悪党と善人【第３話】

(このじたいにこまりはてていたのは、あくとうばかりではありません。)

この事態に困りはてていたのは、悪党ばかりではありません。

(となりであくじをはたらくあくとうをなんとかとめようと、ぜんにんはひびひっしでした。)

となりで悪事を働く悪党を何とか止めようと、善人は日々必死でした。

(しかし、まいにちのことできりがありません。)

しかし、毎日のことできりがありません。

(ぜんにんはこうかんがえました。)

善人はこう考えました。

(「おれがうごけなくなれば、あくとうもうごけまい」)

「おれが動けなくなれば、悪党も動けまい」

(みをはってあくとうをとめようとかんがえたぜんにんは)

身をはって悪党を止めようと考えた善人は

(ついにたべるのをやめてしまいました。)

ついに食べるのをやめてしまいました。

(すると、ふたごのようにつながっているふたりですから、あくとうもちからがでません。)

すると、ふたごのようにつながっている二人ですから、悪党も力が出ません。

(あくとうはぜんにんにものをたべさせようとしましたが、むだなことでした。)

悪党は善人にものを食べさせようとしましたが、むだなことでした。

(あくとうはぜんにんをいしゃにみせにいきました。)

悪党は善人を医者に診せに行きました。

(しかし、ぜんにんはちりょうをうけようとしません。)

しかし、善人は治療を受けようとしません。

(さすがのあくとうも、ぜんにんをせっとくしようとします。)

さすがの悪党も、善人を説得しようとします。

(「このままではふたりともしんでしまうぞ」)

「このままでは二人とも死んでしまうぞ」

(「それでほんもうだ」)

「それで本望だ」

(「そんなばかな」)

「そんなばかな」

(よわりはてたあくとうはきょうかいにぜんにんをつれていきました。)

弱りはてた悪党は教会に善人をつれて行きました。

(あくとうはしんぷさまにうったえます。)

悪党は神父さまに訴えます。

(「じさつはつみだといってやってください」)

「自殺は罪だと言ってやってください」

(しんぷさまにさとされても、ぜんにんのけっしんはかわりません。)

神父さまにさとされても、善人の決心は変わりません。

(「たとえかみさまにいわれても、おれはくわんよ」)

「たとえ神様に言われても、おれは食わんよ」