愛国者達からの無線 前編

(しかしいっぽうでいでんしじょうにのっていないものがある。)

しかし一方で遺伝子上に載っていないものがある。

(いでんじょうほうにのっていないもの？)

遺伝情報に載っていないもの？

(そう、ひとのきおくやしそう、ぶんかやれきしだ。)

そう、人の記憶や思想、文化や歴史だ。

(いでんしにはじんるいのれきしはきざまれてない。)

遺伝子には人類の歴史は刻まれてない。

(はたして、それはつたえるべきなのか？)

果たして、それは伝えるべきなのか？

(これまでどうよう、しぜんかいでとうたされるべきなのか？)

これまで同様、自然界で淘汰されるべきなのか？

(わたしたちのせんぞはそれらをかたりつたえてきた。)

私達の先祖はそれらを語り伝えて来た。

(ことばやえ、もじをつかってせきばんやしょもつにきろくしながら。)

言葉や絵、文字を使って石版や書物に記録しながら。

(しかし、すべてのじょうほうがこうせいにつたえられてきたわけではない。)

しかし、全ての情報が後世に伝えられて来た訳ではない。

(せんたくされ、かこうされてけいしょうされてきたのだ。まるでいでんしのように。)

選択され、加工されて継承されて来たのだ。まるで遺伝子のように。

(それがひとのれきしよ、じゃっく。)

それが人の歴史よ、ジャック。

(しかし、げんだいのでじたるしゃかいでは、ひびのあらゆるじょうほうがちくせきされ、)

しかし、現代のデジタル社会では、日々のあらゆる情報が蓄積され、

(ささいなじょうほうがそのままのかたちでほぞんされている。えいきゅうに、れっかすることはない。)

些細な情報がそのままの形で保存されている。永久に、劣化することはない。

(だれがいったかもわからない、ごみのようなうわさ、まちがったかいしゃく、たにんのちゅうしょう。)

誰が言ったかもわからない、ゴミのような噂、間違った解釈、他人の中傷。

(あらゆるじょうほうがろかされず、ほぞんされて、こうせいにつたえられる。)

あらゆる情報がろ過されず、保存されて、後世に伝えられる。

(それはしんかをとめる。)

それは進化を止める。

(らいでん、きみはわれわれがおこなおうとしていることをたんなるけんえつだとおもっていないか？)

雷電、君は我々が行おうとしていることを単なる検閲だと思っていないか？

(ちがうとでもいうのか！？)

違うとでも言うのか！？

(ええ、もちろん。わたしたちがしようとしてるのはこんてんつのせいぎょではなく、)

ええ、勿論。私達がしようとしてるのはコンテンツの制御ではなく、

(こんてくすとのせいせい。)

コンテクストの生成。

(こんてくすとのせいせい？)

コンテクストの生成？

(せかいのでじたるかは、ひとのよわさをじょちょうし、)

世界のデジタル化は、人の弱さを助長し、

(それぞれだけにつごうのよい「しんじつ」のせいせいをかそくしている。)

それぞれだけに都合の良い『真実』の生成を加速している。

(しゃかいにみちる「しんじつ」のやまをみてみるがいい。)

社会に満ちる『真実』の山を見てみるがいい。

(こうかなへいきがじんどうてきにひとをころし)

高価な兵器が人道的に人を殺し

(はんざいしゃのじんけんはひがいしゃのぷらいばしーよりていちょうにあつかわれ)

犯罪者の人権は被害者のプライバシーより丁重に扱われ

(きしょうどうぶつほごのきふきんがあつまるかたわらで、ひんこんにくるしむひとたちがいる。)

希少動物保護の寄付金が集まる傍らで、貧困に苦しむ人達がいる。

(だれもがこういわれてそだつわ。)

誰もがこう言われて育つわ。

(たにんにはやさしくしよう。)

他人には優しくしよう。

(でもきょうそうあいてはたたきのめせ！)

でも競争相手は叩きのめせ！

(「おまえはとくべつだ」「しんじていればゆめはかなう」)

『お前は特別だ』『信じていれば夢はかなう』

(だけどせいこうできるにんげんがいちぶだけなのは、はじめからあきらかよね。)

だけど成功できる人間が一部だけなのは、初めから明らかよね。

(きみたちが「じゆう」を「こうし」した、これがけっかだ。)

君達が『自由』を『行使』した、これが結果だ。

(あらそいをさけ、きずつかないようにおたがいをかばいあうためのきべん)

争いをさけ、傷つかないようにお互いをかばいあうための詭弁

(「せいじてきただしさ」や「かちそうたいか」というきれいごとのなのもとに、)

『政治的正しさ』や『価値相対化』というキレイゴトの名の下に、

(それぞれの「しんじつ」がただちくせきされていく。)

それぞれの『真実』がただ蓄積されていく。

(しょうとつをおそれてそれぞれのこみゅにてぃにひきこもり、)

