かもめ 喜劇4幕 第一幕(3)

・スマホ向けフリック入力タイピングはこちら
※アプリのインストールが必要です。
・PC向けタイピングはこちら
タブレット+BlueToothキーボードのプレイもこちらがオススメです!
Webアプリでプレイ
投稿者投稿者勇気栽培いいね0お気に入り登録
プレイ回数32難易度(5.0) 6198打 長文

関連タイピング

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(よしんばせけんがやくしゃをひいきにしてしょうにんなんかとべつあつかいにするとしても)

よしんば世間が役者を贔屓にして商人なんかと別扱いにするとしても

(まありのとうぜんですな。それがりそうしゅぎというもので)

まあ理の当然ですな。それが理想主義というもので

(おんなのひとがいつもあなたにほれこんでくびったまにぶらさがってきた)

女の人がいつもあなたに惚れ込んで首っ玉にぶら下がってきた

(これもそのりそうしゅぎですの?)

これもその理想主義ですの?

((かたをすくめて)へえね?ふじんがたはけっこうぼくをそんちょうしてくれましたよ)

(肩をすくめて)へえね?婦人がたは結構僕を尊重してくれましたよ

(それもしゅとしてうでのいいいしゃとしてでしたな。10ねん15ねんまえにはごしょうちのとおり)

それも主として腕のいい医者としてでしたな。10年15年前にはご承知の通り

(このぼくもぐんないでたったひとりのさんかいらしいさんかいでしたからね)

この僕も郡内でたった一人の産科医らしい産科医でしたからね

(それにぼくはじっちょくなおとこだったし)

それに僕は実直な男だったし

((おとこのてをとり)ねえ、あなた! しっ、ひとがきます)

(男の手を取り)ねえ、あなた! シッ、人が来ます

(あるかーじながそーりんとうでをくんでつづいてとりごーりん、しゃむらーえふ)

アルカージナがソーリンと腕を組んで続いてトリゴーリン、シャムラーエフ

(めどべーじぇんこ、まーしゃがとうじょう)

メドベージェンコ、マーシャが登場

(73ねんのぽるたヴぁのいちで、あのじょゆうはすばらしいげいを)

73年のポルタヴァの定期市(いち)で、あの女優は素晴らしい芸を

(みせましたっけ。ただきょうたんのいちごにつきます!めいじんげいでしたな。それから)

見せましたっけ。ただ驚嘆の一語に尽きます!名人芸でしたな。それから

(これもついでにうかがいたいですがきげきやくしゃのちゃーじん)

これも序でに伺いたいですが喜劇役者のチャージン

(あのぱーヴぇるせにょーぬぃちですが、あれはいまどこにいますかな?)

あのパーヴェルセニョーヌィチですが、あれは今どこに居ますかな?

(らすぷりゅーえふをやらせたらてんかむるいでね。さどーふすきいよりうえでしたな)

ラスプリューエフを演らせたら天下無類でね。サドーフスキイより上でしたな

(いやまったくですよおくさん。あわれかれ、いまいずくにかある?)

いや全くですよ奥さん。あわれ彼、今いずくにか在る?

(あなたはいつもおおむかしのひとのことばかりおききになるのね、わたしがしるもんですか)

あなたはいつも大昔の人の事ばかりお聞きになるのね、私が知るもんですか

(ぱーしかちゃーじん。いまじゃあんなやくしゃはいない。ぶたいのげらくですな)

パーシカチャージン。今じゃあんな役者はいない。舞台の下落ですな

(あるかーじなさんむかしはていていたるたいぼくぞろいだったものだがいまはもうきりかぶばかしでね)

アルカージナさん昔は亭々たる大木揃いだったものだが今はもう切株ばかしでね

など

(いかにもこうきさんぜんたるめいゆうはすくなくなった。だがそのかわりちゅうけんどころのやくしゃは)

いかにも光輝燦然たる名優は少なくなった。だがその代わり中堅どころの役者は

(ずっとよくなったです)

ずっと良くなったです

(おせつにはさんせいしかねますな。もっともこれはしゅみのもんだいでみるひとのこころごころにですて)

お説には賛成しかねますな。最もこれは趣味の問題で見る人の心心にですて

(とれーぷれふ、かりぶたいのかげからとうじょう)

トレープレフ、仮舞台の影から登場

(ねえ、うちのぼっちゃん、いったいいつまくがあくの?)

ねえ、うちの坊ちゃん、一体いつ幕が開くの?

