先生 中編 -7-

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師匠シリーズ
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問題文

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(ぼくは、なきそうになりながらも、「これだけはする」ときめていた)

僕は、泣きそうになりながらも、「これだけはする」と決めていた

(かくにんさぎょうをだんこうした。)

確認作業を断行した。

(なまつばをのみながら、ふるえるあしをしったしてすこしずつかおにちかづいていく。)

生唾を飲みながら、震える足を叱咤して少しずつ顔に近づいていく。

(かおがおおきくなっていくにつれ、このせまいくうかんが)

顔が大きくなっていくにつれ、この狭い空間が

(このよからきりはなされたいくうかんのようなきがしてくる。)

この世から切り離された異空間のような気がしてくる。

(どんなことがおこってもふしぎではないような。)

どんなことが起こっても不思議ではないような。

(それでもぼくはじぶんのかおをつきだし、かおにゅうどうのひょうめんにひかりをあてる。)

それでも僕は自分の顔を突き出し、顔入道の表面に光をあてる。

(よくみると、ところどころぼろぼろととそうがはげ、)

よく見ると、ところどころボロボロと塗装が剥げ、

(しろいかおにもくろいよごれがめだった。)

白い顔にも黒い汚れが目立った。

(そのじはだはたしかにいわで、そのうえにえがかれたかおは)

その地肌は確かに岩で、その上に描かれた顔は

(きのうきょうのものではないのはあきらかだった。)

昨日今日のものではないのは明らかだった。

(なんねんも、いやなにじゅうねんもまえからおなじかおで)

何年も、いや何十年も前から同じ顔で

(ここにこうしてどうくつにはさまっているはずのものだった。)

ここにこうして洞窟に挟まっているはずのものだった。

(かおのましたにはおれたはのようなとりょうのついたとがったいわ。)

顔の真下には折れた歯のような塗料のついた尖った岩。

(わらっていても、ついさっきまできばのあったあかしのようにあおじろくひかっている。)

笑っていても、ついさっきまで牙のあった証のように青白く光っている。

(ぼくはいままでとはちがう、べつのさむけにおそわれとっさににげだした。)

僕は今までとは違う、別の寒気に襲われとっさに逃げ出した。

(くるりとふりかえって、きたみちをひたすらもどる。)

くるりと振り返って、きた道をひたすら戻る。

(うわあ、というさけびごえをあげたとおもう。ぎゃー、だったかもしれない。)

うわあ、という叫び声を上げたと思う。ギャー、だったかも知れない。

(とにかくぼくはなんどもこけそうになりながらはしりつづけた。)

とにかく僕は何度も転けそうになりながら走り続けた。

(しろいてがおいかけてくるげんそうが、きのうよりもくっきりとあたまにうかんだ。)

白い手が追いかけてくる幻想が、昨日よりもくっきりと頭に浮かんだ。

など

(こわい。こわい。なんだこれ。なんだこれ。)

恐い。恐い。なんだこれ。なんだこれ。

(それでもさしこむたいようのひかりがみちのさきにみえたしゅんかんにぶれーきをかけた。)

それでも射し込む太陽の光が道の先に見えた瞬間にブレーキをかけた。

(どうくつのそとまでとびだしたぼくは、がけのまえでぴたりととまることができた。)

洞窟の外まで飛び出した僕は、崖の前でピタリと止まることができた。

(ひるまだったからよかったのだ。よるだったら、どうくつのつづきのような)

昼間だったから良かったのだ。夜だったら、洞窟の続きのような

(くらいそらのしたにりょうてりょうあしをおよがせていたかもしれない。)

暗い空の下に両手両足を泳がせていたかも知れない。

(せなかにいようなけはいをかんじる。はっとふりかえるとどうくつのおくに)

背中に異様な気配を感じる。ハッと振り返ると洞窟の奥に

(あかいきもののすそがひるがえったようなきがした。それはすぐにきおくのかなたへきえて、)

赤い着物の裾が翻ったような気がした。それはすぐに記憶の彼方へ消えて、

(げんじつだったのかまぼろしだったのかわからなくなってしまう。)

現実だったのか幻だったのかわからなくなってしまう。

(ぼくはがちがちとふるえながら、どうくつのいりぐちからなかへこごえでといかけた。)

僕はガチガチと震えながら、洞窟の入り口から中へ小声で問いかけた。

(「だれかいるの」)

「誰かいるの」

(いるはずはなかった。なかはいっぽんみちなのだ。)

いるはずはなかった。中は一本道なのだ。

(いきどまりにはあのかおにゅうどうのいわがつっかえている。がっしりとじめんにも)

行き止まりにはあの顔入道の岩がつっかえている。がっしりと地面にも

(かべにもてんじょうにもくいこんでいて、とてもうごきそうにはみえなかった。)

