえるというとゆきおはやけにしつこくひきとめた。)

俺は段々怖くなってきて、帰ると言うとユキオはやけにしつこく引き留めた。

(「おまえがこわいのはわかるけど、おれがここにとまるわけにはいかねーだろ?」)

「お前が怖いのは分かるけど、俺がここに泊まる訳にはいかねーだろ?」

(「なんで?」「おれんちはおかあさんがしんぱいするから・・・」)

「何で?」「俺んちはお母さんが心配するから・・・」

(そこまでいって、「やば!」っておもった。ゆきおはうつむいてなにもいわなくなった。)

そこまで言って、「ヤバ!」って思った。ユキオは俯いて何も言わなくなった。

(おれは、いたたまれなくなって、ゆきおのいえをなかばとびだすようにでていった。)

俺は、居たたまれなくなって、ユキオの家を半ば飛び出すように出て行った。

(つぎのひもゆきおはがっこうをやすんだ。)

次の日もユキオは学校を休んだ。

(せんせいはいっしょにいくといって、かえりにおれをくるまにのせてゆきおのいえにむかった。)

先生は一緒に行くと言って、帰りに俺を車に乗せてユキオの家に向かった。

(せんせいがげんかんでよんでも、なにのへんじもなかった。)

先生が玄関で呼んでも、何の返事もなかった。

(げんかんをあけるとせんせいがかおをしかめた。くつをぬいでいえにあがった。)

玄関を開けると先生が顔をしかめた。靴を脱いで家に上がった。

(だいどころやゆきおのへやにはだれもいなかった。)

台所やユキオの部屋には誰もいなかった。

(ゆきおのへやをでるとみぎてにへやがあった。)

ユキオの部屋を出ると右手に部屋があった。

(ゆきおがきのういっていたおくのへやというのはそこなんだろう、とおれはおもった。)

ユキオが昨日言っていた奥の部屋というのはそこなんだろう、と俺は思った。

(せんせいがそこのふすまをあけた。そのとたん、せんせいはたちすくんで、すぐにふすまをしめた。)

先生がそこの襖を開けた。その途端、先生は立ち竦んで、すぐに襖を閉めた。

(そのいっしゅんのあいだに、せんせいのからだごしにへやのなかがみえた。)

その一瞬の間に、先生の体越しに部屋の中が見えた。

(ゆきおのちぬれのかおがみえた。それから、せんせいがけいさつをよんだんだとおもう。)

ユキオの血濡れの顔が見えた。それから、先生が警察を呼んだんだと思う。

(そのひのそこからさきのことはほとんどおぼえていないけれど、けいさつはきていた。)

その日のそこから先の事はほとんど覚えていないけれど、警察は来ていた。

(つぎのひせんせいがゆきおとじいちゃんばあちゃんがしんだことをくらすのみなにつたえた。)

次の日先生がユキオと爺ちゃん婆ちゃんが死んだことをクラスの皆に伝えた。

(けれどちまみれだったとはいわなかった。ただ、しんだといった。)

けれど血塗れだったとは言わなかった。ただ、死んだと言った。

(あとで、おれはせんせいのゆきおのゆめのはなしをした。せんせいはしばらくだまってきいていた。)

後で、俺は先生のユキオの夢の話をした。先生は暫く黙って聞いていた。

(そして、だれにもいうなといって、おれにゆきおのりょうしんのことをおしえてくれた。)

そして、誰にも言うなと言って、俺にユキオの両親の事を教えてくれた。

(ゆきおのおやのしいんはじさつだった。いっかしんじゅうをはかっていた。)

ユキオの親の死因は自殺だった。一家心中を図っていた。

(ゆきおはそのとき、うんよくいきのびて、じいちゃんばあちゃんのところへひきとられた。)

ユキオはその時、運よく生き延びて、爺ちゃん婆ちゃんの所へ引き取られた。

(おれはそれをきいても、そんなにおどろかなかった。なんとなく、そんなきがしていた。)

俺はそれを聞いても、そんなに驚かなかった。何となく、そんな気がしていた。

(なんにちかして、おれはけいさつによばれて、ゆきおのいえにいったときのことをはなした。)

何日かして、俺は警察に呼ばれて、ユキオの家に行った時の事を話した。

(ゆきおのゆめのこともはなした。けいさつはおれに、そのはなしがうそでないかをしつこくきいた。)

ユキオの夢の事も話した。警察は俺に、その話が嘘でないかをしつこく聞いた。

(おれはうそじゃないとなんどでもいった。)

俺は嘘じゃないと何度でも言った。

(「ほんとうにきみあのいえで、ゆきおくんからそのはなしをきいたのかい?」「うん。」)

「本当に君あの家で、ユキオ君からその話を聞いたのかい?」「うん。」

(いっしょにきていたせんせいがこまったかおをしていた。)

一緒に来ていた先生が困った顔をしていた。

(けいさつがせんせいにむかって、ひょいひょいとてをふった。)

警察が先生に向かって、ひょいひょいと手を振った。

(それがあいずだったのか、せんせいはしばらくかんがえてからおれにいった。)

それが合図だったのか、先生は暫く考えてから俺に言った。

(「あのなぁ、おれとおまえがゆきおのいえにいっただろ。あのとき・・・」)

「あのなぁ、俺とお前がユキオの家に行っただろ。あの時・・・」

(せんせいはいいにくそうだった。おれはいやなよかんがした。)

先生は言いにくそうだった。俺は嫌な予感がした。

(「・・・あのとき、ゆきおたちは、まちがいなく、しんでみっかはたっていたんだ。」)

「・・・あの時、ユキオ達は、間違いなく、死んで三日は経っていたんだ。」

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