(もうすぐです、ざんじごゆうよ)

もう直ぐです、暫時ご猶予

(おおはむれっともうなにもいうてたもるな。そなたのことばではじめてみたこのたましいの)

おおハムレットもう何も言うてたもるな。そなたの言葉で初めて見たこの魂の

(むさくろしさ。なんぼうしてもおちぬほどにくろぐろとしみこんだこころのけがれ!)

むさくろしさ。何ぼうしても落ちぬ程に黒々と染み込んだ心の穢れ!

(いや、あぶらぎったあせくさいふしどにまろびたりいのこどうぜんのあいつとむつごと)

いや、脂ぎった汗臭い臥所にまろびたり豕(いのこ)同然のアイツと睦言

(かりぶたいのかげでつのぶえのおと)

仮舞台の影で角笛の音

(さあみなさんはじまります、せいしゅくにねがいます。ではまずわたしから、おお、なんじらとしふりし)

さあ皆さん始まります、静粛に願います。ではまず私から、おお、汝ら年ふりし

(ゆいしょあるかげたちよ。よるともなればこのみずうみのうえをさまようかげたちよ)

由緒ある影たちよ。夜ともなればこの湖の上を彷徨う影達よ

(わたしたちをねいらせてくれ。そして20まんねんごのありさまをゆめにみさせてくれ)

私たちを寝入らせてくれ。そして20万年後の有様を夢に見させてくれ

(20まんねんしたらなにもないさ だからそのないところをみさせるんですよ)

20万年したら何もないさ だからそのないところを見させるんですよ

(どうともごずいいに。わたしたちはねるから)

どうともご随意に。私達は寝るから

(まくがあがってみずうみのけいがひらける。つきはちへいせんをはなれみずにはんえいしている)

幕が上がって湖の景がひらける。月は地平線を離れ水に反映している

(おおきないわのうえにぜんしんはくいのにーながすわっている)

大きな岩の上に全身白衣のニーナが座っている

(ひともらいおんもわしもらいちょうもつのをはやしたしかもがちょうもくももみずにすむむごんのさかなも)

人もライオンも鷲も雷鳥も角を生やした鹿も鵞鳥も蜘蛛も水に棲む無言の魚も

(うみにすむひとでもひとのめにみえなかったびせいぶつも、つまりはいっさいのいきもの)

海に棲むヒトデも人の眼に見えなかった微生物も、つまりは一切の生き物

(いきとしいけるものはかなしいめぐりをおえてきえうせた。もうなんぜんせいきというもの)

生きとし生けるものは悲しい巡りを終えて消え失せた。もう何千世紀というもの

(ちきゅうはひとつとしていきものをのせずあのあわれなつきだけがむなしくとうかをともしている)

地球は一つとして生き物を乗せずあの哀れな月だけが虚しく灯火を灯している

(いまはぼくじょうにねざめのつるのなくねもたえた。ぼだいじゅのはやしにこがねむしのねずれもない)

今は牧場に寝覚めの鶴の啼く音も絶えた。菩提樹の林に黄金虫の音ずれもない

(さむいさむいさむい。うつろだうつろだうつろだ。ぶきみだぶきみだぶきみだ(ま))

寒い寒い寒い。うつろだうつろだうつろだ。不気味だ不気味だ不気味だ(間)

(あらゆるいきもののからだははいとなってきえうせた。えいえんのぶっしつがそれをいしに)

あらゆる生き物のカラダは灰となって消え失せた。永遠の物質がそれを石に

(みずにくもにかえてしまったがいきもののれいこんだけはとけあわさってひとつになった)

水に雲に変えてしまったが生き物の霊魂だけは溶け合わさって一つになった

(せかいにへんざいするひとつのれいこんそれがわたしだ。このわたしだ。わたしのなかにはあれくさんどる)

世界に偏在する一つの霊魂それが私だ。この私だ。私の中にはアレクサンドル

(だいおうのたましいもある。しーざーのもしぇいくすぴあのもなぽれおんのもさいごに)

大王の魂もある。シーザーのもシェイクスピアのもナポレオンのも最後に

(いきのこったひるのたましいものこらずあるのだ。わたしのなかにはにんげんのいしきがどうぶつのほんのうと)

生き残った蛭の魂も残らずあるのだ。私の中には人間の意識が動物の本能と

(とけあっている。で、わたしはなにもかものこらずみんなおぼえている)

溶け合っている。で、私は何もかも残らずみんな覚えている

(わたしはひとつひとつのせいかつをまたあたらしくいきなおしている)

私は一つ一つの生活をまた新しく生き直している

(おにびがあらわれる)

鬼火が現れる

((こごえで)なんだかでかだんじみてるね)

(小声で)なんだかデカダンじみてるね

((あいがんにひなんをまじえて)おかあさん!)

