nausicaa10

(なんじゃと！？おうむが？)

なんじゃと！？　王蟲が？

(ひめさまはぼうそうをくいとめるためにひとりのこられた。いくさなんぞしてるひまはない)

姫様は暴走を食い止めるために一人残られた。戦なんぞしてる暇はない

(みんなたかいところへにげろ！いそげ！)

みんな高い所へ逃げろ！急げ！

(あ！ばばさま、あかいひかりがみえます！)

あ！ババ様、赤い光が見えます！

(どんどんふえてるみたい。こっちへくるんだわ！)

どんどん増えてるみたい。こっちへ来るんだわ！

(ばばにしっかりつかまっておいで。こうなってはもう、だれもとめられないんじゃ)

ババにしっかりつかまっておいで。こうなってはもう、誰も止められないんじゃ

(あわてるな！まだだいじょうぶだ！)

慌てるな！　まだ大丈夫だ！

(みと、どうせしぬんじゃ、たにでしぬよ)

ミト、どうせ死ぬんじゃ、谷で死ぬよ

(だめじゃ。ひめさまがあきらめないかぎりあきらめるな)

だめじゃ。姫様が諦めない限り諦めるな

(よいか。できるだけじかんをかせげ。わたしはすぐもどる)

よいか。できるだけ時間を稼げ。私はすぐ戻る

(でんか！まさかあれを！まだはやすぎます！)

殿下！まさかあれを！まだ早すぎます！

(いまつかわずにいつつかうのだ。いけ！)

今使わずにいつ使うのだ。いけ！

(うたないで！はなしをきいて！)

撃たないで！話を聞いて！

(くそう。とりみたいなやつだ)

くそう。鳥みたいな奴だ

(あのひとはてきじゃないよ。なにかさけんでいた)

あの人は敵じゃないよ。何か叫んでいた

(さくせんをじゃまするやつはみんなてきだ)

作戦を邪魔する奴はみんな敵だ

(はやくおとりをたににほうりこまないとおれたちがあぶないんだ)

早く囮を谷に放り込まないと俺たちが危ないんだ

(くるぞ。よおくひきつけてからうて)

来るぞ。よおく引きつけてから撃て

(いまだ！うて！)

今だ！撃て！

(いやだ！らすてるさん・・・)

嫌だ！ラステルさん・・・

(どけ！)

どけ！

(おうむ・・・！おこらないで。こわがらなくていいの。わたしはてきじゃないわ)

王蟲・・・！怒らないで。怖がらなくていいの。私は敵じゃないわ

(ごめん。ごめんね。ゆるしてなんていえないよね。ひどすぎるよね)

ごめん。ごめんね。許してなんて言えないよね。酷すぎるよね

(うごいちゃだめ！たいえきがでちゃう！いいこだからうごかないで)

動いちゃだめ！体液が出ちゃう！いい子だから動かないで

(たいへんだ！みつけられた！こっちへくる！)

大変だ！見つけられた！こっちへ来る！

(だめよ！そんなけがではいったら！このみずうみのみずはだめだったら！)

だめよ！そんな怪我で入ったら！この湖の水はだめだったら！

(おまえ・・・。やさしいこ。わたしはだいじょうぶ。いまみんながむかえにくるからね)

お前・・・。優しい子。私は大丈夫。今みんなが迎えに来るからね

(それていく。こっちへこない！おうむ！だめよ！そっちはたにがあるのに)

それていく。こっちへ来ない！王蟲！だめよ！そっちは谷があるのに

(いかりでわれをわすれてるんだわ。しずめなきゃ、たにが！)

怒りで我を忘れてるんだわ。鎮めなきゃ、谷が！

(ばかめ！じぶんでまねきよせていやがる)

馬鹿め！自分で招き寄せていやがる

(たすかった・・・)

助かった・・・

(すぐだっしゅつだ。えんじんをしらべろ)

すぐ脱出だ。エンジンを調べろ

(よせ！はなせばわかる！)

よせ！話せば分かる！

(わたしたちをはこびなさい。あのこをむれにかえします)

私たちを運びなさい。あの子を群れに返します

(そんなことをしたってもうむだだ！むれはとまりゃしない)

