怖い話《私は、ある意味では死にました》2
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問題文
(それはじゃけっとすがたのだんせいきゃくでした。)
それはジャケット姿の男性客でした。
(しかし、あきらかにさらりーまんではありません。)
しかし、明らかにサラリーマンではありません。
(くろっぽいじゃけっとにでにむばきで、くろぶちのまるめがね、)
黒っぽいジャケットにデニム履きで、黒縁の丸メガネ、
(くちもとがひげにおおわれてはいるものの、どうやらとしはまだわかく、)
口元がひげに覆われてはいるものの、どうやら年はまだ若く、
(つとめにんというよりはしょせいといったふぜい。)
勤め人というよりは書生といった風情。
(おーるばっくにかためたかみはそろそろとこやにいったほうがいいながさで、)
オールバックに固めた髪はそろそろ床屋に行ったほうがいい長さで、
(かたてにはまるでじしょのようなあつさの、みどりのひょうしのようしょがにぎられています。)
片手にはまるで辞書のような厚さの、緑の表紙の洋書が握られています。
(おまけに、あしもとはげたばきでした。)
おまけに、足元は下駄履きでした。
(これがうわさのおとこにちがいありません・・・。)
これが噂の男に違いありません・・・。
(かん、かん、かん、かん・・・とそのおとこが、かいだんのうえでわなわなと)
かん、かん、かん、かん・・・とその男が、階段の上でわなわなと
(ふるえているわたしのほうにもろくにきづくことなくあがってきます。)
震えている私の方にもろくに気付くことなく上がってきます。
(ふと、うつむいていたおとこのかおがようやくこちらをみあげたのですが、)
ふと、うつむいていた男の顔がようやくこちらを見上げたのですが、
(そのしゅんかん、わたしのきょうふがほっとあんどにかわりました。)
その瞬間、私の恐怖がほっと安堵に変わりました。
(おとこのかおは、わたしのかおとはにてもにつかないものだったのです。)
男の顔は、私の顔とは似ても似つかないものだったのです。
(わたしもまいにちかがみをのぞきこむようなととのったかおだちでもありませんが、)
私も毎日鏡を覗き込むような整った顔立ちでもありませんが、
(むこうのひととははなすじやあごのあたりのかたちがまるでちがいました。)
向こうの人とは鼻筋やあごの辺りの形がまるで違いました。
(せいかっこうやふくそうはたしかによくにているものの、)
背格好や服装は確かによく似ているものの、
(あれはあきらかにわたしではありません。とうぜんですが。)
あれは明らかに私ではありません。当然ですが。
(あまりにもまじまじとかれのかおをみていたのでしょう。)
あまりにもまじまじと彼の顔を見ていたのでしょう。
(「どうかしましたか。ああ、とおれないのか」)
「どうかしましたか。ああ、通れないのか」
(とおとこはねおきのようなふきげんそうなこえでぼそっというと、)
と男は寝起きのような不機嫌そうな声でぼそっと言うと、
(わたしのよこを「しつれい」といってとおりすぎていきました。)
私の横を「失礼」と言って通り過ぎていきました。
(わたしはげたでふりづらいかいだんをそれでもかけていき、)
私は下駄で降りづらい階段をそれでも駆けていき、
(ひとりぐらしをしていたあぱーとににげかえりました。)
一人暮らしをしていたアパートに逃げ帰りました。
(よくじつ、あたまをひやしたわたしはまたれいのみせにいってみるきになりました。)
翌日、頭を冷やした私はまた例の店に行ってみる気になりました。
(それはだいいちにあのわたしとそっくりなせいかっこうのおとこのきょうみをもったからでした。)
それは第一にあの私とそっくりな背格好の男の興味を持ったからでした。
(たしかにわたしとはほとんどおなじようなふくそうやかみかたちをしているけれども、)
確かに私とはほとんど同じような服装や髪形をしているけれども、
(たしかにべつじんだとわかったいまとなっては、)
確かに別人だと分かった今となっては、
(いがいとこのみがあういいともひとになれるかもしれない、とおもいました。)
意外と好みが合ういい友人になれるかもしれない、と思いました。
(かんとのてつがくしょを、それもどいつごのげんしょでもちあるいている)
カントの哲学書を、それもドイツ語の原書で持ち歩いている
(というのもきになりました。)
というのも気になりました。
(どこかもてつがくかのがくせいさんだろうか。)
どこかも哲学科の学生さんだろうか。
(しかし、うちのだいがくやだいがくいんではあのひとをみたことがない。)
