先生 中編 -4-

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師匠シリーズ
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関連タイピング

問題文

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(ぼくはしげちゃんをつつき、いこうよといった。しげちゃんも「あ、ああ」と)

僕はシゲちゃんをつつき、行こうよと言った。シゲちゃんも「あ、ああ」と

(うなずいてあとずさりをはじめる。だんだんととおざかり、かおがまがりかどにかくれて)

頷いて後ずさりを始める。だんだんと遠ざかり、顔が曲がり角に隠れて

(みえなくなるまでぼくらはおくへかいちゅうでんとうをむけたままめをそらせなかった。)

見えなくなるまで僕らは奥へ懐中電灯を向けたまま目を逸らせなかった。

(めをそらしたとたんに、そのいかりがばくはつするようなきがして。)

目を逸らしたとたんに、その怒りが爆発するような気がして。

(そのかおのむこう、いまはだれもいけなくなってしまったどうくつのさいしんぶには)

その顔の向こう、今は誰もいけなくなってしまった洞窟の最深部には

(おぼうさんのそくしんぶつがあるはずだった。)

お坊さんの即身仏があるはずだった。

(けれどそのときはそんなことまったくあたまのそとだった。かおだ。かお。かお。かおにゅうどう。)

けれどその時はそんなことまったく頭の外だった。顔だ。顔。顔。顔入道。

(まがりかどでかおがみえなくなるとぼくらはふりむき、あしばやでもときたみちをもどりはじめた。)

曲がり角で顔が見えなくなると僕らは振り向き、足早で元きた道を戻り始めた。

(ぼくがせんとうでしげちゃんがしんがり。ぜったいにしんがりはいやだ。)

僕が先頭でシゲちゃんがシンガリ。絶対にシンガリはいやだ。

(しろくてながいてがどうくつのおくからのびてきて、あしくびをがしっとつかまれそうで。)

白くて長い手が洞窟の奥から伸びてきて、足首をガシッとつかまれそうで。

(でもかいちゅうでんとうをもっているのはしげちゃんだった。)

でも懐中電灯を持っているのはシゲちゃんだった。

(いっぽんみちだけれどかんぜんにまっくらなどうくつだったのであしもとをてらさないとあぶない。)

一本道だけれど完全に真っ暗な洞窟だったので足元を照らさないと危ない。

(いきをころしながらきんちょうしてあるいていると、しげちゃんがかいちゅうでんとうをわたしてくれた。)

息を殺しながら緊張して歩いていると、シゲちゃんが懐中電灯を渡してくれた。

(ぎりぎりすれちがうくらいのひろさはあったのに、しげちゃんはあかりをくれたうえ、)

ギリギリすれ違うくらいの広さはあったのに、シゲちゃんは明かりをくれた上、

(しんがりもひきうけてくれたのだ。おやぶんだった。やっぱり。)

シンガリも引き受けてくれたのだ。親分だった。やっぱり。

(なんどかつまずきそうになりながらも、ようやくぼくらはどうくつのそとへでてこれた。)

なんどか躓きそうになりながらも、ようやく僕らは洞窟の外へ出てこれた。

(ぼくらのすがたをみてたろちゃんがびくっとする。ぼくはいきをととのえながら、)

僕らの姿を見てタロちゃんがビクッとする。僕は息を整えながら、

(なにごともなかったことにあんどしていた。そしてしげちゃんをふりかえり、)

なにごともなかったことに安堵していた。そしてシゲちゃんを振り返り、

(おやゆびをあげてみせる。しげちゃんもにっとわらうと、おなじようにおやゆびをあげた。)

親指を上げて見せる。シゲちゃんもニッと笑うと、同じように親指を上げた。

(これでなかまだ。)

これで仲間だ。

など

(そういわれたきがした。)

そう言われた気がした。

(「どうだった」とたろちゃんがきく。)

「どうだった」とタロちゃんが訊く。

(「どうってことない。こないだといっしょ」と)

「どうってことない。こないだと一緒」と

(しげちゃんはたろちゃんのせなかをたたく。)

シゲちゃんはタロちゃんの背中を叩く。

(とかいもんがはいったんだ、やくそくどおりおまえもおこなけよな、といわれてたろちゃんは)

トカイもんが入ったんだ、約束通りお前も行けよな、と言われてタロちゃんは

(なまつばをのみながらこっくりとうなずいた。)

生唾を飲みながらこっくりと頷いた。

(やっぱりひとりで?といいたげなしせんをしげちゃんにむけながら)

やっぱり一人で?と言いたげな視線をシゲちゃんに向けながら

(みれんがましそうにかいちゅうでんとうをいっぽんたずさえてたろちゃんはいりぐちにほをすすめる。)

未練がましそうに懐中電灯を一本携えてタロちゃんは入り口に歩を進める。

(かわいそうだがしかたがない。しげちゃんもついていってあげるきはないようだ。)

可哀想だが仕方がない。シゲちゃんも付いて行ってあげる気はないようだ。

(かんねんしたたろちゃんがどうくつのなかにひとりできえていき、)