そんなことをしたってもう無駄だ！群れはとまりゃしない

(わたしたちをむれのさきにおろすだけでいい。はこびなさい)

私たちを群れの先に降ろすだけでいい。運びなさい

(しかし、きみもしぬぞ！)

しかし、君も死ぬぞ！

(ばばさま、みんなしぬの？)

ババ様、みんな死ぬの？

(さだめならね。したがうしかないんだよ)

定めならね。従うしかないんだよ

(びくともしねえな)

びくともしねえな

(たいきゃくしましょう)

退却しましょう

(ばかやろう。にげるったってどこへにげるんだ)

馬鹿野郎。逃げるったってどこへ逃げるんだ

(ああ、こら、にげるな！まて！おい！でんかがもどるまでふみとどまれ！でんか・・・)

ああ、こら、逃げるな！待て！おい！殿下が戻るまで踏みとどまれ！殿下・・・

(でんかだ！)

殿下だ！

(きょしんへいだ！)

巨神兵だ！

(くさってやがる。はやすぎたんだ)

腐ってやがる。早すぎたんだ

(やきはらえ！どうした！それでもせかいでもっともじゃあくないちぞくのまつえいか！)

焼き払え！どうした！それでも世界で最も邪悪な一族の末裔か！

(すげぇ・・・せかいがもえちまうわけだぜ)

すげぇ・・・世界が燃えちまうわけだぜ

(くしゃなでんか！ばんざい！)

クシャナ殿下！　万歳！

(なぎはらえ！どうしたばけもの！さっさとうたんか！)

薙ぎ払え！どうした化け物！さっさと撃たんか！

(うわああ！にげろ！)

うわああ！逃げろ！

(きょしんへいしんじゃった)

巨神兵死んじゃった

(そのほうがいいんじゃよ)

そのほうがいいんじゃよ

(おうむのいかりはだいちのいかりじゃ。あんなものにすがっていきのびてなんになろう)

王蟲の怒りは大地の怒りじゃ。あんなものに縋って生き延びてなんになろう

(ひめねえさま！ひめねえさまが！ひめさま！ あんなところに！むちゃだ！)

姫ねえさま！姫ねえさまが！姫様！ あんなところに！無茶だ！

(ひめさま！)

姫様！

(おうむのこうげきしょくがきえていく)

王蟲の攻撃色が消えていく

(たいきからいかりがきえた)

大気から怒りが消えた

(とまった。おうむがとまったぞ)

止まった。王蟲が止まったぞ

(ひめねえさまが！)

姫ねえさまが！

(ひめねえさま、しんじゃった・・・)

姫ねえさま、死んじゃった・・・

(みをもっておうむのいかりをしずめてくだされたのじゃ。あのこはたにをまもったのじゃ)

身をもって王蟲の怒りを鎮めてくだされたのじゃ。あの子は谷を守ったのじゃ

(みろ)

見ろ

(な、なんだこのひかりは？)

な、なんだこの光は？

(てと)

テト

(よかった。おうむ、ありがとう)

良かった。王蟲、ありがとう

(ありがとう)

ありがとう

(きせきじゃ。きせきじゃあ)

奇跡じゃ。奇跡じゃあ

(なんといういたわりとゆうあいじゃ。おうむがこころをひらいておる)

なんといういたわりと友愛じゃ。王蟲が心を開いておる

(こどもたちよ、わしのめしいためのかわりによくみておくれ)

子どもたちよ、わしの盲した目の代わりによく見ておくれ

(ひめねえさま、まっさおないこくのふくをきてるの)

姫ねえさま、真っ青な異国の服を着てるの

(まるで、きんいろのくさはらをあるいてるみたい)

まるで、金色の草原を歩いてるみたい

(「そのものあおきころもをまといてこんじきののにおりたつべし・・・」)

「その者青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし・・・」

(ばばさま)

ババ様

(ふるきいいつたえはまことであった・・・)

古き言い伝えは誠であった・・・

(あ！みて！)

あ！見て！

(めーヴぇだ！)

メーヴェだ！

(かぜだ！かぜがもどってきた！)

風だ！風が戻ってきた！

(ひめさま！)

姫様！