祖母のこと -5-
師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文
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(「そのまえに、てんじょうにはってあったというかみのもじについてけんかいをのべます。)
「その前に、天井に貼ってあったという紙の文字について見解を述べます。
(それは「れい」というもじではありません。)
それは「霊」という文字ではありません。
(ちいさなこどもにはみわけられなくてもしかたがないでしょう。)
小さな子どもには見分けられなくても仕方がないでしょう。
(「れい」とよくにたかんじ。「くも」です」)
「霊」と良く似た漢字。「雲」です」
(くも?)
くも?
(どうしてそんなことがだんげんできるのか。)
どうしてそんなことが断言できるのか。
(いみがかわらず、きつねにつままれたようなきぶんだった。)
意味が変わらず、狐につままれたような気分だった。
(「そのへやにはかみだながあったはずです。ごぞんじかとおもいますが、)
「その部屋には神棚があったはずです。ご存知かと思いますが、
(かみだなはいちばんたかいところにせっちされるものです。できるだけてんじょうちかくに。)
神棚は一番高いところに設置されるものです。出来るだけ天井近くに。
(そしてそれだけではなく、そのたてもののさいじょうかいにせっちされるべきものなのです。)
そしてそれだけではなく、その建物の最上階に設置されるべきものなのです。
(もしさいじょうかいにせっちできないばあい、そこがてんにちかいということをあらわすため、)
もし最上階に設置できない場合、そこが天に近いということを表すため、
(「くもいた」とよばれるいたをかみだなのじょうぶにかざります。)
「雲板」と呼ばれる板を神棚の上部に飾ります。
(くもをかたどったいしょうをほどこしてあるいたです。)
雲をかたどった意匠を施してある板です。
(あるいは、「くももじ」とよばれるもじをてんじょうにはるのです。)
あるいは、「雲文字」と呼ばれる文字を天井に貼るのです。
(「てん」や「くも」などとかいたかみをてんじょうにはることで、)
「天」や「雲」などと書いた紙を天井に貼ることで、
(そのへやがてんにちかいばしょであるということをあらわすのです。)
その部屋が天に近い場所であるということを表すのです。
(これらはふるいしゅうかんですが、いまでもまれにみることができます。)
これらは古い習慣ですが、今でもまれに見ることができます。
(そのつやがあったのは、ごじゅうねんちかくもまえのことです。)
その通夜があったのは、五十年近くも前のことです。
(まだそうしたしゅうかんがいろこくのこっていたじきでしょう」)
まだそうした習慣が色濃く残っていた時期でしょう」
(ししょうがことばをきっていらいにんのほうをみる。)
師匠が言葉を切って依頼人の方を見る。
など
(よりこさんは「くも」とつぶやいて、どこかとおくをみるようなかおをしている。)
頼子さんは「雲」と呟いて、どこか遠くを見るような顔をしている。
(「そしてそれは、おばあちゃんのへやがそのいえのさいじょうかいにはなかったことを)
「そしてそれは、お祖母ちゃんの部屋がその家の最上階にはなかったことを
(しめしています。)
示しています。
(ちいさいころのかわぞいさんがえんがわからたずねたというへやは、)
小さいころの川添さんが縁側から訪ねたという部屋は、
(いちかいにあったことはうたがいありません。)
一階にあったことは疑いありません。
(しかし、そのいえはひらやではありませんでした。)
しかし、その家は平屋ではありませんでした。
(なぜなら、「くももじ」をてんじょうにはらなくてはならなかったからです。)
なぜなら、「雲文字」を天井に貼らなくてはならなかったからです。
(つまりにかいぶぶんがあったのです。)
つまり二階部分があったのです。
(なのにかみだなはいっかいのへやにせっちされていた。)
なのに神棚は一階の部屋に設置されていた。
(いえの、もっともたかいばしょにおくべきものが、です。)
家の、もっとも高い場所に置くべきものが、です。
(ここからそうぞうできることは、こうです。)
ここから想像できることは、こうです。
(「おばあちゃんはそのいえのまがりにんだった」)
「お祖母ちゃんはその家の間借り人だった」
(だから、かみだなをいちばんたかいばしょにおきたくても、いえのにんげんではなかった)
だから、神棚を一番高い場所に置きたくても、家の人間ではなかった
(おばあちゃんは、いっ」かいのまがりしているへやにおくしかなかった」)
お祖母ちゃんは、一階の間借りしている部屋に置くしかなかった」
(ししょうはたんたんとそうかたった。)
師匠は淡々とそう語った。
(「そのいえにはおばあちゃんいがいに、ほかのじゅうにんがいたのです。)
「その家にはお祖母ちゃん以外に、他の住人がいたのです。
(あなたがきおくしていなくても。)
あなたが記憶していなくても。
(おばあちゃんのかわりにかんおけにはいっていたししゃがだれなのかは、)
お祖母ちゃんの代わりに棺おけに入っていた死者が誰なのかは、
(もうおわかりですね。)
もうお分かりですね。
(いえ、せいかくにはあなたが「おばあちゃん」とよんでいたじんぶつのかわりに、)
いえ、正確にはあなたが「おばあちゃん」と呼んでいた人物の代わりに、
(かんおけにはいっていたひとのことです。)
棺おけに入っていた人のことです。
(せつこさん、とおっしゃいましたか。)
せつ子さん、とおっしゃいましたか。
(おとうさんのそぼ、あなたにとってはそうそぼにあたるじょせい。)
お父さんの祖母、あなたにとっては曾祖母にあたる女性。
(かんおけによこたわり、のこされたしんるいやちかしかったひとびとに)
棺おけに横たわり、残された親類や親しかった人々に
(しにがおをみてもらっていたのは、そのひとです」)
死に顔を見てもらっていたのは、その人です」
(よりこさんはめをみひらいた。そしてくちがきけないかのようにのどもとがふるえている。)
頼子さんは目を見開いた。そして口が利けないかのように喉元が震えていえる。
(「あなたがただ、おばあちゃん、とよんでいた、なまえをもしらなかったじょせいは、)
「あなたがただ、おばあちゃん、と呼んでいた、名前をも知らなかった女性は、
(もちろんそうそぼのせつこさんではありません。)
もちろん曾祖母のせつ子さんではありません。
(また、あなたのそぼにあたるひとでもなかったかのうせいがたかいとおもいます。)
また、あなたの祖母にあたる人でもなかった可能性が高いと思います。
(ひょっとすると、まったくのたにんだったかもしれません。)
ひょっとすると、全くの他人だったかも知れません。
(ただほんとうのそうそぼのいえのひとへやをまがりしていたというだけの・・・・・)
ただ本当の曾祖母の家の一部屋を間借りしていたというだけの・・・・・
(さきにことわったとおり、そのおばあさんがどこにいったのかはわかりません。)
先に断ったとおり、そのおばあさんがどこに行ったのかは分かりません。
(せつこさんのつやのひ、まがりしていたへやがすっかりかたづけられ、)
せつ子さんの通夜の日、間借りしていた部屋がすっかり片付けられ、
(たくさんのちょうもんきゃくをうけいれていたことをかんがえると、)
たくさんの弔問客を受け入れていたことを考えると、
(おばあさんはそのときすでに、)
おばあさんはその時すでに、
(もういえからひっこしたあとだったのかもしれません。)
もう家から引っ越したあとだったのかも知れません。
(びょういんか、べつのしゃくやか。あるいは・・・・・」)
病院か、別の借家か。あるいは・・・・・」
(そういってししょうは、そっとゆびをてんにむけた。)
そう言って師匠は、そっと指を天に向けた。