怖い話《誰?》

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問題文

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(「じっかにはちゃんとかえらないとだめよ」)

「実家にはちゃんと帰らないと駄目よ」

(のみやでとなりのせきにすわったkさんは、わたしにそうちゅうこくした。)

飲み屋で隣の席に座ったKさんは、私にそう忠告した。

(いたいところをつかれたわたしが、なにかあったんですか?)

痛いところを突かれた私が、何かあったんですか?

(とたずねると、こんなはなしをきかせてくれた。)

と尋ねると、こんな話を聞かせてくれた。

(kさんのがくせいじだいはべんきょうづけというよりもじっけんづけのひびだったそうだ。)

Kさんの学生時代は勉強漬けというよりも実験漬けの日々だったそうだ。

(にゅうがくとどうじにそれぞれのはんにわりふられ、)

入学と同時にそれぞれの班に割り振られ、

(あたえられたかだいをきがとおくなるほどあらゆるかくどからじっけんし、)

与えられた課題を気が遠くなる程あらゆる角度から実験し、

(えられたすうじをもとにてんもんがくてきなまいすうのろんぶんをしあげる。)

得られた数字を元に天文学的な枚数の論文を仕上げる。

(にゅうがくからの4ねんかん、そんなせいかつのくりかえしだったそうだ。)

入学からの4年間、そんな生活の繰り返しだったそうだ。

(へいじつはひらすらじっけんのまいにちで、きゅうじつにはかこのろんぶんをよみあさるというせいかつを)

平日はひらすら実験の毎日で、休日には過去の論文を読み漁るという生活を

(おくっていたkさんは、とてもきせいするじかんなどもてなかったという。)

送っていたKさんは、とても帰省する時間など持てなかったという。

(それでも、しゅうに1どはれんらくをするというやくそくを、さいしょのころはまもれていたという。)

それでも、週に1度は連絡をするという約束を、最初の頃は守れていたという。

(しかし、どとうのひびにおしながされるうちに、)

しかし、怒涛の日々に押し流されるうちに、

(れんらくをいれるかんかくはじょじょにひらいていき、)

連絡を入れる間隔は徐々に開いていき、

(いっかいなまのおわりごろにはそのやくそくすらわすれてしまっていた。)

一回生の終わり頃にはその約束すら忘れてしまっていた。

(そんなkさんがせいかにふたたびかおをだしたのは、)

そんなKさんが生家に再び顔を出したのは、

(いえをでてからじつに3ねんがたったころだった。)

家を出てから実に3年が経った頃だった。

(kさんのりょうしんはともばたらきだったので、kさんはおさないころからかぎっこだった。)

Kさんの両親は共働きだったので、Kさんは幼い頃から鍵っ子だった。

(そのしゅうかんのなごりなのか、じっかをはなれたせいかつをおくっていても、)

その習慣の名残なのか、実家を離れた生活を送っていても、

(じっかのかぎはちゃんとほかんされていた。)

実家の鍵はちゃんと保管されていた。

など

(がちゃりとかぎをまわすと、ていこうもなくとびらはひらいた。)

ガチャリと鍵を回すと、抵抗も無く扉は開いた。

(かぎをひねるかんかくも、げんかんからみえるけしきも3ねんまえをかわっていなかった。)

鍵を捻る感覚も、玄関から見える景色も3年前を変わっていなかった。

(かえってきたときはいつもだれもいないのも、なんらかわってはいない。)

帰ってきた時はいつも誰もいないのも、何ら変わってはいない。

(kさんはりびんぐのそふぁにこしをおろすと、てれびのでんげんをいれた。)

Kさんはリビングのソファに腰を下ろすと、テレビの電源を入れた。

(そのうちにははおやがかえってくるだろう。)

そのうちに母親が帰って来るだろう。

(そして、よるもふけたころにつかれたちちおやがかえってくるはずだ。)

そして、夜も更けた頃に着かれた父親が帰って来る筈だ。

(kさんはてれびからきこえるにぎやかなこえをききながら、)

Kさんはテレビから聞こえる賑やかな声を聞きながら、

(いつのまにかねいってしまったという。)

いつの間にか寝入ってしまったという。

(「だれ?」)

「誰?」

(おんなのこえがきこえ、kさんはめをさました。)

女の声が聞こえ、Kさんは目を覚ました。

(いつのまにかひはかなりしずみこんでおり、)

いつの間にか日はかなり沈み込んでおり、

(あかりをつけていなかったへやのなかはうすぼんやりとしたしかいがひろがっている。)