しかし、うちの大学や大学院ではあの人を見た事がない。
(どこのだいがくのひとだろう・・・とおもっていました。)
どこの大学の人だろう・・・と思っていました。
(また、わたしはそっくりなじんぶつがべつじんであることがかくにんできたとはいえ、)
また、私はそっくりな人物が別人であることが確認できたとはいえ、
(みやびさんがどうしてわたしのなまえをしっていたのかについては、)
ミヤビさんがどうして私の名前を知っていたのかについては、
(あとになってかんがえてみてもなぞのままのこっているのでした。)
後になって考えてみても謎のまま残っているのでした。
(あたらしいゆうじんをみつけ、みやびさんがなぜわたしをしっていたのかというなぞを)
新しい友人を見つけ、ミヤビさんがなぜ私を知っていたのかという謎を
(かいしょうするために、わたしはふたたびそのみせにやってきたのでした。)
解消するために、私は再びその店にやってきたのでした。
(「いらっしゃ・・・あ、たなかさん」)
「いらっしゃ・・・あ、タナカさん」
(「こんばんは」)
「こんばんは」
(「きのうはどうしたんですが、でていってすぐにもどってくるんだもの」)
「昨日はどうしたんですが、出て行ってすぐに戻ってくるんだもの」
(せすじがぞくりとしました。)
背筋がぞくりとしました。
(「え・・・ああ、ちがいますよ。)
「え・・・ああ、違いますよ。
(きのうたしかにわたしとおなじようなかっこうのひとがあのあともうひとりはいってきましたけど、)
昨日確かに私と同じような格好の人があの後もう一人入ってきましたけど、
(それはべつのほうで・・・ぼくもほんとうにびっくりしたんですよ。)
それは別の方で・・・僕も本当にびっくりしたんですよ。
(じぶんにそっくりなほうっているものなんですね。)
自分にそっくりな方っているものなんですね。
(たにんのそらにっていうんですか。)
他人の空似っていうんですか。
(きのうもいいましたけど、ぼくは、ここきのうがはじめてですよ」)
昨日も言いましたけど、僕は、ここ昨日が初めてですよ」
(なぜか、べんかいじみたことばを、じぶんでもそれとわかるほどのはやくちで)
なぜか、弁解じみた言葉を、自分でもそれと分かるほどの早口で
(まくしたてているじぶんがいました。)
まくし立てている自分がいました。
(みやびさんはむしばがしみていたみがはしっているのをがまんしているような)
ミヤビさんは虫歯が染みて痛みが走っているのを我慢しているような
(たえなひょうじょうでわたしのかおをみていました。)
妙な表情で私の顔を見ていました。
(だまってすわっているのもなんだったので、わたしはとりあえずちゅうもんをしました。)
黙って座っているのもなんだったので、私はとりあえず注文をしました。
(「ろんさかぱをろっくでおねがいします」)
「ロンサカパをロックでお願いします」
(らむしゅのこうきがびこうをぬけて、かんみ、つづいてつよいあるこーるがぞうふに)
ラム酒の香気が鼻腔を抜けて、甘味、続いて強いアルコールが臓腑に
(ながれこんでいくかんじがして、わたしはほうっといきをつきました。)
流れ込んでいく感じがして、私はほうっと息をつきました。
(つぎのしゅんかん、まるこおりとぐらすがいっぺんにゆかでこなごなになっていました。)
次の瞬間、丸氷とグラスがいっぺんに床で粉々になっていました。
(しょうめんのかがみをみたわたしのてから、うけとったばかりのぐらすが)
正面の鏡を見た私の手から、受け取ったばかりのグラスが
(すりぬけていったのでした。)
すり抜けていったのでした。
(かがみにみているものをしんじられないわたしのてから。)
鏡に見ているものを信じられない私の手から。
(かうんたーのむこうには、みやびさんのはいごにたながあって、)
カウンターの向こうには、ミヤビさんの背後に棚があって、
(たくさんのさかびんがならべられていました。)
沢山の酒瓶が並べられていました。
(ほかのばーでもよくみかけるとおもうのですが、)
他のバーでもよく見かけると思うのですが、
(そのたながつくりつけられているへきめんはかがみになっています。)
その棚が作りつけられている壁面は鏡になっています。
(みならいのばーてんだーさんが、)
見習いのバーテンダーさんが、
(しぇいかーをふるふぉーむをかくにんしていたりする、あのかがみです。)
シェイカーを振るフォームを確認していたりする、あの鏡です。
(わたしのしょうめんにあるかがみには、とうぜんながらわたしのすがたがうつっていました。)
私の正面にある鏡には、当然ながら私の姿が映っていました。
