源氏物語 桐壺3-1「若宮参内」

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(つきひへて、わかみやまいりたまひぬ。いとどこのよのものならず)

月日経て、若宮参りたまひぬ。いとどこの世のものならず

(きよらにおよすげたまへれば、いとゆゆしうおぼしたり。)

清らにおよすげたまへれば、いとゆゆしう思したり。

(あくるとしのはる、ばうさだまりたまふにも、いとひきこさまほしうおぼせど、)

明くる年の春、坊定まりたまふにも、いと引き越さまほしう思せど、

(おんうしろみすべきひともなく、またよのうけひくまじきことなりければ、)

御後見すべき人もなく、また世のうけひくまじきことなりければ、

(なかなかあやふくおぼしはばかりて、いろにもいださせたまはずなりぬるを、)

なかなか危く思し憚りて、色にも出ださせたまはずなりぬるを、

(「さばかりおぼしたれど、かぎりこそありけれ」と、)

「さばかり思したれど、限りこそありけれ」と、

(よひともきこえ、にょうごもみこころおちいたまひぬ。)

世人も聞こえ、女御も御心落ちゐたまひぬ。

(かのおんそぼきたのかた、なぐさむかたなくおぼししづみて、)

かの御祖母北の方、慰む方なく思し沈みて、

(おはすらむところにだにたづねゆかむとねがひたまひししるしにや、)

おはすらむ所にだに尋ね行かむと願ひたまひししるしにや、

(つひにうせたまひぬれば、またこれをかなしびおぼすことかぎりなし。)

つひに亡せたまひぬれば、またこれを悲しび思すこと限りなし。

(みこむっつになりたまふとしなれば、このたびはおぼししりてこひなきたまふ。)

御子六つになりたまふ年なれば、このたびは思し知りて恋ひ泣きたまふ。

(としごろなれむつびきこえたまひつるを、)

年ごろ馴れ睦びきこえたまひつるを、

(みたてまつりおくかなしびをなむ、かへすがへすのたまひける。)

見たてまつり置く悲しびをなむ、返す返すのたまひける。