洒落怖《カン、カン》2

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プレイ回数157難易度(4.3) 4058打 長文

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問題文

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(おんなのかおをむきあったしゅんかん、わたしはもうきがおかしくなりそうでした。)

女の顔を向き合った瞬間、私はもう気がおかしくなりそうでした。

(おんなのりょうめには、めのなかにぴったりおさまるおおきさのてつくぎがささっていた。)

女の両目には、目の中にぴったり収まる大きさの鉄釘が刺さっていた。

(よくみると、りょうてにはどんきのようなものがにぎられている。)

よく見ると、両手には鈍器のようなものが握られている。

(そしてくちだけでわらいながらこういった。)

そして口だけで笑いながらこう言った。

(「あなたも・・・あなたたちかぞくもおしまいね。ふふふ」)

「あなたも・・・あなた達家族もお終いね。ふふふ」

(つぎのひ、きがつくとわたしはじぶんのへやのべっどでねていました。)

次の日、気が付くと私は自分の部屋のベッドで寝ていました。

(わたしはすこししてきのうなにがあったのかおもいだし、)

私は少しして昨日何があったのか思い出し、

(ははに、いまでねていたわたしをへやまではこんでくれたのか、)

母に、居間で寝ていた私を部屋まで運んでくれたのか、

(ときいてみましたが、なにのことだというのです。)

と聞いてみましたが、何の事だと言うのです。

(いもうとにきいてもおなじで「どうせねぼけてたんでしょーが」とけらけたわらわれた。)

妹に聞いても同じで「どうせ寝ぼけてたんでしょーが」とけらけた笑われた。

(しかも、わたしがへやのかべをたたいたときには、いもうとはすでにじゅくすいしていたとのことでした。)

しかも、私が部屋の壁を叩いた時には、妹は既に熟睡していたとの事でした。

(そんなはずない。)

そんなはずない。

(わたしはたしかにいまであれをみて、そこでいしきをうしなったはずです。)

私は確かに居間であれを見て、そこで意識を失ったはずです。

(だれかがいまでたおれてるわたしをみつけて、べっどにはこんだとしかかんがえられない。)

誰かが居間で倒れてる私を見つけて、ベッドに運んだとしか考えられない。

(でもあらためておもいだそうとしても、あたまがもやもやしていました。)

でも改めて思い出そうとしても、頭がモヤモヤしていました。

(ただ、さいごのあのおぞましいひょうじょうと、)

ただ、最後のあのおぞましい表情と、

(にやりとわらったくちからでたことばははっきりおぼえていた。)

ニヤリと笑った口から出た言葉ははっきり覚えていた。

(わたしと、かぞくがおしまいだと。)

私と、家族がお終いだと。

(いへんはそのひのうちにおこりました。)

異変はその日のうちに起こりました。

(わたしがゆうがたごろ、がっこうからかえってきてげんかんのどあをあけたときです。)

私が夕方頃、学校から帰ってきて玄関のドアを開けた時です。

など

(いつもならいまにはははがいて、きっちんでゆうしょくを)

いつもなら居間には母がいて、キッチンで夕食を

(つくっているはずであるのに、いまのほうはまっくらでした。)

作っているはずであるのに、居間の方は真っ暗でした。

(でんきがきえています。)

電気が消えています。

(「おかあさん、どこにいるのー?」)

「お母さん、どこにいるのー?」

(わたしはげんかんからそういいましたが、いえのなかはしんとしずまりかえって、)

私は玄関からそう言いましたが、家の中はしんと静まりかえって、

(まるでひとのけはいがしません。)

まるで人の気配がしません。

(かぎはひらいているのに・・・かけわすれてかいものにでもいったのだろうか。)

カギは開いているのに・・・掛け忘れて買い物にでも行ったのだろうか。

(のんきなははなので、たまにこういうこともあるのです。)

のんきな母なので、たまにこういう事もあるのです。

(やれやれとおもいながら、くつをぬいでいえにあがろうとしたそのしゅんかん、)

やれやれと思いながら、靴を脱いで家に上がろうとしたその瞬間、

(かん、かん。いまのほうでなにかのおとがしました。)

カン、カン。居間の方で何かの音がしました。

(わたしはぜんしんのちというちが、いっきにこおりついたようなきがしました。)

私は全身の血という血が、一気に凍りついたような気がしました。

(すうねんまえと、そしてきのうとまったくおなじあのおと。)

数年前と、そして昨日と全く同じあの音。

(だめだ。これいじょうここにいてはいけない。)

ダメだ。これ以上ここに居てはいけない。

(きょうふへのほんのうがりせいをかきけしました。)

恐怖への本能が理性をかき消しました。

(どあをらんぼうにあけ、むがむちゅうであぱーとのかいだんをかけおりました。)

ドアを乱暴に開け、無我夢中でアパートの階段を駆け下りました。

(いったいなにがあったのだろうか?おかあさんはどこにいるの?いもうとは?)

一体何があったのだろうか?お母さんは何処にいるの?妹は?

