夏目漱石「こころ」3-56

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「こころ」3-56
下)先生と遺書
夏目漱石の「こころ」(下)でございます。
なるべく原文ママで問題を設定しておりますので、誤字なのか原文なのかややこしいとは思われますが最後までお付き合い下さい。

オリジナルの書き方・読み方については以下に載せますので、参考の程よろしくお願い致します。
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18:攫みました(つかみました)
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少し長くなってしまいました。

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問題文

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(わたくしはそこにすわって、よくしょもつをひろげました。)

私は其所に坐って、よく書物をひろげました。

(けいはなにもせずにだまっているほうがおおかったのです。)

Kは何もせずに黙っている方が多かったのです。

(わたくしにはそれがかんがえにふけっているのか、けしきにみとれているのか、)

私にはそれが考えに耽っているのか、景色に見惚れているのか、

(もしくはすきなそうぞうをえがいているのか、まったくわからなかったのです。)

若しくは好きな想像を描いているのか、全く解らなかったのです。

(わたくしはときどきめをあげて、けいになにをしているのだとききました。)

私は時々眼を上げて、Kに何をしているのだと聞きました。

(けいはなにもしていないとひとくちこたえるだけでした。)

Kは何もしていないと一口答えるだけでした。

(わたくしはじぶんのそばにこうじっとしてすわっているものが、)

私は自分の傍にこうじっとして坐っているものが、

(けいでなくって、おじょうさんだったらさぞゆかいだろうとおもうことがよくありました。)

Kでなくって、御嬢さんだったらさぞ愉快だろうと思う事が能くありました。

(それだけならまだいいのですが、)

それだけならまだ可いのですが、

(ときにはけいのほうでも)

時にはKの方でも

(わたくしとおなじようなきぼうをいだいていわのうえにすわっているのではないかしら)

私と同じような希望を抱いて岩の上に坐っているのではないかしら

(とこつぜんうたがいだすのです。)

と忽然疑い出すのです。

(するとおちついてそこにしょもつをひろげているのがきゅうにいやになります。)

すると落ち付いて其所に書物をひろげているのが急に厭になります。

(わたくしはふいにたちあがります。)

私は不意に立ち上ります。

(そうしてえんりょのないおおきなこえをだしてどなります。)

そうして遠慮のない大きな声を出して怒鳴ります。

(まとまったしだのうただのをおもしろそうにぎんずるようなてぬるいことはできないのです。)

纏まった詩だの歌だのを面白そうに吟ずるような手緩い事は出来ないのです。

(ただやばんじんのごとくにわめくのです。)

只野蛮人の如くにわめくのです。

(あるときわたくしはとつぜんかれのえりくびをうしろからぐいとつかみました。)

ある時私は突然彼の襟頸を後からぐいと攫みました。

(こうしてうみのなかへつきおとしたらどうするといってけいにききました。)

こうして海の中へ突き落したらどうすると云ってKに聞きました。

(けいはうごきませんでした。)

Kは動きませんでした。

など

(うしろむきのまま、ちょうどいい、やってくれとこたえました。)

後向のまま、丁度好い、遣ってくれと答えました。

(わたくしはすぐくびすじをおさえたてをはなしました。)

私はすぐ首筋を抑えた手を放しました。

(けいのしんけいすいじゃくはこのときもうだいぶよくなっていたらしいのです。)

Kの神経衰弱はこの時もう大分可くなっていたらしいのです。

(それとはんぴれいに、わたくしのほうはだんだんかびんになってきていたのです。)

それと反比例に、私の方は段々過敏になって来ていたのです。

(わたくしはじぶんよりおちついているけいをみて、うらやましがりました。)

私は自分より落付いているKを見て、羨ましがりました。

(またにくらしがりました。)

又憎らしがりました。

(かれはどうしてもわたくしにとりあうけしきをみせなかったからです。)

彼はどうしても私に取り合う気色を見せなかったからです。

(わたくしにはそれが、いっしゅのじしんのごとくうつりました。)

私にはそれが、一種の自信の如く映りました。

(しかしそのじしんをかれにみとめたところで、わたくしはけっしてまんぞくできなかったのです。)

然しその自信を彼に認めたところで、私は決して満足出来なかったのです。

(わたくしのうたがいはもういっぽまえへでて、そのせいしつをあきらめたがりました。)

私の疑いはもう一歩前へ出て、その性質を明らめたがりました。

(かれはがくもんなりじぎょうなりについて、これからじぶんのすすんでいくべきぜんとのこうみょうを)

彼は学問なり事業なりに就いて、これから自分の進んでいくべき前途の光明を

(ふたたびとりかえしたこころもちになったのだろうか。)

再び取り返した心持になったのだろうか。

(たんにそれだけならば、けいとわたくしとのりがいになんのしょうとつのおこるわけはないのです。)

単にそれだけならば、Kと私との利害に何の衝突の起る訳はないのです。

(わたくしはかえってせわのしがいがあったのをうれしくおもうくらいなものです。)

私は却って世話のし甲斐があったのを嬉しく思う位なものです。

(けれどもかれのあんしんがもしおじょうさんにたいしてであるとすれば、)

けれども彼の安心がもし御嬢さんに対してであるとすれば、

(わたくしはけっしてかれをゆるすことができなくなるのです。)

私は決して彼を許す事が出来なくなるのです。

(ふしぎにもかれは)

不思議にも彼は

(わたくしのおじょうさんをあいしているそぶりにまったくきがついていないようにみえました。)

私の御嬢さんを愛している素振に全く気が付いていないように見えました。

(むろんわたくしもそれがけいのめにつくようにわざとらしくはふるまいません)

無論私もそれがKの眼に付くようにわざとらしくは振舞いません

(でしたけれども、けいはがんらいそういうてんにかけるとにぶいひとなのです。)

でしたけれども、Kは元来そういう点にかけると鈍い人なのです。

(わたくしにはさいしょからけいならだいじょうぶというあんしんがあったので、)

私には最初からKなら大丈夫という安心があったので、

(かれをわざわざうちへつれてきたのです。)

彼をわざわざ宅へ連れて来たのです。

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