(哀願に非難を交えて)お母さん!

(わたしはこどくだ。ひゃくねんにいちど、わたしはくちをあけてものをいう。そしてわたしのこえは)

私は孤独だ。百年に一度、私は口を開けて物を言う。そして私の声は

(このうつろのなかにわびしくひびくがだれひとりきくものはない。)

この虚(うつろ)の中に侘しく響くが誰一人聞く者はない。

(おまえたち、あおいおにびもきいてはくれない。よあけまえ、ぬまのどくけからうまれた)

お前たち、青い鬼火も聞いてはくれない。夜明け前、沼の毒気から生まれた

(おまえたちはあさひのさすまでさまよいあるくがりそうもなければいしもないせいめいのそよぎも)

お前達は朝日のさすまで彷徨い歩くが理想もなければ意志もない生命のそよぎも

(ありはしない。おまえのなかにいのちのめざめるのをおそれてえいえんのぶっしつのちちなるあくまは)

ありはしない。お前の中に命の目醒めるのを恐れて永遠の物質の父なる悪魔は

(ふんびょうのやすみもなしにいしやみずのなかとおなじくおまえのなかにもげんしのいれかえをしている)

分秒の休みもなしに石や水の中と同じくお前の中にも原子の入れ替えをしている

(だからおまえはたえずるてんをかさねている。うちゅうのなかでじょうじゅうふへんのものがあれば)

だからお前は絶えず流転を重ねている。宇宙の中で常住不変の物があれば

(それはただれいこんだけだ(ま)うつろなふかいいどへなげこまれたとらわれびとのように)

それはただ霊魂だけだ(間)うつろな深い井戸へ投げ込まれた囚われ人のように

(わたしはいばしょもしらずゆくすえのこともしらない。わたしにわかっているのは、ただぶっしつの)

私は居場所も知らず行く末の事も知らない。私に判っているのは、ただ物質の

(ちからのほんげんたるあくまをあいての、たゆまぬはげしいたたかいでけっきょくわたしがかつことに)

力の本源たる悪魔を相手の、たゆまぬ激しい戦いで結局わたしが勝つことに

(なって、やがてぶっしつとれいこんとがうつくしいちょうわのなかにとけあわさってせかいをすべる)

なって、やがて物質と霊魂とが美しい調和の中に溶け合わさって世界を統べる

(ひとつのいしのおうこくがしゅつげんする、ということだけだ。しかもそれはせんねんまたせんねんと)

一つの意志の王国が出現する、ということだけだ。しかもそれは千年また千年と

(ながいながいねんげつがしだいにながれて、あのつきも、きららかなしりうすも、このちきゅうも)

永い永い年月が次第に流れて、あの月も、きららかなシリウスも、この地球も

(すべてちりとかしたあとのことだ。そのときがくるまではおそろしいことばかりだ)

全て塵と化した後のことだ。その時が来るまでは恐ろしい事ばかりだ

((ま。みずうみのおくにあかいてんがふたつあらわれる)そら、やってきたわたしのきょうてきが、あくまが)

(間。湖の奥に紅い点が二つ現れる)そら、やってきた私の強敵が、悪魔が

(みるもおそろしい、あのひのようなふたつのめ)

見るも恐ろしい、あの火のような二つの目

(いおうのにおいがするわね。こんなひつようがあるの? ええ)

硫黄の匂いがするわね。こんな必要があるの? ええ

((わらって)なるほどこうかてきだね おかあさん!)

(笑って)なるほど効果的だね お母さん!

(にんげんがいないのでたいくつなのだ)

人間がいないので退屈なのだ

((どーるんに)まあまあぼうしをぬいで!さあさ、おかぶりなさいかぜをひきますよ)

(ドールンに)まあまあ帽子を脱いで!さあさ、お被りなさい風邪をひきますよ

(それはねどくとるがえいえんのぶっしつのちちなるあくまにだつぼうなさったのさ)

それはねドクトルが永遠の物質の父なる悪魔に脱帽なさったのさ

((かっとなっておおごえで)しばいはやめだ、たくさんだ、まくをおろせ!)

