先生 前編 -9-

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問題文
(なにごともなかったかのようにせんせいは、そのあとてーばいはあてねとれんごうして)
何事もなかったかのように先生は、その後テーバイはアテネと連合して
(ほっぽうからのしんりゃくしゃまけどにあとたたかったけれどやぶられてしまい、)
北方からの侵略者マケドニアと戦ったけれど破られてしまい、
(じだいはぽりすをちゅうしんとしたとしこっかしゃかいからまけどにあの)
時代はポリスを中心とした都市国家社会からマケドニアの
(あれくさんどろすだいおうによるきょだいなせんせいこっかしゃかいへとうつっていった、とつづけた。)
アレクサンドロス大王による巨大な専制国家社会へと移っていった、と続けた。
(そのかきなおしのいみはそのときにはわからなかった。)
その書き直しの意味はその時にはわからなかった。
(ただせんせいのせなかがそのいっしゅん、おもくしずんだようなきがしたのはたしかだった。)
ただ先生の背中がその一瞬、重く沈んだような気がしたのは確かだった。
(へれにずむぶんかのせつめいまでおわって、ようやくせんせいはてをとめた。)
ヘレニズム文化の説明まで終わって、ようやく先生は手を止めた。
(「つかれたね。ずっとおなじかもくばかりっていうのもあきちゃうから、)
「疲れたね。ずっと同じ科目ばかりっていうのも飽きちゃうから、
(こんどはこんなのをやってみない?」)
今度はこんなのをやってみない?」
(そういってわたされたのがさんすうのもんだいがかかれたかみ。)
そう言って渡されたのが算数の問題が書かれた紙。
(げっとおもったが、よくみるとあんがいかんたんそう。)
ゲッと思ったが、よく見ると案外簡単そう。
(「どこまですすんでるのかわからないから。すこしむずかしいかも」)
「どこまで進んでるのか分からないから。少し難しいかも」
(そんなことはないですぜ。とばかりにすぱっとといてやると)
そんなことはないですぜ。とばかりにスパッと解いてやると
(せんせいは「すごいすごい」とてをたたいて、「じゃあ、これは」とつぎのかみをだしてきた。)
先生は「凄い凄い」と手を叩いて、「じゃあ、これは」と次の紙を出してきた。
(よゆうよゆう。え?さらにつぎもあるの?こんどはしょうじきちょっとむずかしいけど、)
余裕余裕。え?さらに次もあるの?今度は正直ちょっと難しいけど、
(なんとかわかるきがする。ぼくはえんぴつをにぎりしめた。)
なんとか分かる気がする。僕は鉛筆を握り締めた。
(そうしていつのまにかせかいしのじゅぎょうはさんすうのじゅぎょうにかわり、)
そうしていつのまにか世界史の授業は算数の授業に変わり、
(たっぷりともんだいをとかされたところでおひるになった。)
たっぷりと問題を解かされたところでお昼になった。
(「またあしたね」)
「また明日ね」
(かえりみち、けっきょく「きらい」だとめいげんしたはずのさんすうをいつのまにか)
帰り道、結局「嫌い」だと明言したはずの算数をいつのまにか
(やらされていたことにくびをひねりながらあるいた。)
やらされていたことに首を捻りながら歩いた。
(さんすうのもんだいはぷりんとじゃなくてがきで、それをといていると)
算数の問題はプリントじゃなく手書きで、それを解いていると
(なんだかせんせいとかいわしているようなへんなきになる。)
なんだか先生と会話しているような変な気になる。
(それほどいやじゃなかった。またあしたいこうとおもった。)
それほど嫌じゃなかった。また明日行こうと思った。
(そうして、ぼくとせんせいのなつやすみがっこうがつづいた。あさはせかいしのこうぎ。)
そうして、僕と先生の夏休み学校が続いた。朝は世界史の講義。
(つぎにさんすう。それからいつのまにやらかんじのかきとりがくわわっていた。)
次に算数。それからいつのまにやら漢字の書取りが加わっていた。
(ほかのこはだれもなつやすみがっこうにこなかった。)
ほかの子は誰も夏休み学校にこなかった。
(「わるいかぜがはやってるから、あなたもきをつけてね」といわれて、)
「悪い風邪が流行ってるから、あなたも気をつけてね」と言われて、
(ぼくはちからづよくうなずく。)
僕は力強く頷く。
(せかいしのべんきょうはおもしろく、はしりばしりではあったけれどれきしのみりょくを)
世界史の勉強は面白く、走りばしりではあったけれど歴史の魅力を
(じゅうぶんぼくにつたえてくれた。さんすうやかんじのかきとりのじかんは)
十分僕に伝えてくれた。算数や漢字の書き取りの時間は
(あんまりたのしくはなかったけれど、できてそのかみをせんせいにみせるときの)
あんまり楽しくはなかったけれど、出来てその紙を先生に見せる時の
(あのほこらしいようなてれくさいようなかんじはきらいじゃなかった。)
