白痴 13

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坂口安吾の小説。

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問題文

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(いざわははじめてりょうかいした。)

伊沢ははじめて了解した。

(おんなはかれをおそれているのではなかったのだ。)

女は彼を怖れているのではなかったのだ。

(まるでじたいはあべこべだ。)

まるで事態はあべこべだ。

(おんなはしかられてにげばにきゅうしてそれだけのりゆうによってきたのではない。)

女は叱られて逃げ場に窮してそれだけの理由によって来たのではない。

(いざわのあいじょうをもくさんにいれていたのであった。)

伊沢の愛情を目算に入れていたのであった。

(だがいったいおんながいざわのあいじょうをしんじることが)

だがいったい女が伊沢の愛情を信じることが

(おこりえるようななにごとがあったであろうか。)

起り得るような何事があったであろうか。

(ぶたごやのあたりやろじやろじょうで)

豚小屋のあたりや路地や路上で

(やあといってしごへんあいさつしたぐらい、)

ヤアと云って四五へん挨拶したぐらい、

(おもえばすべてがとうとつでまったくちゃばんにほかならず、)

思えばすべてが唐突で全く茶番に外ならず、

(いざわのまえにはくちのいしやかんじゅせいや、)

伊沢の前に白痴の意志や感受性や、

(ともかくにんげんいがいのものがきょうようされているだけだった。)

ともかく人間以外のものが強要されているだけだった。

(でんとうをけしていちにふんたちおとこのてがおんなのからだにふれないために)

電燈を消して一二分たち男の手が女のからだに触れないために

(きらわれたじかくをいだいて、)

嫌われた自覚をいだいて、

(そのはずかしさにふとんをぬけだすということが、)

その羞しさに蒲団をぬけだすということが、

(はくちのばあいはそれがしんじつひつうなことであるのか、)

白痴の場合はそれが真実悲痛なことであるのか、

(いざわがそれをしんじていいのか、これもはっきりはわからない。)

伊沢がそれを信じていいのか、これもハッキリは分らない。

(ついにはおしいれへとじこもる。)

遂には押入へ閉じこもる。

(それがはくちのちじょくとよりひのひょうげんとほぐしていいのか、)

それが白痴の恥辱と自卑の表現と解していいのか、

(それをはんだんするためのことばすらもないのだから、)

それを判断する為の言葉すらもないのだから、

など

(じたいはともかくかれがはくちとどうかくになりさがるいがいにほうがない。)

事態はともかく彼が白痴と同格に成り下る以外に法がない。

(なまじいににんげんらしいふんべつが、なぜひつようであろうか。)

なまじいに人間らしい分別が、なぜ必要であろうか。

(はくちのこころのすなおさを)

白痴の心の素直さを

(かれじしんもまたもつことがにんげんのちじょくであろうか。)

彼自身も亦もつことが人間の恥辱であろうか。

(おれにもこのはくちのようなこころ、)

俺にもこの白痴のような心、

(おさない、そしてすなおなこころがなによりひつようだったのだ。)

幼い、そして素直な心が何より必要だったのだ。

(おれはそれをどこかへわすれ、)

俺はそれをどこかへ忘れ、

(ただあくせくしたにんげんどものしこうのなかでうすぎたなくよごれ、)

ただあくせくした人間共の思考の中でうすぎたなく汚れ、

(きょもうのかげをおい、ひどくつかれていただけだ。)

虚妄の影を追い、ひどく疲れていただけだ。

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