横光利一 機械 9
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | kkk | 6944 | S++ | 7.2 | 96.4% | 544.9 | 3927 | 143 | 51 | 2024/11/06 |
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問題文
(とうとうやられたなとわたしはおもったがべつにやしきをたすけてやろうというきが)
とうとうやられたなと私は思ったが別に屋敷を助けてやろうという気が
(おこらないばかりではない。ひごろそんけいしていたおとこがぼうりょくにあうとどんなたいどを)
起こらないばかりではない。日頃尊敬していた男が暴力に逢うとどんな態度を
(とるものかとまるでゆだのようなこうきしんがわいてきてれいたんにじっとゆがむやしきの)
とるものかとまるでユダのような好奇心が湧いて来て冷淡にじっと歪む屋敷の
(かおをながめていた。やしきはゆかのうえへながれだしたにすのなかへかたほおをひたしたまま)
顔を眺めていた。屋敷は床の上へ流れ出したニスの中へ片頬を浸したまま
(おきあがろうとしてふるえているのだが、かるべのひざぼねがやしきのせなかをつきふせる)
起き上ろうとして慄えているのだが、軽部の膝骨が屋敷の背中を突き伏せる
(たびごとにまたすぐべたべたとくずれてしまってきもののめくれあがったふとったあかはだかの)
度毎にまた直ぐべたべたと崩れてしまって着物の捲れあがった太った赤裸の
(りょうあしをぶかっこうにゆかのうえでもがかせているだけなのだ。わたしはやしきがかるべに)
両足を不格好に床の上で藻掻かせているだけなのだ。私は屋敷が軽部に
(すくなからずていこうしているのをみるとばかばかしくなったがそれよりそんけいしている)
少なからず抵抗しているのを見ると馬鹿馬鹿しくなったがそれより尊敬している
(おとこがくつうのためにみにくいかおをしているのはこころのみにくさをあらわしているのとどうようなように)
男が苦痛のために醜い顔をしているのは心の醜さを表しているのと同様なように
(おもわれてこまりだした。わたしがかるべのぼうりょくをはらだたしくかんじたのもつまりはわざわざ)
思われて困り出した。私が軽部の暴力を腹立たしく感じたのもつまりはわざわざ
(たにんにそんなみにくいかおをさせるぶれいさにたいしてなので、じつはかるべのわんりょくにたいして)
他人にそんな醜い顔をさせる無礼さに対してなので、実は軽部の腕力に対して
(ではない。しかし、かるべはあいてがみにくいかおをしようがしまいがそんなことに)
ではない。しかし、軽部は相手が醜い顔をしようがしまいがそんなことに
(とんちゃくしているものではなくますますうえからくびをしめつけてなぐりつづけるのである。)
頓着しているものではなくますます上から首を絞めつけて殴り続けるのである。
(わたしはしまいにだまってたにんのくつうをそばでみているというじしんのこういがせいとうなものか)
私はしまいに黙って他人の苦痛を傍で見ているという自身の行為が正当なものか
(どうかうたがいだしたが、そのじっとしているわたしのいちからすこしでもうごいて)
どうか疑い出したが、そのじっとしている私の位置から少しでも動いて
(どちらかへわたしがかたんをすればなおわたしのせいとうさはなくなるようにもおもわれるのだ。)
どちらかへ私が加担をすればなお私の正当さはなくなるようにも思われるのだ。
(それにしてもあれほどみにくいかおをしつづけながらまだはくじょうしないやしきをおもうと)
それにしてもあれほど醜い顔をし続けながらまだ白状しない屋敷を思うと
(いったいやしきはあんしつからなにかかくじつにぬすみとったのであろうかどうかとおもわれて、)
いったい屋敷は暗室から何か確実に盗みとったのであろうかどうかと思われて、
(こんどはやしきのこんらんしているがんめんのしわからかれのひみつをよみとることに)
今度は屋敷の混乱している顔面の皺から彼の秘密を読みとることに
(くしんしはじめた。かれはつっぷしながらもときどきわたしのかおをみるのだがかれとしせんをあわす)
苦心し始めた。彼は突っ伏しながらも時々私の顔を見るのだが彼と視線を合わす
(たびにわたしはかれへだんだんせいりょくをあたえるためにやにやけいべつしたようにわらってやると、)
度に私は彼へだんだん勢力を与えるためにやにや軽蔑したように笑ってやると、
(かれもそれにはまいったらしくきゅうにふんぜんとしはじめてかるべをうえからころがそうと)
彼もそれには参ったらしく急に奮然とし始めて軽部を上から転がそうと
(するのだがかるべのつよいということにはどうしようもない、ただやしきはふんぜんとする)
するのだが軽部の強いということにはどうしようもない、ただ屋敷は奮然とする
(たびにつよくどしどしなぐられていくだけなのだ。しかし、わたしからみているとわたしに)
度に強くどしどし殴られていくだけなのだ。しかし、私から見ていると私に