(かぞくのことをかんがえて、さっきのおとをなんとかしてわすれようとしました。)

家族の事を考えて、さっきの音を何とかして忘れようとしました。

(これいじょうあれのことをかんがえていると、きがくるってしまいそうだったのです。)

これ以上アレの事を考えていると、気が狂ってしまいそうだったのです。

(すっかりくらくなったろじをはしりにはしったあげく、)

すっかり暗くなった路地を走りに走った挙句、

(わたしはちかくのすーぱーにきていました。)

私は近くのスーパーに来ていました。

(「おかあさん、きっとかいものしてるよね」とひとりでつぶやき、)

「お母さん、きっと買い物してるよね」と一人で呟き、

(きれたいきをとりもどしながらなかにはいりました。)

切れた息を取り戻しながら中に入りました。

(じかんたいがじかんたいなので、みせのなかにひとはあまりいなかった。)

時間帯が時間帯なので、店の中に人はあまりいなかった。

(わたしとおなじくらいのちゅうがくせいらしきひともいれば、)

私と同じくらいの中学生らしき人もいれば、

(ゆうしょくのざいりょうをちょうたつしにきたとみえるしゅふっぽいひともいた。)

夕食の材料を調達しに来たと見える主婦っぽい人もいた。

(そのいたってつうじょうのこうけいをみて、すこしだけきぶんがおちついてきたので、)

その至って通常の光景を見て、少しだけ気分が落ち着いてきたので、

(わたしはさきほどいえでおこったことをかんがえました。)

私は先ほど家で起こった事を考えました。

(まっくらないま、ひらいていたかぎ、そしてあのきんぞくおん。)

真っ暗な居間、開いていた鍵、そしてあの金属音。

(いえのなかにはだれもいなかったはず。あれいがいは。)

家の中には誰もいなかったはず。あれ以外は。

(わたしがげんかんさきでははをよんだときの、あのいえのいようなしずけさ。)

私が玄関先で母を呼んだ時の、あの家の異様な静けさ。

(あのじょうたいでひとなんかいるはずがない・・・でも、もしいたら?)

あの状態で人なんかいるはずがない・・・でも、もしいたら?

(わたしはげんかんまでしかはいっていないのでちゃんとなかをみていない。)

私は玄関までしか入っていないのでちゃんと中を見ていない。

(ただいなずまがきえていただけ。)

ただ電が消えていただけ。

(もしかするとははは、どこかのへやでねていて、)

もしかすると母は、どこかの部屋で寝ていて、

(わたしのこえにきづかなかっただけかもしれない。なんとかしてたしかめたい。)

私の声に気付かなかっただけかもしれない。何とかして確かめたい。

(そうおもい、わたしはいえにでんわをかけてみることにしたのです。)

そう思い、私は家に電話を掛けてみる事にしたのです。

(すーぱーのわきにあるこうしゅうでんわ。)

スーパーの脇にある公衆電話。

(おかねをいれて、ふるえるゆびでしんちょうにばんごうをおしていきました。)

お金を入れて、震える指で慎重に番号を押していきました。

(じゅわきをもつてのふるえがとまりません。)

受話器を持つ手の震えが止まりません。

(いっかい、にかい、さんかい・・・こーるおんがあたまのおくまでひびいてきます。)

一回、二回、三回・・・コール音が頭の奥まで響いてきます。

(「がちゃ」だれかがでんわをとりました。わたしはいきをのんだ。たえがたいしゅんかん。)

「ガチャ」誰かが電話を取りました。私は息を呑んだ。耐え難い瞬間。

(「もしもし、どなたですか?」そのこえはははだった。)

「もしもし、どなたですか?」その声は母だった。

(そのおだやかなこえをきいて、わたしはほっとしました・・・)

その穏やかな声を聞いて、私はほっとしました・・・

(「もしもし、おかあさん?」)

「もしもし、お母さん?」

(「あら、どうしたの。きょうはずいぶんとおそいじゃない。なにがあったの?」)

「あら、どうしたの。今日は随分と遅いじゃない。何があったの?」

(わたしのてはふたたびふるえはじめました。てだけじゃない。)

私の手は再び震え始めました。手だけじゃない。

(あしもがくがくふるえだして、たっているのがやっとだった。)

足もガクガク震え出して、立っているのがやっとだった。

(あまりにもおかしいです。)

あまりにもおかしいです。

(いくられいせいさをうしなっていたわたしでも、このいじょうにはきづきました。)

いくら冷静さを失っていた私でも、この異常には気付きました。

(「なんで・・・おかかさ・・・」)

「なんで・・・お母さ・・・」

(「え?なんでってなにが・・・ちょっと、だいじょうぶ?ほんとうにどうしたの?」)

「え?何でって何が・・・ちょっと、大丈夫?本当にどうしたの?」

(おかあさんがいま、こうやってでんわにでれるはずがない。)

お母さんが今、こうやって電話に出れるはずがない。

(わたしのいえにはいまにしかでんわがないのです。)

私の家には居間にしか電話がないのです。

(さっきいまにいたのはおかあさんではなく、あのばけものだったのに。)

さっき居間にいたのはお母さんではなく、あのバケモノだったのに。

(なのにどうして、このひとはへいぜんとでんわにでているのだろう。)

なのにどうして、この人は平然と電話に出ているのだろう。

(それに、きょうはずいぶんとおそいじゃないと、)

それに、今日は随分と遅いじゃないと、

(まるでさいしょからいままでずっといえにいたかのようないいかた。)

まるで最初から今までずっと家にいたかのような言い方。

(わたしはでんわのむこうでなにげなくわたしとはなしをしているじんぶつが、)

私は電話の向こうで何気なく私と話をしている人物が、

(えたいのしれないもののようにしかおもえなかった。)

得体の知れないもののようにしか思えなかった。

(そして、かわききったくちからなんとかしぼってだしたこえがこれだった。)

そして、乾ききった口から何とか絞って出した声がこれだった。

(「あなたは、だれなの?」)

「あなたは、誰なの?」

(「え?だれって・・・」)

「え?誰って・・・」

(すこしのまをおいてへんじがきこえた。)

少しの間を置いて返事が聞こえた。

(「あなたのおかあさんよ。ふふふ」)

「あなたのお母さんよ。ふふふ」

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