(カッとなって大声で)芝居はやめだ、沢山だ、幕を下ろせ!

(おまえ、なにをおこるのさ?)

お前、何を怒るのさ?

(たくさんです、まくだ、まくをおろせったら(とんとあしぶみして)まくだ!(まくおりる))

沢山です、幕だ、幕を下ろせったら(トンと足踏みして)幕だ!(幕下りる)

(しつれいしました、しばいをかいたりじょうえんしたりするのはしょうすうのえらばれたひとたちの)

失礼しました、芝居を書いたり上演したりするのは少数の選ばれた人達の

(することだということを、ついわすれていたもんで。ぼくはひとのはたけをあらしたんだ)

する事だということを、つい忘れていたもんで。僕は人の畑を荒らしたんだ

(ぼくが、いやぼくなんか(まだなにかいいたいが、かたてをふってひだりてへたいじょう))

僕が、いや僕なんか(まだ何か言いたいが、片手を振って左手へ退場)

(どうしたんだろう、あのこは?)

どうしたんだろう、あの子は?

(なあ、おっかさん、こりゃいけないよ。わかいもののじそんしんはだいじにしてやらなきゃ)

なあ、おっかさん、こりゃいけないよ。若い者の自尊心は大事にしてやらなきゃ

(わたしあのこになにをいったかしら? だってはじをかかしたじゃないか)

私あの子に何を言ったかしら? だって恥をかかしたじゃないか

(あのこは、これはほんのちゃばんげきでとじぶんでまえぶれしていましたよ)

あの子は、これはほんの茶番劇でと自分で前触れしていましたよ

(だからこっちもちゃばんのつもりでいたんだけれど まあさ、それにしたって)

だからこっちも茶番のつもりでいたんだけれど まあさ、それにしたって

(ところがふたをあけてみたらたいそうなりきさくだったわけなのね、やれやれ)

ところが蓋を開けてみたら大層な力作だったわけなのね、やれやれ

(あのこがこんやのしばいをしくんでいおうのにおいをぷんぷんさせたのもちゃばんどころか)

あの子が今夜の芝居を仕組んで硫黄の匂いをプンプンさせたのも茶番どころか

(いちだいでもんすとれーしょんだった。あのこはわたしたちにぎきょくのつくりかたややりかたを)

一大デモンストレーションだった。あの子は私達に戯曲の作り方や演り方を

(おしえてくれるきだったんだわ。はやいはなしが、ま、うんざりしますよ。なにかといえば)

教えてくれる気だったんだわ。早い話が、ま、うんざりしますよ。何かといえば

(いちいちわたしにつっかかったりあてこすったり、そりゃまああのこのかってだけれど)

一々私に突っ掛かったり当てこすったり、そりゃまああの子の勝手だけれど

(これじゃだれにしたっておくびがでるでしょうよ、わがままなうぬぼれのつよいこだこと)

これじゃ誰にしたってオクビが出るでしょうよ、我儘な自惚れの強い子だこと

(あのこは、おまえのつれづれをなぐさめようとおもったんだよ)

あの子は、お前のつれづれを慰めようと思ったんだよ

(おやそう?そんならなにかあたりまえのしばいをだせばいいのになぜよりによって)

おやそう?そんなら何か当たり前の芝居を出せばいいのになぜ選りに選って

(あんなでかだんのたわごとをきかせようとしたんだろう。ちゃばんのつもりならたわごと)

あんなデカダンのタワ言を聞かせようとしたんだろう。茶番のつもりならタワ言

(でもなんでもきいてやりましょうけれど、あれじゃやしんまんまん、げいじゅつにしんけいしきを)

でもなんでも聞いてやりましょうけれど、あれじゃ野心満々、芸術に新形式を

(もたらそうとか、いっしんきげんをかくそうとかたいしたいきごみじゃありませんか)

もたらそうとか、一進紀元を画そうとか大した意気込みじゃありませんか

(わたしにいわせれば、あんなものしんけいしきでもなんでもありゃしない)

私に言わせれば、あんなもの新形式でも何でもありゃしない

(ただこんじょうまがりなだけですよ)

ただ根性曲がりなだけですよ

(にんげんだれしもかきたいことをかけるようにかく)

人間誰しも書きたい事を書けるように書く

(そんならかってにかきたいことをかけるようにかくがいいわ)

そんなら勝手に書きたい事を書けるように書くがいいわ (続く)

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告