刀 -9-

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師匠シリーズ
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関連タイピング

問題文

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(「はいけんしました」)

「拝見しました」

(ざぶとんのうえにいずまいをただし、いらいにんにせいたいする。)

座布団の上に居住まいを正し、依頼人に正対する。

(「ありません」)

「ありません」

(きっぱりしたくちょうにくらもちしのかおがこわばる。)

きっぱりした口調に倉持氏の顔が強張る。

(「ないと」)

「ないと」

(「はい」)

「はい」

(まどがらすごしににわのしろいすなのてりかえしがさしこみ、ししょうのよこがおをてらしている。)

窓ガラス越しに庭の白い砂の照り返しが射し込み、師匠の横顔を照らしている。

(せすじをのばしてまえをみすえるそのまえがみを)

背筋を伸ばして前を見据えるその前髪を

(わずかにあけたまどからふいてくるかぜがゆらす。)

わずかに開けた窓から吹いてくる風が揺らす。

(「すくなくとも、ひとをきりころしたようなこんせきがみつかりません。)

「少なくとも、人を斬り殺したような痕跡が見つかりません。

(ころされたにんげんのおんねんやじょうねんはまったくかんじない。いぜんひとをさしたほうちょうを)

殺された人間の怨念や情念は全く感じない。以前人を刺した包丁を

(みたことがありますが、なんねんたってもそこにのこるおんねんはきえていませんでした。)

見たことがありますが、何年経ってもそこに残る怨念は消えていませんでした。

(もっともかたなのそれははるかにふるいものでしょうから、)

もっとも刀のそれははるかに古いものでしょうから、

(きえてえしまうものなのかもしれませんが。)

消えてえしまうものなのかも知れませんが。

(いずれにしてもわたしにはみることはできませんでした」)

いずれにしても私には見ることはできませんでした」

(おやくにたてず、ざんねんです。)

お役に立てず、残念です。

(ししょうはかるくあたまをさげた。)

師匠は軽く頭を下げた。

(くらもちしはなにかをいおうとしてくちをひらきかけたが、すぐにつぐんだ。)

倉持氏はなにかを言おうとして口を開きかけたが、すぐにつぐんだ。

(あまりにはっきりとしたひていに、はんろんをすべきかまよっているようにもみえた。)

あまりにはっきりとした否定に、反論をすべきか迷っているようにも見えた。

(しんじたくなかったらそれでいい。べつのれいのうりょくしゃをさがしておなじことを)

信じたくなかったらそれでいい。別の霊能力者を探して同じことを

など

(たのめばいいだけだ。)

頼めばいいだけだ。

(ただ、ちかってもいいが、まずじぶんでれいのうりょくしゃをなのるようなにんげんなら、)

ただ、誓ってもいいが、まず自分で霊能力者を名乗る様な人間なら、

(いまぼくらがなにもかんじられなかったこのかたなのなかのひとふりを)

今僕らがなにも感じられなかったこの刀の中の一振りを

(むせきにんにゆびさすにちがいない。)

無責任に指差すに違いない。

(そんなことでまんぞくするならどうぞごじゆうに、ということころだ。)

そんなことで満足するならどうぞ御自由に、ということころだ。

(「そう、ですか。しかし・・・・・そんな・・・・・では・・・・・」)

「そう、ですか。しかし・・・・・そんな・・・・・では・・・・・」

(ししょうのしせんからめをそらし、くらもちしはぼそぼそとはぎれわるく)

師匠の視線から目を逸らし、倉持氏はぼそぼそと歯切れ悪く

(ほうしんといったていでつぶやいている。)

放心といったていで呟いている。

(みつからなかったからといって、きていのりょうきんをまけてやるわけにもいかない。)

見つからなかったからと言って、規定の料金を負けてやるわけにもいかない。

(そのぶんたしょうのぐちはじっときいてあげるしかないだろうとかくごしていた。)

その分多少の愚痴はじっと聞いてあげるしかないだろうと覚悟していた。

(しかしいらいにんはみょうにおちつかなげなようすをしていたかとおもうと、)

しかし依頼人は妙に落ち着かなげな様子をしていたかと思うと、

(そのひょうじょうにふおんなかげりがのぞきはじめた。)

その表情に不穏な翳りが覗き始めた。

(らくたんしているのかとおもってみていたが、そのめのいろにうかぶものは)

落胆しているのかと思って見ていたが、その目の色に浮かぶものは

(それとはすこしちがうようにかんじられた。)

それとは少し違うように感じられた。

(なんだろう。ししょうもけげんなかおをして)

なんだろう。師匠も怪訝な顔をして

(じっとめのまえのわふくすがたのろうじんをみつめている。)

じっと目の前の和服姿の老人を見つめている。

(かれをつつむそのかんじょうはらくたんではない。ぜつぼう?ちがう。なんだろう。)

彼を包むその感情は落胆ではない。絶望?違う。なんだろう。

(とてもなつかしいかんじ。したしみのあるかんじょう。)

とても懐かしい感じ。親しみのある感情。

(めを、そらしたくなるような。)

目を、逸らしたくなるような。

(・・・・・きょうふ。)

・・・・・恐怖。

(きょうふでないか。これは。)

恐怖でないか。これは。

(そうおもったしゅんかん、さむけにおそわれた。)

そう思った瞬間、寒気に襲われた。

(わああああああん。)

わああああああん。

(からだがこうちょくする。)

身体が硬直する。

(なんだいまのおとは?おと?いまぼくはおとをきいたのか?)

なんだ今の音は?音?今僕は音を聞いたのか?

(へやをみまわすが、かわったようすはない。)

部屋を見回すが、変わった様子はない。

(しかし、ずうんとおもいものがはらのしたにやってきたようなかんかく。)

しかし、ずうんと重いものが腹の下にやって来た様な感覚。

(へやのなかのこうりょうはまったくかわらないままで、すべてがくらくなっていくかんじ。)

部屋の中の光量は全く変わらないままで、すべてが暗くなっていく感じ。

(びりびりとぼくのなかのふるい、じんたいにいまはもうないはずのかんかくきが)

ビリビリと僕の中の古い、人体に今はもうないはずの感覚器が

(そのけはいをとらえていく。)

その気配をとらえていく。

(ししゃのれいこんが。いてつくようなあくまが。)

死者の霊魂が。凍てつくような悪魔が。

(いま、ぼくらのまわりにわきでてこようとしていた。)

今、僕らの周りに湧き出てこようとしていた。

(「うごくな」)

「動くな」

(ししょうがみじかくいった。)

師匠が短く言った。

(やばい。)

やばい。

(これはやばい。ちかすぎる。)

これはやばい。近すぎる。

(まったくこころがまえができていなかったぼくはぱにっくじょうたいにおちいりかけた。)

まったく心構えができていなかった僕はパニック状態に陥りかけた。

(しらぬまにひろいたたみのそこかしこから、ひとのあたまのようなかたちをした)

知らぬ間に広い畳のそこかしこから、人の頭のような形をした

(まっくろいなにかがいくつもいくつもはえてきている。)

真っ黒いなにかがいくつもいくつも生えてきている。

(まえをむいたままうごけないぼくのくびのうしろにも、なにかがいた。)

前を向いたまま動けない僕の首の後ろにも、なにかがいた。

(むすうのけはい。はきけのするような。)

無数の気配。吐き気のするような。

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