観念したタロちゃんが洞窟の中に一人で消えて行き、

(ぼくらはそとでじっとまっていた。)

僕らは外でじっと待っていた。

(そのあいだ、ふとあのあかいきもののまぼろしのことをかんがえる。どうくつのかおは)

そのあいだ、ふとあの赤い着物の幻のことを考える。洞窟の顔は

(かおにゅうどうがふさいでいて、そこまでのみちはえだもないいっぽんみちだったし、)

顔入道が塞いでいて、そこまでの道は枝もない一本道だったし、

(きがつかずにすれちがうことだってできない。)

気が付かずにすれ違うことだって出来ない。

(なのにぼくらはけっきょく、どうくつのおくではなにもみなかった。)

なのに僕らは結局、洞窟の奥ではなにも見なかった。

(ということはやっぱりあれはまぼろしだったんだ。こわさのせいで)

ということはやっぱりあれは幻だったんだ。怖さのせいで

(みえるはずのないものをみてしまうというのはたまにあるかもしれないけど、)

見えるはずのないものを見てしまうというのはたまにあるかも知れないけど、

(あのどうくつにふさわしいまぼろしはおぼうさんのすがたのようなきがして、)

あの洞窟に相応しい幻はお坊さんの姿のような気がして、

(どうしてあんなあかいきものをみてしまったのかわからず、)

どうしてあんな赤い着物を見てしまったのか分からず、

(そのりゆうをぼんやりとかんがえていた。)

その理由をぼんやりと考えていた。

(いきなりだ。)

いきなりだ。

(「ぎゃーっ」というこえがどうくつのなかからきこえた。)

「ギャーッ」という声が洞窟の中から聞こえた。

(ぼくらはおもわずみがまえる。しげちゃんがかいちゅうでんとうをどうくつのおくにむけて、)

僕らは思わず身構える。シゲちゃんが懐中電灯を洞窟の奥に向けて、

(「どうした」とさけぶ。)

「どうした」と叫ぶ。

(かすかなくうきのしんどうがあり、おくからだれかがはしってくるのがわかる。)

かすかな空気の振動があり、奥から誰かが走ってくるのが分かる。

(きんちょうでてのひらにあせがしむ。これからなにかおそろしいものが)

緊張で手のひらに汗が滲む。これからなにか恐ろしいものが

(とびだしてくるきがして、あしがすくみそうになる。しげちゃんが)

飛び出してくる気がして、足が竦みそうになる。シゲちゃんが

(ゆっくりとどうくつのなかにはいろうとする。ぼくはそれをとおくからみている。)

ゆっくりと洞窟の中に入ろうとする。僕はそれを遠くから見ている。

(と、くらやみのなかからゆれるひかりがみえて、つぎのしゅんかんなにかがしげちゃんをはじきとばし)

と、暗闇の中から揺れる光が見えて、次の瞬間なにかがシゲちゃんを弾き飛ばし

(ぼくのほうへむかってつっこんできた。)

僕の方へ向かって突っ込んできた。

(あわててからだをひねってそれをさける。そのうしろすがたに、とまりきれずに、)

慌てて身体を捻ってそれを避ける。その後ろ姿に、止まり切れずに、

(あしをすべらせてころがりおちていった。)

足を滑らせて転がり落ちて行った。

(ひめいがとおざかっていき、すぐにからだをたてなおしたしげちゃんががけにかけよる。)

悲鳴が遠ざかって行き、すぐに身体を立て直したシゲちゃんが崖に駆け寄る。

(すぐにころがるおとはとまったけれど、ちょっとしたたかさだ。)

すぐに転がる音は止まったけれど、ちょっとした高さだ。

(ただではすまないだろう。)

ただでは済まないだろう。

(けれどそのしたからなきごえがきこえてきたのでぼくはほっとした。)

けれどその下から泣き声が聞こえてきたので僕はホッとした。

(しげちゃんが「まってろ」といってがけをまわりこんでたすけにいく。)

シゲちゃんが「待ってろ」と行って崖を回り込んで助けに行く。

(ぼくもおいかけようとして、ぎくっとせあとをふりかえる。)

僕も追いかけようとして、ギクッと背後を振り返る。

(どうくつのくちがさっきとおなじようにひらいていて、)

洞窟の口がさっきと同じように開いていて、

(そのおくにはなにごともなかったかのようにくらくしずかなやみがあるだけだ。)

その奥にはなにごともなかったかのように暗く静かな闇があるだけだ。

(でもたろちゃんは、なにかにおびえてにげてきた。そしていきおいあまってがけへ。)

でもタロちゃんは、なにかに怯えて逃げてきた。そして勢いあまって崖へ。

(ぼくはがくがくとぜんしんがふるえはじめ、なんとかしせんをどうくつからそらし、)

僕はガクガクと全身が震え始め、なんとか視線を洞窟から逸らし、

(そこからにげるようにしげちゃんをおいかけた。)

そこから逃げるようにシゲちゃんを追いかけた。

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