先生 後編 -10-

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師匠シリーズ
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問題文

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(なかはさらにひどいありさまで、すすとあなときぎれのやまだった。)

中はさらに酷い有様で、煤と穴と木切れの山だった。

(げたばこのざんがいのよこをとおりぬけ、くつのままこうしゃのろうかにあがる。)

下駄箱の残骸の横を通り抜け、靴のまま校舎の廊下に上がる。

(くものすをはらいのけながらかいだんにあしをかけると、)

蜘蛛の巣を払い除けながら階段に足をかけると、

(ばきっとおとがしてそこがぬけそうになった。)

バキッと音がして底が抜けそうになった。

(すぐにあしをひっこめ、だいじょうぶそうなばしょをなんどもたいじゅうをかけて)

すぐに足を引っ込め、大丈夫そうな場所を何度も体重をかけて

(たしかめながらいちだんいちだんのぼっていった。)

確かめながら一段一段登っていった。

(ぼろぼろのかべにてをついて、てのひらをまっくろにしながら)

ボロボロの壁に手をついて、手のひらを真っ黒にしながら

(ようやくにかいにたどりつくと、ぼくはくびをめぐらせる。)

ようやく二階に辿り着くと、僕は首をめぐらせる。

(ろくねんせいとかいてあるしろいいたはどこにもみあたらない。)

六年生と書いてある白い板はどこにも見当たらない。

(ただくちはてたきのゆかとかべがつくりだすはいいろのろうかがのびていた。)

ただ朽ち果てた木の床と壁が作り出す灰色の廊下が伸びていた。

(ぼくはゆっくりとあるき、いつかせんせいがてをふってむかえてくれたきょうしつへ)

僕はゆっくりと歩き、いつか先生が手を降って迎えてくれた教室へ

(あしをふみいれる。)

足を踏み入れる。

(そのしゅんかん、くらくらとあたまがゆれた。)

その瞬間、クラクラと頭が揺れた。

(いつつあり、せんせいがもうひとつはこんできてくれたのでぜんぶでむっつになったはずの)

五つあり、先生がもう一つ運んできてくれたので全部で六つになったはずの

(つくえは、ひとつもなかった。ただきのざんがいがきょうしつのすみに)

机は、一つもなかった。ただ木の残骸が教室の隅に

(むぞうさにおりかさねられているだけだった。)

無造作に折り重ねられているだけだった。

(きょうだんにはおおきなあながあき、こくばんがあったばしょにはすすけたかべだけがある。)

教壇には大きな穴が開き、黒板があった場所には煤けた壁だけがある。

(なんだろうこれは。なんだろう。いったいなんだろう。これは。)

なんだろうこれは。なんだろう。いったいなんだろう。これは。

(そうだ。はりぼてなのだ。ほんもののうえにかぶせられたはりぼて。よくできている。)

そうだ。ハリボテなのだ。本物の上に被せられたハリボテ。よく出来ている。

(これならみんなだませる。じいちゃんだって、しげちゃんだって。)

これならみんな騙せる。じいちゃんだって、シゲちゃんだって。

など

(ぼくだって。)

僕だって。

(そしてこれからそれはかってにすりかわるのだ。)

そしてこれからそれは勝手にすり替わるのだ。

(ほんもののきょうしつにはせんせいがいて、ぼくのしらないとおいくにのものがたりを)

本物の教室には先生がいて、僕の知らない遠い国の物語を

(はなしてきかせてくれるのだ。)

話して聞かせてくれるのだ。

(・・・・・なにもおきなかった。)

・・・・・なにも起きなかった。

(ぼくはずっとまっていた。それでもなにもおきなかった。)

僕はずっと待っていた。それでもなにも起きなかった。

(ふと、まどのほうをみた。おりがみのつるでいっぱいだったまどには)

