めおと鎧11

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問題文

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(「おおっ、そこへゆくのはこうだまごべえではないか」)

「おおっ、そこへゆくのは香田孫兵衛ではないか」

(らんぐんのなかだった。まつだいらただよしのじんをぬけて、)

乱軍の中だった。松平忠吉の陣をぬけて、

(かっせんのまっただなかへきりこんだまごべえが、)

合戦のまっただ中へ斬りこんだ孫兵衛が、

(しゃにむにまえへまえへととっしんしていたとき、)

しゃにむに前へ前へと突進していたとき、

(ふいにわきからそうよびかけられた。ふりかえってみると、)

ふいに脇からそう呼びかけられた。ふりかえってみると、

(ほんだのじんへたずねたひらばやしだいぜんである。「ひらばやしどのか」)

本多の陣へたずねた平林大膳である。「平林どのか」

(「どうした・・・・・・けがをしたそうではないか」そうさけびながら、)

「どうした……怪我をしたそうではないか」そう叫びながら、

(だいぜんがはせつけてきた。「けが?おれがか?」)

大膳がはせつけて来た。「怪我? おれがか?」

(「いいどののせんじんについてあさののべつどうたいがきりこんだという、)

「井伊どのの先陣について浅野の別働隊が斬りこんだという、

(めざましいはたらきぶりで、こうだまごべえがじゅうしょうをおったと)

めざましいはたらきぶりで、香田孫兵衛が重傷を負ったと

(いまきいたばかりだ」まごべえは、あっけにとられた。)

いま聞いたばかりだ」孫兵衛は、あっけにとられた。

(じぶんのほかに、こうだまごべえがいるというわけはない。)

自分のほかに、香田孫兵衛がいるというわけはない。

(なにかまちがいではあるまいか。「しかし、それはたしかなのか」)

なにか間違いではあるまいか。「しかし、それはたしかなのか」

(「たしかだとも、あ、みろ」と、だいぜんはてをあげてみぎてをさした。)

「たしかだとも、あ、みろ」と、大膳は手をあげて右手をさした。

(「あそこへひきあげてくるにんずうがそれだ。)

「あそこへひきあげて来る人数がそれだ。

(あのさしものはふたつやばね、たしかにきこうのさしものではないか」)

あの差物は二つ矢羽根、たしかに貴公の差物ではないか」

(まさにそうだった。くろのしはんにしろくふたつやばねをぬきだしたさしもの、)

まさにそうだった。黒の四半に白く二つ矢羽根をぬきだした差物、

(まさしくじぶんのさしものにちがいない。「のちにあうぞ」)

まさしく自分の差物にちがいない。「のちに会うぞ」

(そうさけんで、まごべえはいっさんにそっちへはせつけた。)

そう叫んで、孫兵衛はいっさんにそっちへはせつけた。

(およそじゅうごろくにんのへいが、ふしょうしゃをのせたたてをまもってやってくる。)

およそ十五六人の兵が、負傷者を載せた盾をまもってやって来る。

など

(ちかよってみると、それはまごべえのしはいするやりぐみのへいたちだった。)

近寄ってみると、それは孫兵衛の支配する槍組の兵たちだった。

(かれらもまごべえをみてあっとこえをあげた。)

かれらも孫兵衛をみてあっと声をあげた。

(「まて、そのたてのうえにいるのはだれだ?」)

「待て、その盾の上にいるのは誰だ?」

(へいたちはなにかこたえようとしたが、だまってしずかにたてをおろした。)

兵たちはなにか答えようとしたが、黙ってしずかに盾をおろした。

(ふしょうしゃのきているよろいは、まごべえのものだった。)

負傷者の着ている鎧は、孫兵衛のものだった。

(あたまのわきにおいてあるかぶともかれのものである。)

頭の脇に置いてある兜もかれのものである。

(「だれだ、きこうはだれだ」まごべえは、)

「誰だ、貴公は誰だ」孫兵衛は、

(よこたわっているあいてのかたへてをかけた。)

横たわっている相手の肩へ手をかけた。

(ふしょうしゃはしずかにふりむいた、それはつまであった、)

負傷者はしずかにふり向いた、それは妻であった、

(つまのやしろであった。まごべえは、がくぜんといきをのんだ。)

妻の屋代であった。孫兵衛は、愕然と息をのんだ。

(「おまえか、やしろ、おまえだったのか」)

「おまえか、屋代、おまえだったのか」

(「だんなさま」やしろはひどくかすれた、よわよわしいこえで、)

「旦那さま」屋代はひどくかすれた、弱々しいこえで、

(とぎれとぎれにいった。「おゆるしくださいまし、)

とぎれとぎれに云った。「おゆるし下さいまし、

(おぐそくをけがしました、おんなのみで、さしでたことをいたしました。)

お具足をけがしました、女の身で、さしでたことをいたしました。

(でも・・・・・・おまちもうしていたのです、おまちもうして、)

でも……お待ち申していたのです、お待ち申して、

(もうまにあわぬとぞんじましたから・・・・・・」)

もう間にあわぬと存じましたから……」

(「いうな、おれのおちどだ、おれのおくれたのがわるかったのだ」)

「云うな、おれのおちどだ、おれのおくれたのが悪かったのだ」

(かれは、つまのてをしかとにぎった。)

かれは、妻の手をしかと握った。

(やしろはうるんだめで、じっとおっとをみた。)

屋代はうるんだ眼で、じっと良人を見た。

(「みがわりのことは、だれにもしれぬようにしてございます、)

「身代りのことは、誰にも知れぬようにしてございます、

(それをどうぞおわすれなく」「わかった」まごべえはつよくうなずいた、)

それをどうぞお忘れなく」「わかった」孫兵衛はつよくうなずいた、

(「いまはなにもいわぬ、さがってはやくきずのてあてをするがよい、)

「いまはなにも云わぬ、さがって早く傷の手当をするがよい、

(こころをたしかにもっているんだぞ」)

心をたしかにもっているんだぞ」

(「わたくしは・・・・・・だいじょうぶでございます」)

「わたくしは……大丈夫でございます」

(「よし、ではもうひとがまん、そのよろいをぬいでくれ」)

「よし、ではもうひと我慢、その鎧をぬいでくれ」

(むりだとはおもったが、だきおこしてよろいをぬがせた。)

無理だとは思ったが、抱き起して鎧をぬがせた。

(わきつぼがいたましいやりきずだった。めをつむって、)

脇壺がいたましい槍瘡だった。眼をつむって、

(つまのちにぬれたよろいをきた。「ではやしろ、ゆくぞ」「・・・」つまはもえるようなひとみをあげて、)

妻の血に濡れた鎧を着た。「では屋代、ゆくぞ」「…」妻は燃えるような

(ひとみをあげて、くいいるようにおっとをみた。「ごぶうんめでたく」)

眸子をあげて、くいいるように良人を見た。「ご武運めでたく」

(「・・・・・・しぬなよ」いいきるとともに、かれはけつぜんとらんぐんのなかへきっていった。)

「……死ぬなよ」云いきると共に、かれは決然と乱軍のなかへ斬って行った。

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