あの誇らしいような照れくさいような感じはキライじゃなかった。
(ぼくがもんだいをといているあいだ、せんせいはまどべのせきにこしかけておりがみをつくっていた。)
僕が問題を解いているあいだ、先生は窓辺の席に腰掛けて折り紙を作っていた。
(それはちいさいおりづるで、あるていどかずがまとまってから)
それは小さい折鶴で、ある程度数がまとまってから
(せんせいはいとをとおしたつるたちをまどにかけた。)
先生は糸を通した鶴たちを窓にかけた。
(「みんなはやくかぜがなおればいいのにね」)
「みんな早く風邪が治ればいいのにね」
(そしてまたつぎのつるをおるのだった。)
そしてまた次の鶴を折るのだった。
(ぼくはふきんしんにも、かぜなんかなおらなくていいよとこころのそこではおもっていた。)
僕は不謹慎にも、風邪なんか治らなくていいよと心の底では思っていた。
(せんせいとのふたりだけのじかんをもっとすごしたかった。)
先生との二人だけの時間をもっと過ごしたかった。
(でも、ぼくがつくえのうえのもんだいにかかりっきりになっているあいだ)
でも、僕が机の上の問題にかかりっきりになっているあいだ
(まどべにすわるせんせいのよこがおはさびしそうで、)
窓辺に座る先生の横顔は寂しそうで、
(そのひとみがまどのそとをぼうっとみるたびになんだかぼくはせつなくなるのだった。)
その瞳が窓の外をぼうっと見るたびになんだか僕は切なくなるのだった。
(「ことばがちがうね」とぼくにいったせんせいじしんも、そのことばにはなまりが)
「言葉が違うね」と僕に言った先生自身も、その言葉には訛りが
(ほとんどなかった。こうこうにはいるときとうきょうにでて、だいがくもとうきょうのだいがくにうかって)
ほとんどなかった。高校に入る時東京に出て、大学も東京の大学に受かって
(ずっとむこうでくらしていたらしい。それがとうきょうでしゅうしょくもきまっていたのに、)
ずっと向こうで暮らしていたらしい。それが東京で就職も決まっていたのに、
(じっかのおかあさんがたおれたというのですべてをなげうって)
実家のお母さんが倒れたというのですべてを投げ打って
(かえってきたんだそうだ。そのはなしをしてくれたとき、せんせいのひとみのひかりはくもっていた。)
帰ってきたんだそうだ。その話をしてくれた時、先生の瞳の光は曇っていた。
(「わたしのいえはぼしかていでね、おかあさんひとりをのこしてでていっちゃったとき、)
「私の家は母子家庭でね、お母さん一人を残して出て行っちゃった時、
(やっとこんないなかからはなれられるって、それしかかんがえてなかった。)
やっとこんな田舎から離れられるって、それしか考えてなかった。
(なんにもいわずにしおくりをしてくれてたおかあさんがどんなおもいで)
なんにも言わずに仕送りをしてくれてたお母さんがどんな思いで
(このいなかではたらいていたか、ぜんぜんかんがえてなかった」)
この田舎で働いていたか、全然考えてなかった」
(だからいまはりんじしょくいんなどをしながら、いえでははおやのかんごをしているのだそうだ。)
だから今は臨時職員などをしながら、家で母親の看護をしているのだそうだ。
(ぼくはおじゃましたことはないけれど、)
僕はお邪魔したことはないけれど、
(こうしゃのとなりのちいさないえにふたりでくらしているらしい。)
校舎の隣の小さな家に二人で暮らしているらしい。
(せんせいにはなにかやりたいことがあったんだろうとおもう。)
先生にはなにかやりたいことがあったんだろうと思う。
(それをすてて、いまはこうしていなかでこどもたちをおしえている。)
それを捨てて、今はこうして田舎で子どもたちを教えている。
(ちいさなおんぼろのがっこうで。てづくりのもんだいしゅうで。)
小さなオンボロの学校で。手作りの問題集で。
(おひるになって、ぼくがかえるときせんせいはいつもにかいのまどからみをのりだして)
お昼になって、僕が帰る時先生はいつも二階の窓から身を乗り出して
(てをふった。「あしたもきてね」と。)
手を振った。「明日もきてね」と。
(ぼくはいつかなつがおわるなんてかんがえていなかったのかもしれない。)
僕はいつか夏が終わるなんて考えていなかったのかも知れない。
(せみのこえがみみにいつまでものこっていて、せいてんのしたをぽっこぽっことあるいて、)
蝉の声が耳にいつまでも残っていて、晴天の下をポッコポッコと歩いて、
(とおるひとのかげもないみちをまいにちまいにちわくわくしながらかよいつづけた。)
通る人の影もない道を毎日毎日わくわくしながら通い続けた。
(りんかんがっこうからしげちゃんがかえってきても、)
林間学校からシゲちゃんが帰ってきても、
(ごぜんちゅうだけはかれらのあそびのさそいにのらなかった。)
午前中だけは彼らの遊びの誘いに乗らなかった。