(しかしそのかおはわたしのものでなく、きのうかいだんですれちがったおとこのそれだったのです。)
しかしその顔は私のものでなく、昨日階段ですれ違った男のそれだったのです。
(「かおいろがわるい」としんぱいしてくれるみやびさんにあいさつもそこそこに、)
「顔色が悪い」と心配してくれるミヤビさんに挨拶もそこそこに、
(わたしはふたたびあぱーとににげかえりました。)
私は再びアパートに逃げ帰りました。
(よくあさ、わるいゆめをみた、とおもってべっどからおきだして、)
翌朝、悪い夢を見た、と思ってベッドから起き出して、
(へやのせんめんじょでおそるおそるかがみをみてみましたが、かおはもとにもどっていませんでした。)
部屋の洗面所で恐る恐る鏡を見てみましたが、顔は元に戻っていませんでした。
(だんごっぱなでまるがおのみなれないかおがわたしをみつめかえしていました。)
団子鼻で丸顔の見慣れない顔が私を見つめ返していました。
(そのあと、だれにあっても、あいてはまったくいわかんをおぼえているようすはありません。)
その後、誰に会っても、相手は全く違和感を覚えている様子はありません。
(まるでこれがもともとわたしのかおだったとでもいうように。)
まるでこれが元々私の顔だったとでもいうように。
(すぐあとのなつやすみにじっかにきせいしたときにあったかぞくやしんせきにも、)
すぐ後の夏休みに実家に帰省した時に会った家族や親戚にも、
(なにもいわれることはありませんでした。)
何も言われることはありませんでした。
(じっかにあったそつぎょうあるばむも、かぞくしゃしんもなにもかもぜんぶぜんぶ・・・)
実家にあった卒業アルバムも、家族写真も何もかも全部全部・・・
(あのかおにすりかわっていました。)
あの顔にすり替わっていました。
(とうじ、だいがくしんがくまえにこうさいをはじめたひととえんきょりれんあいをしていたので、)
当時、大学進学前に交際を始めた人と遠距離恋愛をしていたので、
(じっかにきせいしたあとに、すがるようなきもちでかのじょにあいにいきました。)
実家に帰省した後に、すがるような気持ちで彼女に会いに行きました。
(あのひとにだけはわかってもらえるのではないか、そうおもっていました。)
あの人にだけは分かってもらえるのではないか、そう思っていました。
(しかし、むだでした。)
しかし、無駄でした。
(「もうひとりのじぶんにそうぐうしてしまうとしぬ」)
「もうひとりの自分に遭遇してしまうと死ぬ」
(たしかにこれまでのわたしは、あるいみではしにました。)
確かにこれまでの私は、ある意味では死にました。
(そしてたぶん、かれもしんだのです。)
そして多分、彼も死んだのです。
(たがいにいったいとなることで、わたしはかおをうしない、かれはじがをうしないました。)
互いに一体となることで、私は顔を失い、彼は自我を失いました。
(こうしてじぶんのかおをうしなったわたしは、こころにあながあいていきました。)
こうして自分の顔を失った私は、心に穴が空いていきました。
(もしかしてなにかのひょうしにじぶんのせいしんがへんちょうをきたしてしまったのか、とおもい)
もしかして何かの拍子に自分の精神が変調をきたしてしまったのか、と思い
(しんりょうないかやせいしんかにもつういんしました。)
心療内科や精神科にも通院しました。
(「たにんのかおがくべつできないというしょうじょうはたまにあるんですが、)
「他人の顔が区別できないという症状はたまにあるんですが、
(じぶんのかおがわからなくなるというのはめずらしいですねえ・・・」)
自分の顔が分からなくなるというのは珍しいですねえ・・・」
(と、さしてきょうみなさそうなくちょうでいい、しゅじいはこうかなのにききめのない)
と、さして興味なさそうな口調で言い、主治医は高価なのに効き目のない
(こううつやくをまいつきしょほうするばかり。いしゃにはだまって、とちゅうでつういんをやめました。)
抗うつ薬を毎月処方するばかり。医者には黙って、途中で通院をやめました。
(あのおとことは、かいだんですれちがったあのひいらいあっていません。)
あの男とは、階段ですれ違ったあの日以来会っていません。
(それにわたしのかおがうしなわれたあのひから、「たなかにあった」とちじんにきかされる)
それに私の顔が失われたあの日から、「タナカに会った」と知人に聞かされる
(どっぺるげんがーげんしょうはぱたりとやみました。)
ドッペルゲンガー現象はぱたりと止みました。
(どなたか、にたようなけいけんをしたころがあるほうがいたら、たすけてください。)
どなたか、似たような経験をしたころがある方がいたら、助けてください。
