人でなしの恋7

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江戸川乱歩『人でなしの恋』

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(ところが、それほどのぎわくにもかかわらず、わたしはなにひとつ、うたがいいじょうの、はっきりした)

ところが、それほどの疑惑にも拘らず、私は何一つ、疑い以上の、ハッキリした

(ものをつかむことはできないのでございました。かどのがうちをあけると)

ものを掴むことは出来ないのでございました。門野が家をあけると

(もうしましても、ごくわずかのあいだで、それがたいていはゆきさきがしれているのですし、)

申しましても、極く僅の間で、それが大抵は行先が知れているのですし、

(にっきちょうだとかてがみるい、しゃしんまでも、こっそりしらべてみましても、あのひとの)

日記帳だとか手紙類、写真までも、こっそり調べて見ましても、あの人の

(こころもちをたしかめうるようなあとは、すこしもみつかりはしないのでございます。)

心持を確め得る様な跡は、少しも見つかりはしないのでございます。

(ひょっとしたら、むすめごころのあさはかにも、ねもないことをうたがって、むだなくろうを)

ひょっとしたら、娘心のあさはかにも、根もないことを疑って、無駄な苦労を

(もとめているのではないかしら、いくどか、そんなふうにはんせいしてみましても、)

求めているのではないかしら、幾度か、そんな風に反省して見ましても、

(いちどねをはったぎわくは、どうとこうすべもなく、ともすれば、わたしのそんざいをさえ)

一度根を張った疑惑は、どう解こうすべもなく、ともすれば、私の存在をさえ

(わすれはてたかたちで、ぼんやりとひとつところをみつめて、ものおもいにふけっているあのひとの)

忘れ果てた形で、ぼんやりと一つ所を見つめて、物思いに耽っているあの人の

(すがたをみるにつけ、やっぱりなにかあるにそういない、きっときっと、それに)

姿を見るにつけ、やっぱり何かあるに相違ない、きっときっと、それに

(きまっている。では、もしや、あれではないのかしら。といいますのは、かどのは)

極っている。では、もしや、あれではないのかしら。といいますのは、門野は

(さきからもうしますように、ひじょうにゆううつなたちだものですから、しぜんひっこみじあんで、)

先から申します様に、非常に憂鬱なたちだものですから、自然引込思案で、

(ひとまにとじこもってほんをよんでいるようなじかんがおおく、それも、しょさいでは)

一間にとじ籠って本を読んでいる様な時間が多く、それも、書斎では

(きがちっていけないともうし、うらにたっていましたどぞうのにかいへあがって、さいわい)

気が散っていけないと申し、裏に建っていました土蔵の二階へ上って、幸い

(そこにせんぞからつたわったふるいしょもつがたくさんつんでありましたので、うすぐらいところで、)

そこに先祖から伝わった古い書物が沢山積んでありましたので、薄暗い所で、

(よるなどはむかしながらのぼんぼりをともして、ひとりぼっちでしょけんをするのが、あのひとの、)

夜などは昔ながらの雪洞をともして、一人ぼっちで書見をするのが、あの人の、

(もっとわかいじぶんからの、ひとつのたのしみになっていたのでございます。それが、)

もっと若い時分からの、一つの楽みになっていたのでございます。それが、

(わたしがまいってからはんとしばかりというものは、わすれたように、どぞうのそばへあしぶみも)

私が参ってから半年ばかりというものは、忘れた様に、土蔵のそばへ足ぶみも

(しなくなっていたのが、ついそのころになって、またしても、しげしげとどぞうへはいるように)

しなくなっていたのが、ついその頃になって、又しても、繁々と土蔵へ入る様に

(なってまいったのでございます。このことがらになにかいみがありはしないか。)

なって参ったのでございます。この事柄に何か意味がありはしないか。

など

(わたしはふとそこへきがついたのでございました。)

私はふとそこへ気がついたのでございました。

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