先生 中編 -2-

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師匠シリーズ
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1 berry 7979 8.1 97.6% 396.4 3242 79 62 2025/04/27
2 はく 7559 7.8 95.9% 418.3 3302 140 62 2025/04/28

関連タイピング

問題文

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(ところがそのとし、かこくなひでりがつづいてむらはききんにみまわれ、)

ところがその年、過酷な日照りが続いて村は飢饉に見舞われ、

(おおくのむらびとがいのちをおとしてしまった。)

多くの村人が命を落としてしまった。

(いつのまにかもとのひょうじょうにもどっていたどうくつのかおは、それいらいまたむらびとの)

いつのまにか元の表情に戻っていた洞窟の顔は、それ以来また村人の

(いけいのたいしょうになった。そしてかおにゅうどうとよばれて、ねんにすうかいおまつりとして)

畏敬の対象になった。そして顔入道と呼ばれて、年に数回お祭りとして

(かおのぬりなおしがおこなわれては、むらのきっちょうをうらなったのだそうだ。)

顔の塗りなおしが行われては、村の吉兆を占ったのだそうだ。

(「いまでも?」)

「今でも?」

(ぼくがたずねるとしげちゃんはくびをふる。)

僕が訊ねるとシゲちゃんは首を振る。

(「もうやってない。というか、みんなしらない」という。)

「もうやってない。というか、みんな知らない」と言う。

(どうやらそのじだいもすぎて、むらにひとがすくなくなったいまではかおにゅうどうのおまつりが)

どうやらその時代も過ぎて、村に人が少なくなった今では顔入道のお祭りが

(すたれたどころかどのどうくつじたいほとんどしられていないのだそうだ。)

廃れたどころかどの洞窟自体ほとんど知られていないのだそうだ。

(だからこそ「なかまだけのひみつのばしょ」のなのだろう。)

だからこそ「仲間だけの秘密の場所」のなのだろう。

(じいちゃんばあちゃんれんちゅうでもあんまりしらないんじゃないかな、)

じいちゃんばあちゃん連中でもあんまり知らないんじゃないかな、

(としげちゃんはいう。)

とシゲちゃんは言う。

(けれどどこからかそのかおにゅうどうのうわさをききつけたしげちゃんは、)

けれどどこからかその顔入道の噂を聞きつけたシゲちゃんは、

(はるごろにじっさいにみにいったのだそうだ。たろちゃんたちとすうにんのなかまと。)

春ごろに実際に見に行ったのだそうだ。タロちゃんたちと数人の仲間と。

(「どうだった」)

「どうだった」

(ごくりとつばをのんだぼくに、しげちゃんとたろちゃんはかおをみあわせて)

ゴクリと唾を飲んだ僕に、シゲちゃんとタロちゃんは顔を見合わせて

(「ほんとにいわにかおがかいてた。けどおこってなかった」といった。)

「ホントに岩に顔が描いてた。けど怒ってなかった」と言った。

(ほんとうにあるんだ。ぼくはやっぱりそれがみてみたくなった。)

本当にあるんだ。僕はやっぱりそれが見てみたくなった。

(「で、でもさ、こんどはさ、おこってたら、どうする」)

「で、でもさ、今度はさ、怒ってたら、どうする」

など

(たろちゃんがおちつかないようすで、てにもったかいちゅうでんとうをゆらす。)

タロちゃんが落ち着かない様子で、手に持った懐中電灯を揺らす。

(しげちゃんははなでわらって、「そんなことあるもんか」といった。)

シゲちゃんは鼻で笑って、「そんなことあるもんか」と言った。

(よるのやみになんのとりだかわからないなきごえがときどきひびき、)

夜の闇になんの鳥だかわからない鳴き声が時どき響き、

(ぼくはそのたびにからだをかたくする。おびえるきもちをしったしながら、)

僕はそのたびに身体を硬くする。怯える気持ちを叱咤しながら、

(がさがさとくさをかきわけてひたすらかいちゅうでんとうじのひかりをおいかけた。)

ガサガサと草を掻き分けてひたすら懐中電灯時の光を追いかけた。

(やがてやまのちゅうふくあたりできぎがひらけたばしょにでる。「あそこだ」と)

やがて山の中腹あたりで木々が開けた場所に出る。「あそこだ」と

(しげちゃんがひかりをむけた。ごつごつしたいわがころがっているあたりに、)

シゲちゃんが光を向けた。ゴツゴツした岩が転がっているあたりに、

(すこしおくまったどうくつのいりぐちがひっそりをたたずんでいた。)

少し奥まった洞窟の入り口がひっそりを佇んでいた。

(おもわずふみだすあしにちからがはいる。すぐまえが2めーとるくらいの)

思わず踏み出す足に力が入る。すぐ前が2メートルくらいの

(がけになっているので、まわりこんでちかづく。)

