刀 -8-

背景
投稿者投稿者蛍☆いいね0お気に入り登録
プレイ回数33順位2746位  難易度(4.4) 3189打 長文 長文モードのみ
師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
cicciさんのアカウント
https://typing.twi1.me/profile/userId/130158
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7963 8.0 98.6% 390.3 3152 44 63 2025/06/12

関連タイピング

問題文

ふりがな非表示 ふりがな表示

(にどやきしたときにでるせんだ。)

二度焼した時に出る線だ。

(にどやきはさいばとよばれ、そのかたなのもっていたほんらいのかちをおおきくそこなうものだ。)

二度焼は再刃と呼ばれ、その刀の持っていた本来の価値を大きく損なうものだ。

(がっかりしかけたが、よくみるとさいばとくゆうのはもんのにごりもなく)

がっかりしかけたが、よく見ると再刃特有の刃紋の濁りもなく

(うつくしいかたちをたもっている。みずかげがそのままうつりにつながっているところをみると、)

美しい形を保っている。水影がそのまま映りにつながっているところを見ると、

(これはぎゃくにそうしたしゅこうなのだときづかされた。)

これは逆にそうした趣向なのだと気付かされた。

(すがたからするとほりかわものかもしれない。だとするとあんがいこれはねがはる。)

姿からすると堀川物かも知れない。だとすると案外これは値が張る。

(もつてがすこしきんちょうした。)

持つ手が少し緊張した。

(そのとなりではししょうがべつのかたなをてにとり、おなじくさやからぬこうとしている。)

その隣では師匠が別の刀を手に取り、同じく鞘から抜こうとしている。

(しかしあやうげなてつきで、しかもむねのまえでかたなをよこにして)

しかし危うげな手つきで、しかも胸の前で刀を横にして

(さゆうにちからをいれてひきぬこうとしていた。)

左右に力を入れて引き抜こうとしていた。

(ぼくはおもわずくびをふってちゅういする。)

僕は思わず首を振って注意する。

(じぶんのひだりてのさやをもういちどごしにあてて、)

自分の左手の鞘をもう一度腰にあてて、

(さっきのぼくとおなじようにぬけというじぇすちゃーをした。)

さっきの僕と同じように抜けというジェスチャーをした。

(とうしんをさらしているときはしゃべらないのがまなーだということは)

刀身を晒している時は喋らないのがマナーだということは

(ふんいきでさっしてくれたらしい。)

雰囲気で察してくれたらしい。

(ししょうはむごんのままみようみまねでこしからひきぬいた。)

師匠は無言のまま見よう見まねで腰から引き抜いた。

(つばがつくとさびのげんいんにもなるので、とうけんをかんしょうするときには)

唾がつくと錆の原因にもなるので、刀剣を鑑賞する時には

(かいわはつつしむのがふつうだ。そのためにかいしをくわえるしゅうかんさえあったのだ。)

会話は慎むのが普通だ。そのために懐紙を咥える習慣さえあったのだ。

(はをうえにしてぬくのもさやのうちがわにすらないようにするためだ。)

刃を上にして抜くのも鞘の内側にすらない様にするためだ。

(よこにしてさゆうにぬくと、はをさやにおしつけるかたちになり、)

横にして左右に抜くと、刃を鞘に押し付ける形になり、

など

(さやもいためるしはにも「ひけ」というきずがつくことがある。)

鞘も痛めるし刃にも「ひけ」という傷がつくことがある。

(こんなにしろうととはおもわなかったのでどきどきしながらししょうのうごきを)

こんなに素人とは思わなかったのでドキドキしながら師匠の動きを

(ちゅうししていたが、そのてにあらわれたとうしんにおもわずめがいった。)

注視していたが、その手に現れた刀身に思わず目が行った。

(あまりになめらかなはだ、そしてはもん。)

あまりに滑らかな肌、そして刃紋。

(げんだいとうだ。)

現代刀だ。

(もくせいのうるしだいもにほんがけで、だいしょうがそろっている。のこされたわきざしのこしらえも)

木製の漆台も二本掛けで、大小が揃っている。残された脇差の拵えも

(まったくおなじいしょうで、しかもつばにみおぼえのあるかもんがあしらわれている。)

全く同じ意匠で、しかも鍔に見覚えのある家紋があしらわれている。

(さっきのへやにあったきりのたんすにあったかもんをおなじだ。)

さっきの部屋にあった桐の箪笥にあった家紋を同じだ。

(くらもちけのかもんなのだろう。)