ふと、窓の方を見た。折り紙の鶴でいっぱいだった窓には

(もうなにもぶらさがってはいない。あしをひきずるようにそちらにちかづく。)

もうなにもぶらさがってはいない。足を引きずるようにそちらに近づく。

(せんせいがいつもほおづえをついていたまどぎわにぼくもたった。)

先生がいつも頬杖をついていた窓際に僕も立った。

(まどわくはくさったようにえぐれていて、とてもひじをつけそうにない。)

窓枠は腐ったように抉れていて、とても肘をつけそうにない。

(ぼくはせんせいがいつもふいにとおくなったようにかんじたことをおもいだす。)

僕は先生がいつもふいに遠くなったように感じたことを思い出す。

(そんなときせんせいはいつもぼんやりとまどのそとをみていた。)

そんな時先生はいつもぼんやりと窓の外を見ていた。

(おもえばはじめてあったときだってそうだ。)

思えば初めて会った時だってそうだ。

(なんどもせんせいをよび、ようやくきづいてくれたとき、)

何度も先生を呼び、ようやく気づいてくれた時、

(ぱちんというかんじにせかいがはじけた。)

ぱちんという感じに世界が弾けた。

(そのしゅんかんに、ぼくとせんせいのせかいがつながったのだ。)

その瞬間に、僕と先生の世界がつながったのだ。

(せんせいはいつもしろいはながらのふくをきていた。せいけつないめーじにそぐわない、)

先生はいつも白い花柄の服を着ていた。清潔なイメージにそぐわない、

(おなじふくだったようなきがする。)

同じ服だったような気がする。

(すてられたこうしゃのなかで、がっこうのせんせいのじかんはとまったままだったのだろうか。)

捨てられた校舎の中で、学校の先生の時間は止まったままだったのだろうか。

(いつかめずらしくあめがふったことがあったけれど、)

いつか珍しく雨が降ったことがあったけれど、

(ちんじゅのもりをぬけるとはれていたということがあった。)

鎮守の森を抜けると晴れていたということがあった。

(こさめだったから、ちょっとふしぎにおもったくらいだったけど、)

小雨だったから、ちょっと不思議に思ったくらいだったけど、

(たとえあらしがやってきてもあのもりのむこうははれたままだったのかもしれない。)

たとえ嵐がやってきてもあの森の向こうは晴れたままだったのかも知れない。

(じわじわとせみがないている。どこかうつろなこえだった。べつのせかいのけはいは)

ジワジワと蝉が鳴いている。どこか虚な声だった。別の世界の気配は

(どこにもない。もうぼくにはみえない。みえなくなってしまった。)

どこにもない。もう僕には見えない。見えなくなってしまった。

(ぼくはたちつくし、ぼうっとまどのそとをみていた。)

僕は立ち尽くし、ぼうっと窓の外を見ていた。

(せんせいがみていたものをむいしきにさがしていたのかもしれない。)

先生が見ていたものを無意識に探していたのかも知れない。

(めのはしにこうていの、ひろばのすみがはいった。)

目の端に校庭の、広場の隅が入った。

(せんせいはいつもそこをみていた。おなじばしょを。あそこにはなにがある?)

先生はいつもそこを見ていた。同じ場所を。あそこにはなにがある?

(ぼくはふりむくとあしばやできょうしつをでた。みしみしとろうかがきしんで)

僕は振り向くと足早で教室を出た。ミシミシと廊下が軋んで

(いやなおとをたてたけれど、あしはとまらなかった。)

嫌な音を立てたけれど、足は止まらなかった。

(かいだんをはんぶんこわすようにかけおり、げんかんをでてひろばにむかった。)

階段を半分壊すように駆け下り、玄関を出て広場に向かった。

(はいざいのやまをするするとさけながら、)

廃材の山をスルスルと避けながら、

(そのすみっこにひっそりとたつきのねもとにはしりよった。)

その隅っこにひっそりと立つ木の根本に走り寄った。

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