崖になっているので、回り込んで近づく。

(いりぐちのまえにたったとき、たろちゃんがおずおずとくちをあいた。)

入り口の前に立った時、タロちゃんがおずおずと口を開いた。

(「なあ、なかにははいらなくていいだろ」)

「なあ、中には入らなくていいだろ」

(「なにいってんだ」)

「なに言ってんだ」

(「いいだろ。ばしょはおしえたんだし、あとはなかはいってまっすぐだし」)

「いいだろ。場所は教えたんだし、あとは中入って真っ直ぐだし」

(たろちゃんはほんかくてきにびびってしまているらしい。ここまできたのは)

タロちゃんは本格的にビビってしまているらしい。ここまで来たのは

(とうしょのもくてきであるぼくをかおにゅうどうのところへつれていくためだと)

当初の目的である僕を顔入道の所へ連れて行くためだと

(あくまでしゅちょうするたろちゃんをしげちゃんが「おくびょうもん」とひなんする。)

あくまで主張するタロちゃんをシゲちゃんが「臆病もん」と避難する。

(そのおびえようにぼくまでこわくなってくる。)

その怯えように僕まで怖くなってくる。

(「ようし、じゃあおれたちがさきにはいってやるからそこでまってろ」)

「ようし、じゃあ俺たちが先に入ってやるからそこで待ってろ」

(かえってきたらこんどはおまえのばんだぞとたろちゃんをにらみつけて、)

帰ってきたら今度はお前の番だぞとタロちゃんを睨みつけて、

(しげちゃんはぼくをうながした。たろちゃんはほっとしたかおで、)

シゲちゃんは僕を促した。タロちゃんはホッとした顔で、

(「ああ、いいよ」とみょうにつよきなくちょうでかえす。)

「ああ、いいよ」と妙に強気な口調で返す。

(なるほど、たろちゃんからしたらどうくつのなかのかおのひょうじょうさえかくにんできたら)

なるほど、タロちゃんからしたら洞窟の中の顔の表情さえ確認できたら

(よいのだろう。おこってさえなければ、いわにえがかれたかおがかわるなんて、)

良いのだろう。怒ってさえなければ、岩に描かれた顔が変わるなんて、

(そんなことあるわけないとわかっているのに、あたまのどこかで)

そんなことあるわけないと分かっているのに、頭のどこかで

(それをそうぞうしてあしがうごかないのだ。それはぼくもよくわかる。)

それを想像して足が動かないのだ。それは僕もよく分かる。

(くらやみにつつまれてほんのすこしおくもみえないどうくつのなか。ふりむくと、)

暗闇に包まれてほんの少し奥も見えない洞窟の中。振り向くと、

(わずかなほしあかりのしたにしほうのやまやまがくろいどうたいをのっぺりとよこにしている。)

わずかな星明かりの下に四方の山々が黒い胴体をのっぺりと横にしている。

(にんげんのひかりなんてここからはなにもみえない。)

人間の光なんてここからはなにも見えない。

(なんびゃくねんもまえにこのどうくつのおくへときえたおぼうさん。)

何百年も前にこの洞窟の奥へと消えたお坊さん。

(そのひとはそれからこのせかいにもどることなく、そくしんぶつになったんだという。)

その人はそれからこの世界に戻ることなく、即身仏になったんだという。

(そくしんぶつってのはようするにみいらのことだ。)

即身仏ってのはようするにミイラのことだ。

(いきたままだんじきをしつづけてそのまましんでしまうってこと。)

生きたまま断食をし続けてそのまま死んでしまうってこと。

(どんなきぶんなんだろう。めいそうをしたままおはらがへりすぎて、だんだんほとんど)

どんな気分なんだろう。瞑想をしたままお腹が減りすぎて、だんだんほとんど

(しんじゃったみたいになってきて、あるしゅんかんにしのさかいめをこえてしまう。)

死んじゃったみたいになってきて、ある瞬間に死の境目を超えてしまう。

(そのときって、どんなきぶんだろう。そのことをそうぞうするとどうしようもなく)

その時って、どんな気分だろう。そのことを想像するとどうしようもなく

(ぞっとしてしまった。)

ゾッとしてしまった。

(「いこうぜ」としげちゃんがぼくをつつく。)

「行こうぜ」とシゲちゃんが僕をつつく。

(まようまもなく、ぼくはぐいぐいとせなかをおされるようにどうくつのなかへ)

迷うまもなく、僕はぐいぐいと背中を押されるように洞窟の中へ

(つれていかれる。たろちゃんはほんとうにはいってこないきのようだ。)

連れて行かれる。タロちゃんは本当に入ってこない気のようだ。

(あしもとにはちいさないしがごろごろころがっていて、)

足元には小さな石がゴロゴロ転がっていて、

(あしのうらのへんなところでふんでしまうとやけにいたかった。)

足の裏の変な所で踏んでしまうとやけに痛かった。

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