蟹工船5

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プレイ回数897難易度(4.2) 2913打 長文 かな
1929年小林多喜二の小説。プロレタリア文学を代表する作品。
原文は青空文庫から。感嘆符、疑問符、句読点などを除き記号は省略しています。 ルビを<>で示し、一部の原文の読みを読みやすさを優先して無視し、わかりやすくしています。当用漢字が使われていることに注意してください。

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問題文

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(のりのついたましろい、うわぎのたけのみじかいふくをきたぼーいが、)

糊のついた真白い、上衣の丈の短い服を着た給仕<ボーイ>が、

(とものさろんに、びーる、くだもの、ようしゅのこっぷをもって、)

「とも」のサロンに、ビール、果物、洋酒のコップを持って、

(いそがしくいききしていた。さろんにはかいしゃのおっかないひと、せんちょう、かんとく、)

忙しく往き来していた。サロンには、「会社のオッかない人、船長、監督、

(それにかむさつかでけいびのにんにあたるくちくかんのおんたい、)

それにカムサツカで警備の任に当る駆逐艦の御大<おんたい>、

(すいじょうけいさつのしょちょうさん、かいいんくみあいのおりかばんがいた。)

水上警察の署長さん、海員組合の折鞄」がいた。

(ちくしょう、がぶがぶのむったら、ありゃしない)

「畜生、ガブガブ飲むったら、ありゃしない」

(ぼーいはふくれかえっていた。)

----給仕<ボーイ>はふくれかえっていた。

(ぎょふのあなに、はまなすのようなでんきがついた。)

漁夫の「穴」に、浜なすのような電気がついた。

(たばこのけむりやひといきれで、くうきがにごって、くさく、)

煙草の煙や人いきれで、空気が濁って、臭く、

(あなぜんたいがそのままくそつぼだった。)

穴全体がそのまま「糞壺」だった。

(くぎられたねどこにごろごろしているにんげんが、うじむしのようにうごめいてみえた。)

区切られた寝床にゴロゴロしている人間が、蛆虫のようにうごめいて見えた。

(ぎょぎょうかんとくをせんとうに、せんちょう、こうじょうだいひょう、)

----漁業監督を先頭に、船長、工場代表、

(ざつふちょうがはっちをおりてはいってきた。)

雑夫長がハッチを下りて入って来た。

(せんちょうはさきのはねあがっているひげをきにして、しじゅうはんかちでうわくちびるになでつけた。)

船長は先のハネ上っている髭を気にして、始終ハンカチで上唇を撫でつけた。

(つうろには、りんごやばななのかわ、ぐじょぐじょしたたかじょう、)

通路には、林檎やバナナの皮、グジョグジョした高丈、

(わらじ、めしつぶのこびりついているうすかわなどがすててあった。)

鞋<わらじ>、飯粒のこびりついている薄皮などが捨ててあった。

(ながれのとまったどぶだった。)

流れの止った泥溝<どぶ>だった。

(かんとくはじろりとそれをみながら、ぶえんりょにつばをはいた。)

監督はじろりそれを見ながら、無遠慮に唾をはいた。

(どれものんできたらしく、かおをあかくしていた。)

どれも飲んで来たらしく、顔を赤くしていた。

(ちょっといっておくかんとくがどかたのぼうがしらのようにがんじょうなからだで、)

「一寸<ちょっと>云って置く」監督が土方の棒頭のように頑丈な身体で、

など

(かたあしをねどこのしきりのうえにかけて、ようじでくちをもぐもぐさせながら、)

片足を寝床の仕切りの上にかけて、楊子で口をモグモグさせながら、

(ときどきはにはさまったものを、とっとっととばして、くちをきった。)

時々歯にはさまったものを、トットッと飛ばして、口を切った。

(わかってるものもあるだろうが、いうまでもなくこのかにこうせんのじぎょうは、)

「分ってるものもあるだろうが、云うまでもなくこの蟹工船の事業は、

(ただたんにだ、いちがいしゃのもうけしごととみるべきではなくて、こくさいじょうのいちだいもんだいなのだ。)

ただ単にだ、一会社の儲仕事と見るべきではなくて、国際上の一大問題なのだ。

(われわれがわれわれにほんていこくじんみんがえらいか、がえらいか。)

我々----が我々日本帝国人民が偉いか、##が偉いか。

(いっきうちのたたかいなんだ。)