倉持家の家紋なのだろう。

(ということはちゅうもんうちにちがいない。)

ということは注文打ちに違いない。

(ここでぼくのあたまはかいてんをはやめた。)

ここで僕の頭は回転を早めた。

(まずいな。)

まずいな。

(ししょうはこのあとどうするつもりなのだろう。)

師匠はこのあとどうするつもりなのだろう。

(もしなんのれいかんもはたらかないばあい、しょうじきにそれをいらいにんにつげるだろうか。)

もしなんの霊感も働かない場合、正直にそれを依頼人に告げるだろうか。

(いらいにんはじぶんのこれくしょんのなかにひとをきったかたながあることを)

依頼人は自分のコレクションの中に人を斬った刀があることを

(のぞんでいるのだから、そんなけつろんにあっさりとなっとくするだろうか。)

望んでいるのだから、そんな結論にあっさりと納得するだろうか。

(やすくないりょうきんをこうしんじょにはらい、そのだいしょうとしておかねにかえられないふかかちを)

安くない料金を興信所に払い、その代償としてお金に代えられない付加価値を

(みだす、というのがくらもちしのもくてきなのだろうから、ぎゃくにそんなかたなはないという)

見出す、というのが倉持氏の目的なのだろうから、逆にそんな刀はないという

(おすみつきをえたけっかになると、これはひどいいしゅがえしだ。)

お墨付きを得た結果になると、これはひどい意趣返しだ。

(もしくらもちしがそんなことをそうていもしていないようなたんらくてきなじんぶつだったら、)

もし倉持氏がそんなことを想定もしていないような短絡的な人物だったら、

(めんどうなことになりそうだ。)

面倒なことになりそうだ。

(だから、いっそししょうはれいしまがいのほっとりーでぃんぐでみせたような)

だから、いっそ師匠は霊視まがいのホットリーディングで見せたような

(ぷろいしきというか、わりきったかんがえかたをして)

プロ意識と言うか、割り切った考え方をして

(「どうせわかりっこないから」とでまかせをいうかのうせいがあるのだ。)

「どうせわかりっこないから」と出まかせを言う可能性があるのだ。

(たとえば、「このかたなはかつてひとをのいきちをすっています」と。)

たとえば、「この刀はかつて人をの生き血を吸っています」と。

(そのはつげんがもしいまもっているそのげんだいとうにたいしてとびだしてしまうと)

その発言がもし今持っているその現代刀に対して飛び出してしまうと

(じつにまずいことになる。)

実にまずいことになる。

(そんなわけないからだ。)

そんなワケないからだ。

(けれどししょうはそれをしらない。そのかたながさいきんうたれたものだということを。)

けれど師匠はそれを知らない。その刀が最近打たれたものだということを。

(せめてかもんにきづいてくれ、といのりながらししょうをよこめでみていると、)

せめて家紋に気付いてくれ、と祈りながら師匠を横目でみていると、

(くびをふりながらむずかしいかおをした。)

首を振りながら難しい顔をした。

((ちがう))

(違う)

(そういっているようだ。)

そう言っているようだ。

(ぼくはてのうちのかたなをひととおりかんしょうしたあとでさやにおさめた。ししょうもそれにならう。)

僕は手の内の刀を一通り鑑賞したあとで鞘に収めた。師匠もそれにならう。

(「これらはすべてごじぶんで?」)

「これらはすべてご自分で?」

(ししょうのといかけにくらもちしはうなずいた。)

師匠の問い掛けに倉持氏は頷いた。

(「ええ。わかいころからのどうらくで、じぶんでかいあつめたものです」)

「ええ。若いころからの道楽で、自分で買い集めたものです」

(きたいするようなめをむけてくる。)

期待するような目を向けてくる。

(それからぼくらはそれぞれすべてのとうけんをぬいた。)

それから僕らはそれぞれすべての刀剣を抜いた。

(もちろんひとふりだけあるたちも。)

もちろん一人振りだけある太刀も。

(どれもたかそうなものばかりだった。しかししんとう、しんしんとう、げんだいとうと、)

どれも高そうなものばかりだった。しかし新刀、新々刀、現代刀と、

(どれもじだいやたいはいがことなり、あまりしゅうしゅうぶつにこだわりはかんじられない。)

どれも時代や体配が異なり、あまり蒐集物にこだわりは感じられない。

(めいがみてみたかったが、とりあえずここはししょうにまかせることにする。)

銘が見てみたかったが、とりあえずここは師匠に任せることにする。

問題文を全て表示 一部のみ表示 誤字・脱字等の報告