先生 中編 -9-

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師匠シリーズ
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問題文

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(にかいのまどぎわでほおづえをついて。ぼうっとこうていをみながら。)

二階の窓際で頬杖をついて。ぼうっと校庭を見ながら。

(それをおもうと、ぼくはむねがいたくなる。せんせいみたいな、わかくてきれいで)

それを思うと、僕は胸が痛くなる。先生みたいな、若くてきれいで

(あたまがよくてやさしいひとが、こんなだれもこないやまのなかで)

頭が良くて優しい人が、こんな誰もこない山の中で

(じっとぼくみたいなただのこどもをまってるなんて。)

じっと僕みたいなただの子どもを待ってるなんて。

(せんせいはいわないけれど、きっととうきょうでしたいことがあったんだろう。)

先生は言わないけれど、きっと東京でしたいことがあったんだろう。

(すきなひとだっていたかもしれない。そんなものをぜんぶすてて)

好きな人だっていたかも知れない。そんなものを全部捨てて

(このいなかへかえってきて、なつのあいだずっとこんなおんぼろのがっこうで)

この田舎へ帰ってきて、夏のあいだずっとこんなオンボロの学校で

(たったすうにんのせいとをまいにちまっているのだ。)

たった数人の生徒を毎日待っているのだ。

(ぼくがさんすうのもんだいをといているあいだ、ときどきせんせいはまどのそとをみながら)

僕が算数の問題を解いているあいだ、時どき先生は窓の外を見ながら

(ぼんやりしている。)

ぼんやりしている。

(そんなとき、せんせいはそこにいるのにそこにいないようなかんじがする。)

そんな時、先生はそこにいるのにそこにいないような感じがする。

(そのよこがおをのぞきみするたびに、ぼくはなんだかかなしくなるのだった。)

その横顔を覗き見するたびに、僕はなんだか悲しくなるのだった。

(「そんなことがあったの」)

「そんなことがあったの」

(せんせいはあごのさきに、おりまげたひとさしゆびをあててうなずいた。)

先生は顎の先に、折り曲げた人差し指をあてて頷いた。

(「かおにゅうどうさんのことをきいたことがあるわ。わたしがこどものころにも)

「顔入道さんのことを聞いたことがあるわ。わたしが子どものころにも

(おとこのこなんかはきもだめしにいっていたみたいね。わたしはみたことないけど」)

男の子なんかは肝試しに行っていたみたいね。わたしは見たことないけど」

(ふしぎなはなしね。)

不思議な話ね。

(せんせいはそうつぶやいてあのぼんやりしたひょうじょうをいっしゅんだけみせた。)

先生はそう呟いてあのぼんやりした表情を一瞬だけ見せた。

(ぼくはなぜかあわてて、「こんなことってあるとおもう?」とといかけた。)

僕は何故か慌てて、「こんなことってあると思う?」と問いかけた。

(せんせいはわれにかえったようにめをおおきくひらくと、)

先生は我に帰ったように目を大きく開くと、

など

(「このよのなかはふしぎなことだらけよ。とくにこんないなかにはね、)

「この世の中は不思議なことだらけよ。とくにこんな田舎にはね、

(せいかつのすぐそばにおかしなめいしんやいいつたえがあるの。)

生活のすぐそばにおかしな迷信や言い伝えがあるの。

(がっこうでならうぶつりやさんすうよりもずっとちかくに。)

学校で習う物理や算数よりもずっと近くに。

(わたしも、とかいのせいかつがながくなっていくにつれてわすれそうになっていたけど」)

私も、都会の生活が長くなっていくにつれて忘れそうになっていたけど」

(せんせいがふっといきをついて、そとはうるさいくらいじわじわじわじわせみが)

先生がふっと息をついて、外はうるさいくらいジワジワジワジワ蝉が

(ないていたのに、きょうしつのなかはへんにしーんとした。)

鳴いていたのに、教室の中は変にシーンとした。

(ただのいわがおこったりわらったりするのも、がっこうではならないふしぎなちからが)

ただの岩が怒ったり笑ったりするのも、学校ではならない不思議な力が

(はたらいているだろうか。ただのもりをちんじゅのもりなんてよんでじんじゃをたてるのも?)

働いているだろうか。ただの森を鎮守の森なんて呼んで神社を建てるのも?

(おしおきをするためくらくせまいばしょへぼくをおしこめるちちおやのかおと、)

お仕置きをするため暗く狭い場所へ僕を押し込める父親の顔と、

(くらやみでひとりになったあとでだれかがいつのまにかはいごにいるような)

暗闇でひとりになった後で誰かがいつのまにか背後にいるような

(あのふりむけないかんじがあたまのなかをよぎった。)

あの振り向けない漢字が頭の中をよぎった。

(「でもりかやさんすうをおしえるせんせいとしては、)

「でも理科や算数を教える先生としては、

(それでおわりってわけにはいかないわね」)

それで終わりってわけにはいかないわね」

(そのときぼくがかんじたことをなんていえばいいんだろう。)

その時僕が感じたことをなんて言えばいいんだろう。

(せんせいはゆっくりとたちあがり、ぼくのまだしらないことをたのしく、)

先生はゆっくりと立ち上がり、僕のまだ知らないことを楽しく、

(そしてやさしくおしえてくれるあのすてきなひょうじょうをした。)

そして優しく教えてくれるあの素敵な表情をした。

(ぼくを、どうしようもなくわくわくさせてくれるだいすきなかおだ。)

僕を、どうしようもなくワクワクさせてくれる大好きな顔だ。

(せんせいはきょうだんにたってちょーくをにぎり、こくばんにすっすっとてをはしらせる。)

先生は教壇に立ってチョークを握り、黒板にスッスッと手を走らせる。

(そのゆびがえがきだす、しろくてすずしげなせんをぼくはいきをするのもわすれて)

その指が描き出す、白くて涼しげな線を僕は息をするのも忘れて

(じっとみつめていた。)

じっと見つめていた。

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