一騎打ちの戦いなんだ。

(それにもし、もしもだ。そんなことはぜったいにあるべきはずがないが、)

それに若し、若しもだ。そんな事は絶対にあるべき筈がないが、

(まけるようなことがあったら、をぶらさげたにほんだんじははらでもきって、)

負けるようなことがあったら、##をブラ下げた日本男児は腹でも切って、

(かむさつかのうみのなかにぶちおちることだ。)

カムサツカの海の中にブチ落ちることだ。

(からだがちいさくたって、のろまなにまけてたまるもんじゃない。)

身体が小さくたって、野呂間な##に負けてたまるもんじゃない。

(それに、わがかむさつかのぎょぎょうはかにかんづめばかりでなく、)

「それに、我カムサツカの漁業は蟹罐詰ばかりでなく、

(さけ、ますとともに、こくさいてきにいってだ、)

鮭、鱒と共に、国際的に云ってだ、

(ほかのくにとはくらべものにならないゆうしゅうなちいをたもっており、)

他の国とは比らべもならない優秀な地位を保っており、

(またにほんこくないのいきづまったじんこうもんだい、しょくりょうもんだいにたいして、)

又日本国内の行き詰った人口問題、食糧問題に対して、

(じゅうだいなしめいをもっているのだ。こんなことをしゃべったって、)

重大な使命を持っているのだ。こんな事をしゃべったって、

(おまえらにはわかりもしないだろうが、ともかくだ、)

お前等には分りもしないだろうが、ともかくだ、

(にほんていこくのおおきなしめいのために、おれたちはいのちをまとに、)

日本帝国の大きな使命のために、俺達は命を的に、

(ほっかいのあらなみをつっきっていくのだということをしっててもらわにゃならない。)

北海の荒波をつッ切って行くのだということを知ってて貰わにゃならない。

(だからこそ、あっちへいってもしじゅうわがていこくのぐんかんがわれわれを)

だからこそ、あっちへ行っても始終我帝国の軍艦が我々を

(まもっていてくれることになっているのだ。)

守っていてくれることになっているのだ。

(それをいまはやりののまねをして、)

......それを今流行りの##の真似をして、

(とんでもないことをけしかけるものがあるとしたら、)

飛んでもないことをケシかけるものがあるとしたら、

(それこそ、とりもなおさずにほんていこくをうるものだ。)

それこそ、取りも直さず日本帝国を売るものだ。

(こんなことはないはずだが、よっくおぼえておいてもらうことにする)

こんな事は無い筈だが、よッく覚えておいて貰うことにする......」

(かんとくはよいざめのくさめをなんどもした。)

監督は酔いざめのくさめを何度もした。

(よっぱらったくちくかんのおんたいは)

酔払った駆逐艦の御大<おんたい>は

(ばねじかけのにんぎょうのようなぎくしゃくしたあしどりで、)

バネ仕掛の人形のようなギクシャクした足取りで、

(またしてあるらんちにのるために、たらっぷをおりていった。)

待たしてあるランチに乗るために、タラップを下りて行った。

(すいへいがうえとしたから、かんとんぶくろにいれたいしころみたいなかんちょうをかかえて、)

水兵が上と下から、カントン袋に入れた石ころみたいな艦長を抱えて、

(ほとんどもてあましてしまった。)

殆んど持てあましてしまった。

(てをふったり、あしをふんばったり、かってなことをわめくかんちょうのために、)

手を振ったり、足をふんばったり、勝手なことをわめく艦長のために、

(すいへいはなんどもまともからじぶんのかおにつばをふきかけられた。)

水兵は何度も真正面から自分の顔に「唾」を吹きかけられた。

(おもてじゃ、なんとか、かんとかえらいこといってこのざまなんだ)

「表じゃ、何んとか、かんとか偉いこと云ってこの態<ざま>なんだ」

(かんちょうをのせてしまって、ひとりがたらっぷのおどりばからろーぷをはずしながら、)

艦長をのせてしまって、一人がタラップのおどり場からロープを外しながら、

(ちらっとかんちょうのほうをみて、ひくいこえでいった。)

ちらっと艦長の方を見て、低い声で云った。

(やっちまうか!?)

「やっちまうか!?......」

(ふたりはちょっといきをのんだ、がこえをあわせてわらいだした。)

二人は一寸<ちょっと>息をのんだ、が......声を合せて笑い出した。

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