夏目漱石「こころ」2-6

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「こころ」2-6
(中)両親と私
こっちゃん様が(上)の方を上げて下さっていたものの続きでございます。
タイピングを投稿するのは初めてですので、誤字脱字等ありましたらご連絡何卒宜しくお願い致します。

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こっちゃん様による(上)
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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 mame 5357 B++ 5.5 96.4% 468.5 2607 97 51 2024/11/24
2 ぽむぽむ 5320 B++ 5.5 96.1% 472.1 2616 104 51 2024/11/09

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問題文

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(ちちはこのまえのふゆにかえってきたときほどしょうぎをさしたがらなくなった。)

父はこの前の冬に帰って来た時程将棋を差したがらなくなった。

(しょうぎばんはほこりのたまったまま、とこのまのすみにかたよせられてあった。)

将棋盤はほこりの溜ったまま、床の間の隅に片寄せられてあった。

(ことにへいかのごびょうきいごちちはじっとかんがえこんでいるようにみえた。)

ことに陛下の御病気以後父は凝と考え込んでいるように見えた。

(まいにちしんぶんのくるのをまちうけて、じぶんがいちばんさきへよんだ。)

毎日新聞の来るのを待ち受けて、自分が一番先へ読んだ。

(それからそのよみがらをわざわざわたくしのいるところへもってきてくれた。)

それからその読がらをわざわざ私の居る所へ持ってきてくれた。

(「おいごらん、きょうもてんしさまのことがくわしくでている」)

「おい御覧、今日も天子様の事が詳しく出ている」

(ちちはへいかのことを、つねにてんしさまといっていた。)

父は陛下のことを、つねに天子さまと云っていた。

(「もったいないはなしだが、てんしさまのごびょうきも、)

「勿体ない話だが、天子さまの御病気も、

(おとうさんのとまあにたものだろうな」)

お父さんのとまあ似たものだろうな」

(こういうちちのかおにはふかいけねんのくもりがかかっていた。)

こういう父の顔には深い懸念の曇がかかっていた。

(こういわれるわたくしのむねにはまたちちがいつたおれるかわからないというしんぱいがひらめいた。)

こう云われる私の胸には又父が何時斃れるか分らないという心配がひらめいた。

(「しかしだいじょうぶだろう。)

「然し大丈夫だろう。

(おれのようなくだらないものでも、まだこうしていられるくらいだから」)

おれの様な下らないものでも、まだこうしていられる位だから」

(ちちはじぶんのたっしゃなほしょうをじぶんであたえながら、)

父は自分の達者な保証を自分で与えながら、

(いまにもおのれにおちかかってきそうなきけんをよかんしているらしかった。)

今にも己れに落ちかかって来そうな危険を予感しているらしかった。

(「おとうさんはほんとうにびょうきをこわがってるんですよ。)

「御父さんは本当に病気を怖がってるんですよ。

(おかあさんのおっしゃるように、じゅうねんもにじゅうねんもいきるきじゃなさそうですぜ」)

御母さんの仰しゃるように、十年も二十年も生きる気じゃなさそうですぜ」

(はははわたくしのことばをきいてとうわくそうなかおをした。)

母は私の言葉を聞いて当惑そうな顔をした。

(「ちっとまたしょうぎでもさすようにすすめてごらんな」)

「ちっと又将棋でも差すように勧めて御覧な」

(わたくしはとこのまからしょうぎばんをとりおろして、ほこりをふいた。 )

私は床の間から将棋盤を取り卸して、ほこりを拭いた。

など

(ご )

(ちちのげんきはしだいにおとろえていった。)

父の元気は次第に衰ろえて行った。

(わたくしをおどろかせたはんけちつきのふるいむぎわらぼうしがしぜんとかんきゃくされるようになった。)

私を驚ろかせたハンケチ付の古い麦藁帽子が自然と閑却されるようになった。

(わたくしはくろいすすけたたなのうえにのっているそのぼうしをながめるたびに、)

私は黒い煤けた棚の上に載っているその帽子を眺めるたびに、

(ちちにたいしてきのどくなおもいをした。)

父に対して気の毒な思をした。

(ちちがいぜんのように、かるがるとうごくあいだは、もうすこしつつしんでくれたらとしんぱいした。)

父が以前のように、軽々と動く間は、もう少し慎んでくれたらと心配した。

(ちちがじっとすわりこむようになると、)

父が凝と坐り込むようになると、

(やはりもとのほうがたっしゃだったのだというきがおこった。)

やはり元の方が達者だったのだという気が起った。

(わたくしはちちのけんこうについてよくははとはなしあった。)

私は父の健康に就いてよく母と話し合った。

(「まったくきのせいだよ」とははがいった。)

「全たく気の所為だよ」と母が云った。

(ははのあたまはへいかのやまいとちちのやまいとをむすびつけてかんがえていた。)

母の頭は陛下の病と父の病とを結び付けて考えていた。

(わたくしにはそうばかりともおもえなかった。)

私にはそうばかりとも思えなかった。

(「きじゃない、ほんとうにからだがわるかないんでしょうか。)

「気じゃない、本当に身体が悪かないんでしょうか。

(どうもきぶんよりけんこうのほうがわるくなっていくらしい」)

どうも気分より健康の方が悪くなって行くらしい」

(わたくしはこういって、こころのうちでまたとおくからそうとうのいしゃでもよんで、)

私はこう云って、心のうちで又遠くから相当の医者でも呼んで、

(ひとつみせようかしらとしあんした。)

一つ見せようかしらと思案した。

(「ことしのなつはおまえもつまらなかろう。)

「今年の夏は御前もつまらなかろう。

(せっかくそつぎょうしたのに、おいわいもしてあげることができず、)

折角卒業したのに、御祝もして上げる事が出来ず、

(おとうさんのからだもあのとおりだし。それにてんしさまのごびょうきで。)

御父さんの身体もあの通りだし。それに天子様の御病気で。

(ーいっそのこと、かえるすぐにおきゃくでもよぶほうがよかったんだよ」)

ーいっその事、帰るすぐに御客でも呼ぶ方が好かったんだよ」

(わたくしがかえったのはしちがつのごろくにちで、)

私が帰ったのは七月の五六日で、

(ちちやははがわたくしのそつぎょうをいわうためにきゃくをよぼうといいだしたのは、)

父や母が私の卒業を祝うために客を呼ぼうと云いだしたのは、

(それからいっしゅうかんごであった。)

それから一週間後であった。

(そうしていよいよときめたひはそれからまたいっしゅうかんのよもさきになっていた。)

そうして愈と極めた日はそれから又一週間の余も先になっていた。

(じかんにそくばくをゆるさないゆうちょうないなかにかえったわたくしは、)

時間に束縛を許さない悠長な田舎に帰った私は、

(おかげでこのもしくもないしゃこうじょうのくつうからすくわれたもおなじことであったが、)

御蔭で好もしくもない社交上の苦痛から救われたも同じ事であったが、

(わたくしをりかいしないはははすこしもそこにきがついていないらしかった。)

私を理解しない母は少しも其処に気が付いていないらしかった。

(ほうぎょのほうちがつたえられたとき、)

崩御の報知が伝えられた時、

(ちちはそのしんぶんをてにして、「ああ、ああ」といった。)

父はその新聞を手にして、「ああ、ああ」と云った。

(「ああ、ああ、てんしさまもおかくれになる。おれも・・・・・・」)

「ああ、ああ、天子様も御かくれになる。己も……」

(ちちはそのあとをいわなかった。)

父はその後を云わなかった。

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