白痴 27
関連タイピング
-
プレイ回数1342かな314打
-
プレイ回数3万歌詞1030打
-
プレイ回数95万長文かな1008打
-
プレイ回数25万長文786打
-
プレイ回数5667歌詞1062打
-
プレイ回数101歌詞831打
-
プレイ回数1401連打360打
-
プレイ回数129長文535打
問題文
(いよいよきた。じたいがはっきりするといざわはようやくおちついた。)
愈々来た。事態がハッキリすると伊沢はようやく落着いた。
(ぼうくうずきんをかぶり、ふとんをかぶってのきさきにたち)
防空頭巾をかぶり、蒲団をかぶって軒先に立ち
(にじゅうよんきまでいざわはかぞえた。)
二十四機まで伊沢は数えた。
(ぽっかりこうぼうのまんなかにういて、みんなずじょうをつうかしている。)
ポッカリ光芒のまんなかに浮いて、みんな頭上を通過している。
(こうしゃほうのおとだけがきがちがったようになりつづけ、)
高射砲の音だけが気が違ったように鳴りつづけ、
(ばくげきのおとはいっこうにおこらない。)
爆撃の音は一向に起らない。
(にじゅうごきをかぞえるときかられいの)
二十五機を数える時から例の
(がらがらとがーどのうえをかもつれっしゃがかけさるときのような)
ガラガラとガードの上を貨物列車が駆け去る時のような
(しょういだんのらっかおんがなりはじめたが、いざわのずじょうをとおりこして、)
焼夷弾の落下音が鳴り始めたが、伊沢の頭上を通り越して、
(こうほうのこうじょうちたいへしゅうちゅうされているらしい。)
後方の工場地帯へ集中されているらしい。
(のきさきからはみえないのでぶたごやのまえまでいってあとをみると、)
軒先からは見えないので豚小屋の前まで行って後を見ると、
(こうじょうちたいはひのうみで、)
工場地帯は火の海で、
(あきれたことにはいままでずじょうをつうかしていたひこうきとせいはんたいのほうこうからも)
呆れたことには今迄頭上を通過していた飛行機と正反対の方向からも
(つぎつぎとべいきがきてこうほういったいにばくげきをくわえているのだ。)
次々と米機が来て後方一帯に爆撃を加えているのだ。
(するともうらじおはとまり、そらいちめんはあかあかとあついけむりのまくにかくれて、)
するともうラジオはとまり、空一面は赤々と厚い煙の幕にかくれて、
(べいきのすがたもしょうくうとうのこうぼうもまったくしかいからうしなわれてしまった。)
米機の姿も照空燈の光芒も全く視界から失われてしまった。
(ほっぽうのいっかくをのこしてししゅうはひのうみとなり、)
北方の一角を残して四周は火の海となり、
(そのひのうみがしだいにちかづいていた。)
その火の海が次第に近づいていた。
(したてやふうふはようじんぶかいひとたちで、)
仕立屋夫婦は用心深い人達で、
(つねからぼうくうごうをにもつようにつくってありめばりのどろもよういしておき、)
常から防空壕を荷物用に造ってあり目張りの泥も用意しておき、
(ばんじてじゅんどおりにぼうくうごうににもつをつめこみめばりをぬり、)
万事手順通りに防空壕に荷物をつめこみ目張りをぬり、
(そのまたうえへはたけのつちもかけおわっていた。)
その又上へ畑の土もかけ終っていた。
(このひじゃとてもだめですね。)
この火じゃとても駄目ですね。
(したてやはむかしのひけしのしょうぞくでうでぐみをしてひのてをながめていた。)
仕立屋は昔の火消しの装束で腕組みをして火の手を眺めていた。
(けせったって、これじゃむりだ。あたしゃもうにげますよ。)
消せったって、これじゃ無理だ。あたしゃもう逃げますよ。
(けむりにまかれてしんでみてもはじまらねえや、)
煙にまかれて死んでみても始まらねえや、
(したてやはりやかーにひとやまのにもつをつみこんでおり、)
仕立屋はリヤカーに一山の荷物をつみこんでおり、
(せんせい、いっしょにひきあげましょう。)
先生、いっしょに引上げましょう。
(いざわはそのとき、そうぞうしいほどふくざつなきょうふかんにおそわれた。)
伊沢はそのとき、騒々しいほど複雑な恐怖感に襲われた。
(かれのしんたいはしたてやといっしょにすべりかけているのであったが、)
彼の身体は仕立屋と一緒に滑りかけているのであったが、
(しんたいのうごきをふりきるようなひとつのこころのていこうですべりをとめると、)
身体の動きをふりきるような一つの心の抵抗で滑りを止めると、
(こころのなかのいっかくからはりさけるような)
心の中の一角から張りさけるような
(ひめいのこえがどうじにたったようなきがした。)
悲鳴の声が同時に起ったような気がした。