ピエロ伝道者2
坂口安吾の「ピエロ伝道者」です。
青空文庫を参照し、現代語版で作成しました。
「日本のナンセンス文学は、行詰っていると人々はいう。
~涙はそんなにも物静かなものであろうか?」
までを問題としています。
「日本のナンセンス文学は、行詰っていると人々はいう。
~涙はそんなにも物静かなものであろうか?」
までを問題としています。
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問題文
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(にほんのなんせんすぶんがくは、いきづまっているとひとびとはいう。)
日本のナンセンス文学は、行詰っていると人々はいう。
(とほうもないはなしだ。)
途方もない話だ。
(にほんのなんせんすぶんがくは、まだなんせんすにさえならない。)
日本のナンセンス文学は、まだナンセンスにさえならない。
(いぶせしやなかむらしのせんくしゃとしてのりっぱなあしあとはみとめなければならない。)
井伏氏や中村氏の先駆者としての立派な足跡は認めなければならない。
(そしてかれらはよきてんぶんをもつげいじゅつかである。)
そして彼等はよき天分をもつ芸術家である。
(しかしただしいみかたからすれば、あれはなんせんすではない。)
しかし正しい見方からすれば、あれはナンセンスではない。
(ことになかむらしは、わらいのうらがわに、つねにしんぞうをかんじさせようとする。)
ことに中村氏は、笑いの裏側に、常に心臓を感じさせようとする。
(そしてあるときはきじゅつしのように、わらいとなみだのこんとんをこねだそうとする。)
そして或時は奇術師のように、笑いと涙の混沌をこねだそうとする。
(なんせんすは「いみせんす、なしのん」とかんがえらるべきであるのに、)
ナンセンスは「意味センス、無しノン」と考えらるべきであるのに、
(いま、にほんのもだんご「なんせんす」は)
今、日本のモダン語「ナンセンス」は
(「かなしきわらい」としてつうようしようとしている。)
「悲しき笑い」として通用しようとしている。
(これのごときかいしゃくをもつもだんじんしゅのために、)
此の如き解釈を持つモダン人種のために、
(「かなしきわらい」はみくしききじゅつであるかもしれない。)
「悲しき笑い」は美くしき奇術であるかも知れない。
(そしてなかむらしのなんせんすはかれらをかなしますかもしれない。)
そして中村氏のナンセンスは彼等を悲しますかも知れない。
(しかし、ひとをかなしますためにわらいをかつぎだすのは、)
しかし、人を悲しますために笑いを担ぎ出すのは、
(むしろげいじゅつをげひんにする。)
むしろ芸術を下品にする。
(わらいはなみだのうらうちによってしずかなものにはならない。)
笑いは涙の裏打ちによって静かなものにはならない。
(むしろそのわらいは、さわがしいものになる。)
むしろその笑いは、騒がしいものになる。
(ちゃっぷりんは、にまきもののじだいだけでもりっぱなげいじゅつかであったのだ。)
チャップリンは、二巻物の時代だけでも立派な芸術家であったのだ。
(いつであったかせるばんてすのどんきほーては)
いつであったかセルバンテスのドン・キホーテは
など
(もっともかなしいぶんがくであると、)
最も悲しい文学であると、
(あめりかのだれかがしょうさんしていたのをきおくしている。)
アメリカの誰かが賞讃していたのを記憶している。
(あめりからしいあくしゅみなさんじであるといわなければならない。)
アメリカらしい悪趣味な讃辞であると言わなければならない。
(なるほど、くうそうへきのあるにんげんならば、)
成程、空想癖のある人間ならば、
(どんきほーてのらんちきさわぎをひとごとではよみすごせない。)
ドン・キホーテの乱痴気騒ぎを他人ごとでは読みすごせない。
(われわれは、ものしずかなあしおとにふかくこころをすわれる。)
我々は、物静かな跫音に深く心を吸われる。
(それでいい。)
それでいい。
(なぜ「わらい」が「わらい」のままげいじゅつとしてつうようできぬのであろうか?)
なぜ「笑い」が「笑い」のまま芸術として通用できぬのであろうか?
(わらいはそんなにもそうぞうしいものであろうか?)
笑いはそんなにも騒々しいものであろうか?
(なみだはそんなにもものしずかなものであろうか?)
涙はそんなにも物静かなものであろうか?