(わらわれてふんぜんとするようなやしきがだいいいちもうぼろをみせたのでこまった)
笑われて奮然とするような屋敷がだいいいちもうぼろを見せたので困った
(どんづまりというものはひとはうごけばうごくほどぼろをだすものらしく、やしきを)
どん詰まりというものは人は動けば動くほどぼろを出すものらしく、屋敷を
(みながらわらうわたしもいつのまにかすっかりかれをけいべつしてしまってわらうことも)
見ながら笑う私もいつの間にかすっかり彼を軽蔑してしまって笑うことも
(できなくなったのもつまりはかれがなんのやくにもたたぬときにうごいたからなのだ。)
出来なくなったのもつまりは彼が何の役にも立たぬときに動いたからなのだ。
(それでわたしはやしきとてべつにわれわれとかわったじんぶつでもなくへいぼんなおとこだとしると、)
それで私は屋敷とて別にわれわれと変った人物でもなく平凡な男だと知ると、
(かるべにもうなぐることなんかやめてくちでいえばたりるではないかといってやると、)
軽部にもう殴ることなんかやめて口でいえば足りるではないかといってやると、
(かるべはわたしをうめたときのようにまたやしきのあたまのうえからしんちゅうばんのせっぺんをひっかぶせて)
軽部は私を埋めたときのようにまた屋敷の頭の上から真鍮板の切片をひっ冠せて
(ひとけりけりつけながら、たてという。やしきはたちあがるとまだなにかかるべに)
一蹴り蹴りつけながら、立てという。屋敷は立ち上るとまだ何か軽部に
(せられるものとおもったのかこわそうにじりじりこうほうのかべへせなかをつけてかるべの)
せられるものと思ったのか恐わそうにじりじり後方の壁へ背中をつけて軽部の
(しせいをふせぎながら、あんしつへはいったのはじがねのうらのぐりゅーがかせいそーだでは)
姿勢を防ぎながら、暗室へ這入ったのは地金の裏のグリューがカセイソーダでは
(とれなかったらあんもにあをさがしにいったのだとはやくちにいう。しかし、)
取れなかったらアンモニアを捜しにいったのだと早口にいう。しかし、
(あんもにあがいりようならなぜいわぬか、ねーむぷれーとせいさくじょにとってあんしつほど)
アンモニアが入用なら何ぜいわぬか、ネームプレート製作所にとって暗室ほど
(たいせつなところはないことぐらいだれだってしっているではないかといってまたかるべは)
大切な所はないことぐらい誰だって知っているではないかといってまた軽部は
(なぐりだした。わたしはやしきのべんかいがでたらめだとはわかっていたがなぐるかるべのてのひらのおとが)
殴り出した。私は屋敷の弁解が出鱈目だとは分っていたが殴る軽部の掌の音が
(あまりはげしいのでもうなぐるのだけはやめるがよいというと、かるべはきゅうにわたしのほうを)
あまり激しいのでもう殴るのだけはやめるが良いというと、軽部は急に私の方を
(ふりかえって、それではふたりはきょうぼうかという。だいたいきょうぼうかどうかこういう)
振り返って、それでは二人は共謀かという。だいたい共謀かどうかこういう
(ことはかんがえればわかるではないかとわたしはいおうとしてふとかんがえると、なるほど)
ことは考えれば分るではないかと私はいおうとしてふと考えると、なるほど
(これはきょうぼうだとおもわれないことはないばかりではなくひょっとするとじじつは)
これは共謀だと思われないことはないばかりではなくひょっとすると事実は
(きょうぼうでなくともきょうぼうとおなじこういであることにきがついた。まったくやしきにゆうゆうと)
共謀でなくとも共謀と同じ行為であることに気がついた。全く屋敷に悠々と
(あんしつへなどいれさしておいてしゅじんのしごとのひみつをぬすまぬじしんのほうがかえってわるい)
暗室へなど入れさしておいて主人の仕事の秘密を盗まぬ自身の方が却って悪い
(こういをしているとおもっているわたしであるいじょうはきょうぼうとおなじこういであるに)
行為をしていると思っている私である以上は共謀と同じ行為であるに
(ちがいないので、いくぶんどきりとむねをさされたおもいになりかけたのをわざとずぶとく)
ちがいないので、幾分どきりと胸を刺された思いになりかけたのをわざと図太く
(かまえきょうぼうであろうとなかろうとそれだけひとをなぐればもうじゅうぶんであろうというと)
構え共謀であろうとなかろうとそれだけ人を殴ればもう十分であろうというと
(こんどはかるべはわたしにかかってきて、わたしのあごをつきつきそれではきさまがやしきをあんしつへ)
今度は軽部は私にかかって来て、私の顎を突き突きそれでは貴様が屋敷を暗室へ
(いれたのであろうという。わたしはもはややかるべがどんなにわたしをなぐろうとそんなこと)
入れたのであろうという。私は最早や軽部がどんなに私を殴ろうとそんなこと
(よりもいままでなぐられていたやしきのがんぜんでかれのつみをひきうけてなぐられてやるほうが)
よりも今まで殴られていた屋敷の眼前で彼の罪を引き受けて殴られてやる方が
(やしきにこれをみよというかのようでまったくはればれとしてきもちがよいのだ。)
屋敷にこれを見よというかのようで全く晴れ晴れとして気持ちが良いのだ。