衝突を怖れてそれぞれのコミュニティにひきこもり、

(ぬるまゆのなかでてきとうにあまやかしあいながら、このみの「しんじつ」をたれながす。)

ぬるま湯の中で適当に甘やかしあいながら、好みの『真実』を垂れ流す。

(かみあわないのにぶつからない「しんじつ」のかずかず。)

かみ合わないのにぶつからない『真実』の数々。

(だれもひていされないがゆえにだれもただしくない。)

誰も否定されないが故に誰も正しくない。

(ここではとうたもおこらない。せかいは「しんじつ」でほうわする。)

ここでは淘汰も起こらない。世界は『真実』で飽和する。

(それがせかいをおわらせるのだ。ゆるやかに。)

それが世界を終わらせるのだ。緩やかに。

(わたしたちはそれをくいとめてあげようっていうの。)

私達はそれを食い止めてあげようって言うの。

(われわれにはしはいしゃとしてのせきにんがあるからな。)

我々には支配者としての責任があるからな。

(いでんしとおなじくひつようのないじょうほうきおくはとうたされてこそ、しゅのしんかをそくしんするのだ)

遺伝子と同じく必要のない情報記憶は淘汰されてこそ、種の進化を促進するのだ

(なにがひつようか、おまえたちがきめるっていうのか！？)

何が必要か、お前たちが決めるっていうのか！？

(そのとおりだ。きみたちがひりだすくそのやまから、)

その通りだ。君達がひり出す糞の山から、

(われわれがかちのあるしんじつをえらびとり、のこすべきいみをつむいでやる。)

我々が価値のある真実を選び取り、残すべき意味を紡いでやる。

(それがこんてくすとのせいせい。)

それがコンテクストの生成。

(つぎのせだいにつたえるものはじぶんできめる！)

次の世代に伝えるものは自分で決める！

(それはきみじしんのことばか？)

それは君自身の言葉か？

(すねーくさんがいったことじゃないの？)

スネークさんが言ったことじゃないの？

(。)

。

(ふふん。それがきみのむのうをあらわしている。きみにせんたくのじゆうをこうしするしかくはない。)

ふふん。それが君の無能を表している。君に選択の自由を行使する資格はない。

(ちがう！おれはじぶんで)

違う！俺は自分で

(「じぶん」なんてものが、あなたにあるの！？)

『自分』なんてものが、あなたにあるの！？

(きみがおもっている「じぶん」なぞ、)

君が思っている『自分』なぞ、

(せいぜいみをまもるためのいいわけにすぎんのではないか？)

せいぜい身を守るための言い訳に過ぎんのではないか？

(せけんにあふれてるできあいの「しんじつ」のなかから、)

世間に溢れてる出来合いの『真実』の中から、

(そのときどきにきもちよくおもえることをつぎはぎしただけ。)

その時々に気持ち良く思えることをツギハギしただけ。

(あるいは、もっともらしいけんいのもとにみをよせて)

あるいは、もっともらしい権威の下に身を寄せて

(てにいれたつもりになっているかりものか。)

手に入れたつもりになっている借り物か。

(ちがう！！)

違う！！

(うん？だれかにそういってもらいたいのか？よかろう。いってやれ。)

うん？誰かにそう言ってもらいたいのか？良かろう。言ってやれ。

(あなたはりっぱよ、じゃっく！じぶんをかくりつしてるもの！！)

あなたは立派よ、ジャック！自分を確立してるもの！！

(くそっ。)

くそっ。

(どうした？まよったのか？では「じぶんさがし」でもしてみるか？)

どうした？迷ったのか？では『自分探し』でもしてみるか？

(なにもみつからないとおもうけど。)

何も見つからないと思うけど。

(だが、そうやってじぶんでつくった「じぶん」にもかかわらず、)

だが、そうやって自分で作った『自分』にも関わらず、

(なにかつごうがわるいことがおきると、それをほかのなにかのせいにする。)

何か都合が悪いことが起きると、それを他の何かのせいにする。

(おれのせいじゃない。きみのせいじゃない。)

俺のせいじゃない。君のせいじゃない。

(そしてまたべつのくちあたりのよい「しんじつ」をさがして、そこに「いやし」をもとめる。)

そしてまた別の口当たりの良い『真実』を探して、そこに『癒し』を求める。

(いままでりようしてた「しんじつ」をあっさりつかいすててね。)

今まで利用してた『真実』をあっさり使い捨ててね。

(そんなきみにしんじつがえらべるのか？)

そんな君に真実が選べるのか？

(そのじゆうをつかうしかくがあるの？)

その自由を使う資格があるの？

(きみはじゆうをくいつぶしている。)

君は自由を食いつぶしている。

(あなたはじゆうにあたいしない。)

あなたは自由に値しない。