壁にも天井にも食い込んでいて、とても動きそうには見えなかった。

(だからどうくつのとちゅうにだれもいなかったからといって、)

だから洞窟の途中に誰もいなかったからと言って、

(そのいわのおくにだれかがかくれているはずはない。)

その岩の奥に誰かが隠れているはずはない。

(こういうのをなんていうんだっけ。こないだてれびでやっていた。)

こういうのをなんて言うんだっけ。こないだテレビでやっていた。

(そう。みっしつ。みっしつだ。)

そう。密室。密室だ。

(みっしつのなかにはいきたままみいらになったおぼうさんがいるはずだ。)

密室の中には生きたままミイラになったお坊さんがいるはずだ。

(まっくらやみのなかでざぜんをくみ、もうにどとかわらないひょうじょうを)

真っ暗闇の中で座禅を組み、もう二度と変わらない表情を

(かおにはりつけたままで。)

顔に貼り付けたままで。

(そのかおはおこっているのだろうか。わらっているのだろうか。ああっ。)

その顔は怒っているのだろうか。笑っているのだろうか。ああっ。

(なんだかたまらなくなり、ぼくはにげだした。)

なんだかたまらなくなり、僕は逃げ出した。

(がけをまわりこみ、やまみちをかけおりる。ふりかえらずに。あせをとびちらせて。)

崖を回り込み、山道を駆け下りる。振り返らずに。汗を飛び散らせて。

(ぜいぜいいいながらひたすらはしりつづけていると、あたまがかってにそうぞうしはじめる。)

ぜいぜい言いながらひたすら走り続けていると、頭が勝手に想像し始める。

(かおにゅうどうがおこったら、わるいことがおきる。)

顔入道が怒ったら、悪いことが起きる。

(じいちゃんが、「あれはおそろしいものだ」といっていた。)

じいちゃんが、「あれはおそろしいものだ」と言っていた。

(ほんとうなのかもしれない。ひょっとしてたろちゃんががけからおちたのだって、)

本当なのかも知れない。ひょっとしてタロちゃんが崖から落ちたのだって、

(その「わるいこと」にはいっているのかもしれない。)

その「悪いこと」に入っているのかも知れない。

(めにみえないてが、がけのまえでそのせなかをおしたのかもしれない。)

目に見えない手が、崖の前でその背中を押したのかも知れない。

(でもさっきみたかおにゅうどうはわらっていた。)

でもさっき見た顔入道は笑っていた。

(けれどそれがなにかたのしいことをあんじしているようなきがしない。)

けれどそれがなにか楽しいことを暗示しているような気がしない。

(いつもはだれもこないはずのくらいどうくつのおくこそで、どうしてわらっていたのだろう。)

いつもは誰もこないはずの暗い洞窟の奥こそで、どうして笑っていたのだろう。

(そうぞうがかおにゅうどうのえがおをおおげさにへんけいさせ、しかいいっぱいに、いやあたまのなかいっぱいに)

想像が顔入道の笑顔を大げさに変形させ、視界一杯に、いや頭の中一杯に

(ひろがっていく。そのきかいなすがたをぼくはふりはらおうとふりはらおうと、)

広がって行く。その奇怪な姿を僕は振り払おうと振り払おうと、

(きのねをとびこえながらかけつづけた。)

木の根を飛び越えながら駆け続けた。

(そのよる、ばんごはんをたべているときにおじさんからたろちゃんが)

その夜、晩ご飯を食べている時におじさんからタロちゃんが

(さん、よっかごにはたいいんできるらしいとつたえられた。ぼくもほっとしたけれど、)

三、四日後には退院できるらしいと伝えられた。僕もホッとしたけれど、

(しゅぼうしゃであり、おやぶんでもあるしげちゃんがいちばんほっとしたかおをしていた。)

首謀者であり、親分でもあるシゲちゃんが一番ホッとした顔をしていた。

(たべおわってから、ぼくはしげちゃんにかおにゅうどうのどうくつにもういちど)

食べ終わってから、僕はシゲちゃんに顔入道の洞窟にもう一度

(いったことをはなそうとおもったけれど、)

行ったことを話そうと思ったけれど、

(「つかれたからもうねる」といってあっというまにふとんにはいられてしまった。)

「疲れたからもう寝る」と言ってあっというまに布団に入られてしまった。

(ぼくはどういうわけかかおにゅうどうのえがおのことをほかのひとにはなすのが)

僕はどういうわけか顔入道の笑顔のことをほかの人に話すのが

(みょうにこわいきがしたので、「ねちゃったからしかたないや」と)

妙に恐い気がしたので、「寝ちゃったからしかたないや」と

(じぶんにいいわけをしながらいまでてれびをみることにした。)

自分に言い訳をしながら今でテレビを見ることにした。

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