明かりを付けていなかった部屋の中は薄ぼんやりとした視界が広がっている。

(てれびはいつのまにかきえていた。)

テレビはいつの間にか消えていた。

(kさんがふりかえると、へやのとびらのまえにおんながたっているのがぼんやりとみえた。)

Kさんが振り返ると、部屋の扉の前に女が立っているのがぼんやりと見えた。

(しかし、どうみてもははおやのすがたではない。)

しかし、どう見ても母親の姿ではない。

(kさんははんしゃてきにたちあがりおんなをしょうめんにみすえた。)

Kさんは反射的に立ち上がり女を正面に見据えた。

(おんなはおどろいたようにめをこわばらせているが、とりみだしたようすはなく、)

女は驚いたように目を強張らせているが、取り乱した様子はなく、

(おちついたこえでふたたび「だれ?」とたずねてきた。)

落ち着いた声で再び「誰?」と尋ねてきた。

(おんなのかたわらからは、ちいさないがぐりあたまとふたつのめがみえかくれしている。)

女の傍らからは、小さないがぐり頭と二つの目が見え隠れしている。

(はいごにこどもがかくれているようだ。)

背後に子供が隠れているようだ。

(「だれなのかね?」)

「誰なのかね?」

(こんどはおとこのこえがした。)

今度は男の声がした。

(おんなのはいご、とびらのおくのくらやみからやせぎすのおとこがでてきて、おんなのとなりにならんだ。)

女の背後、扉の奥の暗闇から痩せぎすの男が出てきて、女の隣に並んだ。

(そのあとをおうように、ちいさなこどもがごにん、こばしりでへやにはいってきた。)

その後を追うように、小さな子供が五人、小走りで部屋に入ってきた。

(おんなのはいごにかくれていたこどももすがたをみせ、よこいちれつにろくにんがならんだ。)

女の背後に隠れていた子供も姿を見せ、横一列に六人が並んだ。

(みないちようにいがぐりあたまをしている。)

皆一様にいがぐり頭をしている。

(「だれ?」)

「誰?」

(おんながいっぽふみだしてきた。)

女が一歩踏み出してきた。

(とどうじにkさんのいしきがとぎれ、つぎのしゅんかんには、ぶつまでせいざしていたという。)

と同時にKさんの意識が途切れ、次の瞬間には、仏間で正座していたという。

(kさんのしょうめんには、ひざをつきあわせるようにおんながせいざしていた。)

Kさんの正面には、膝を突き合わせるように女が正座していた。

(そのとなりにはおとことろくにんのこどものすがたもある。)

その隣には男と六人の子供の姿もある。

(ひはさらにしずみ、ほとんどしかいのきかなくなったへやのなかでは、)

日は更に沈み、ほとんど視界の利かなくなった部屋の中では、

(それぞれのあしもとがわずかにみえるだけで、)

それぞれの足元が僅かに見えるだけで、

(ひょうじょうはぼくじゅうをたらしたようにくろくしずんでいる。)

表情は墨汁を垂らした様に黒く沈んでいる。

(「だれ?」)

「だれ?」

(おびえるkさんにとどめをさすように、おんなのこえがきこえた。)

怯えるKさんにトドメを刺すように、女の声が聞こえた。

(「なによりもこわかったのは、そのあともいしきがとんでいったりしなかったことね」)

「何よりも怖かったのは、その後も意識が飛んで行ったりしなかった事ね」

(kさんはせいざしたまま10ぷんほどたえていたそうだ。)

Kさんは正座したまま10分程耐えていたそうだ。

(しかし、じかんがとまったようにじたいはうごかず、たえかねたkさんは)

しかし、時間が止まったように事態は動かず、耐え兼ねたKさんは

(さけびながらげんかんをとびだし、りんかにたすけをもとめたという。)

叫びながら玄関を飛び出し、隣家に助けを求めたという。

(けいかんとともにいえへもどったときには、だれもいなかったそうだ。)

警官と共に家へ戻った時には、誰も居なかったそうだ。

(「けっきょくごりょうしんはどこにいってたの?」)

「結局ご両親はどこに行ってたの?」

(kさんはあいまいにほほえむだけでこたえなかった。)

Kさんは曖昧に微笑むだけで答えなかった。

(ひとづたいにきいたところによると、)

人伝いに聞いたところによると、

(kさんのりょうしんはげんざいゆくえふめいになっているのだという。)

Kさんの両親は現在行方不明になっているのだという。

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