白痴 28
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問題文
(このいっしゅんのちえんのためにやけてしぬ、)
この一瞬の遅延の為に焼けて死ぬ、
(かれはほとんどきょうふのためにほうしんしたが、)
彼は殆ど恐怖のために放心したが、
(ふたたびともかくしぜんによろめきだすようなしんたいのすべりをこらえていた。)
再びともかく自然によろめきだすような身体の滑りをこらえていた。
(「ぼくはね、ともかく、もうちょっと、のこりますよ。)
「僕はね、ともかく、もうちょっと、残りますよ。
(ぼくはね、しごとがあるのだ。)
僕はね、仕事があるのだ。
(ぼくはね、ともかくげいにんだから、いのちのとことんのところで)
僕はね、ともかく芸人だから、命のとことんの所で
(じぶんのすがたをみつめえるようなきかいには、)
自分の姿を見凝(みつ)め得るような機会には、
(そのとことんのところでさいごのとりひきをしてみることをようきゅうされているのだ。)
そのとことんの所で最後の取引をしてみることを要求されているのだ。
(ぼくはにげたいが、にげられないのだ。)
僕は逃げたいが、逃げられないのだ。
(このきかいをにがすわけにいかないのだ。)
この機会を逃がすわけに行かないのだ。
(もうあなたがたはにげてください。)
もうあなた方は逃げて下さい。
(はやく、はやく、いっしゅんかんがすべてをておくれにしてしまう」)
早く、早く、一瞬間が全てを手遅れにしてしまう」
(はやく、はやく。いっしゅんかんがすべてをておくれに。)
早く、早く。一瞬間が全てを手遅れに。
(すべてとは、それはいざわじしんのいのちのことだ。)
全てとは、それは伊沢自身の命のことだ。
(はやくはやく、それはしたてやをせきたてるこえではなくて、)
早く早く、それは仕立屋をせきたてる声ではなくて、
(かれじしんがいっしゅんもはやくにげたいためのこえだった。)
彼自身が一瞬も早く逃げたい為の声だった。
(かれがこのばしょをにげだすためには、)
彼がこの場所を逃げだすためには、
(あたりのひとびとがみんなたちさったあとでなければならないのだ。)
あたりの人々がみんな立去った後でなければならないのだ。
(さもなければ、はくちのすがたをみられてしまう。)
さもなければ、白痴の姿を見られてしまう。
(じゃせんせい、おだいじに。りやかーをひっぱりだすとしたてやもあわてていた。)
じゃ先生、お大事に。リヤカーをひっぱりだすと仕立屋も慌てていた。
(りやかーはろじのかどかどにぶつかりながらたちさった。)
リヤカーは路地の角々にぶつかりながら立去った。
(それがこのろじのじゅうにんたちのさいごににげさるすがたであった。)
それがこの路地の住人達の最後に逃げ去る姿であった。
(いわをあらうどとうのむげんのおとのような、)
岩を洗う怒濤の無限の音のような、
(やねをうつこうしゃほうのむすうのはへんのむげんのらっかのおとのような、)
屋根を打つ高射砲の無数の破片の無限の落下の音のような、
(きゅうしとこうていのなにもないざあざあというぶきみなおとが)
休止と高低の何もないザアザアという無気味な音が
(むげんにれんぞくしているのだが、)
無限に連続しているのだが、
(それがふどうをながれているひなんみんたちのひとかたまりのあしおとなのだ。)
それが府道を流れている避難民達の一かたまりの跫音なのだ。
(こうしゃほうのおとなどはもうまがぬけて、)
高射砲の音などはもう間が抜けて、
(あしおとのながれのなかにきみょうないのちがこもっていた。)
跫音の流れの中に奇妙な命がこもっていた。
(こうていときゅうしのないきかいなおとのむげんのながれを)
高低と休止のない奇怪な音の無限の流れを
(よのなんにんがあしおととはんだんしえよう。)
世の何人が跫音と判断し得よう。
(てんちはただむすうのおんきょうでいっぱいだった。)
天地はただ無数の音響でいっぱいだった。
(べいきのばくおん、こうしゃほう、らっかおん、ばくはつのおんきょう、)
米機の爆音、高射砲、落下音、爆発の音響、
(あしおと、やねをうつたまひら、)
跫音、屋根を打つ弾片、
(けれどもいざわのしんぺんのなんじゅうめーとるかのしゅういだけは)
けれども伊沢の身辺の何十米かの周囲だけは
(あかいてんちのまんなかでともかくちいさなやみをつくり、)
赤い天地のまんなかでともかく小さな闇をつくり、
(ぜんぜんひっそりしているのだった。)
全然ひっそりしているのだった。