源氏物語 若菜上「夕霧、源氏の言葉を言上す」

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(ちゅうなごんのきみ、「すぎはべりにけむかたは、ともかくもおもうたまへわきがたくはべり。)

中納言の君、「過ぎはべりにけむ方は、ともかくも思う給へ分きがたくはべり。

(としまかりいりはべりて、おほやけにもつかうまつりはべるあひだ、)

年まかり入りはべりて、朝廷にも仕うまつりはべるあひだ、

(よのなかのことをみたまへまかりありくほどには、だいせうのことにつけても、)

世の中のことを見たまへまかりありくほどには、大小のことにつけても、

(うちうちのさるべきものがたりなどのついでにも、)

うちうちのさるべき物語などのついでにも、

(「いにしへのうれはしきことありてなむ」など、)

『いにしへのうれはしきことありてなむ』など、

(うちかすめまうさるるをりははべらずなむ。)

うちかすめ申さるる折ははべらずなむ。

(「かくおほやけのおんうしろみをつかうまつりさして、しずかなるおもひをかなへむと、)

『かく朝廷の御後見を仕うまつりさして、静かなる思ひをかなへむと、

(ひとへにこもりいしのちは、なにごとをも、しらぬやうにて、)

ひとへに籠もりゐし後は、何ごとをも、知らぬやうにて、

(こいんのごゆいごんのごともえつかうまつらず、おんくらいにおはしまししよには、)

故院の御遺言のごともえ仕うまつらず、御位におはしましし世には、

(よはひのほども、みのうつはものもおよばず、かしこきうへのひとびとおほくて、)

齢のほども、身のうつはものも及ばず、かしこき上の人びと多くて、

(そのこころざしをとげてごらんぜらるることもなかりき。いま、かくまつりごとをさりて、)

その心ざしを遂げて御覧ぜらるることもなかりき。今、かく政事を去りて、

(しずかにおはしますころほひ、こころのうちをもへだてなく、)

静かにおはしますころほひ、心のうちをも隔てなく、

(まいりうけたまはらまほしきを、さすがになんとなくところせまきみのよそほひにて、)

参りうけたまはらまほしきを、 さすがに何となく所狭き身のよそほひにて、

(おのづからつきひをすぐすこと」となむ、をりをりなげきまうしたまふ」など、そうしたまふ。)

おのづから月日を過ぐすこと』となむ、折々嘆き申し給ふ」など、奏したまふ。

(はたちにもまだわづかなるほどなれど、いとよくととのひすぐして、)

二十にもまだわづかなるほどなれど、いとよくととのひ過ぐして、

(かたちもさかりににほひて、いみじくきよらなるを、)

容貌も盛りに匂ひて、いみじくきよらなるを、

(おんめにとどめてうちまもらせたまひつつ、)

御目にとどめてうちまもらせたまひつつ、

(これをやなど、ひとせれずおぼしよりけり。「おほきおとどのわたりに、)

これをやなど、人知れず思し寄りけり。「太政大臣のわたりに、

(いまはすみつかれにたりとな。としごろこころえぬさまにききしが、)

今は住みつかれにたりとな。 年ごろ心得ぬさまに聞きしが、

(いとほしかりしを、みみやすきものから、さすがにねたくおもふことこそあれ」)

いとほしかりしを、耳やすきものから、さすがにねたく思ふことこそあれ」

など

(とのたまはするみけしきを、「いかにのたまはするにか」と、)

とのたまはする御けしきを、「いかにのたまはするにか」と、

(あやしくおもひめぐらすに、「このひめみやをかくおぼしあつかひて、さるべきひとあらば、)

あやしく思ひめぐらすに、「この姫宮をかく思し扱ひて、さるべき人あらば、

(あづけて、こころやすくよをもおもひはなればや、となむおぼしのたまはする」と、)

預けて、心やすく世をも思ひ離ればや、となむ思しのたまはする」と、

(おのづからもりぎきたまふたよりありければ、「さやうのすぢにや」とはおもひぬれど、)

おのづから漏り聞き給ふ便りありければ、「さやうの筋にや」とは思ひぬれど、

(ふとこころえがほにも、なにかはいらへきこえさせむ。ただ、)

ふと心得顔にも、何かはいらへきこえさせむ。ただ、

(「はかばかしくもはべらぬみには、よるべもさぶらひがたくのみなむ」)

「はかばかしくもはべらぬ身には、寄るべもさぶらひがたくのみなむ」

(とばかりそうしてやみぬ。)

とばかり奏して止みぬ。

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