怪人二十面相74

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問題文
(ああ、なんたることでしょう。ひづけをよこくするだけでも、おどろく)
ああ、なんたることでしょう。日づけを予告するだけでも、おどろく
(べきだいたんさですのに、そのうえじかんまではっきりとこうひょうしてしまった)
べき大胆さですのに、そのうえ時間まではっきりと公表してしまった
(のです。そして、はくぶつかんちょうやけいしそうかんにしつれいせんばんなちゅういまであたえて)
のです。そして、博物館長や警視総監に失礼せんばんな注意まであたえて
(いるのです。)
いるのです。
(これをよんだとみんのおどろきはもうすまでもありません。いままでは、)
これを読んだ都民のおどろきは申すまでもありません。今までは、
(そんなばかばかしいことが、あざわらっていたひとびとも、もうわらえなく)
そんなばかばかしいことが、あざわらっていた人々も、もう笑えなく
(なりました。)
なりました。
(とうじのはくぶつかんちょうは、しがくかいのだいせんぱい、きたこうじぶんがくはかせでしたが、その)
当時の博物館長は、史学界の大先輩、北小路文学博士でしたが、その
(えらいろうがくしゃさえも、ぞくのよこくをほんきにしないではいられなくなって、)
えらい老学者さえも、賊の予告を本気にしないではいられなくなって、
(わざわざけいしちょうにでむき、けいかいほうほうについて、けいしそうかんといろいろ)
わざわざ警視庁に出向き、警戒方法について、警視総監といろいろ
(うちあわせをしました。)
打ちあわせをしました。
(いや、そればかりではありません。にじゅうめんそうのことは、こくむだいじんがたの)
いや、そればかりではありません。二十面相のことは、国務大臣方の
(かくぎのわだいにさえ、のぼりました。なかでもそうりだいじんやほうむだいじんなどは、)
閣議の話題にさえ、のぼりました。中でも総理大臣や法務大臣などは、
(しんぱいのあまり、けいしそうかんをべっしつにまねいて、げきれいのことばをあたえた)
心配のあまり、警視総監を別室にまねいて、激励のことばをあたえた
(ほどです。)
ほどです。
(そして、ぜんとみんのふあんのうちに、むなしくひがたって、とうとう)
そして、全都民の不安のうちに、むなしく日がたって、とうとう
(じゅうにがつとおかとなりました。)
十二月十日となりました。
(こくりつはくぶつかんでは、そのひはそうちょうから、かんちょうのきたこうじろうはかせを)
国立博物館では、その日は早朝から、館長の北小路老博士を
(はじめとして、さんにんのかかりちょう、じゅうにんのしょき、じゅうろくにんのしゅえいやこづかいが、)
はじめとして、三人の係長、十人の書記、十六人の守衛や小使いが、
(ひとりのこらずしゅっきんして、それぞれけいかいのぶしょにつきました。)
ひとり残らず出勤して、それぞれ警戒の部署につきました。
(むろんとうじつは、おもてもんをとじて、かんらんきんしです。)
むろん当日は、表門をとじて、観覧禁止です。
(けいしちょうからは、なかむらそうさかんちょうのひきいるえりすぐったけいかんたいごじゅうにんが)
警視庁からは、中村捜査官長のひきいる選りすぐった警官隊五十人が
(しゅっちょうして、はくぶつかんのおもてもん、うらもん、へいのまわり、かんないのようしょようしょに)
出張して、博物館の表門、裏門、塀のまわり、館内の要所要所に
(がんばって、ありのはいいるすきまもないだいけいかいじんです。)
がんばって、アリのはいいるすきまもない大警戒陣です。
(ごごさんじはん、あますところわずかにさんじゅっぷん、けいかいじんはものものしく)
午後三時半、あますところわずかに三十分、警戒陣はものものしく
(さっきだってきました。)
殺気だってきました。
(そこへ、けいしちょうのおおがたじどうしゃがとうちゃくして、けいしそうかんが、けいじぶちょうを)
そこへ、警視庁の大型自動車が到着して、警視総監が、刑事部長を
(したがえてあらわれました。そうかんは、しんぱいのあまり、もうじっと)
したがえてあらわれました。総監は、心配のあまり、もうじっと
(していられなくなったのです。そうかんじしんのめで、はくぶつかんをみまもって)
していられなくなったのです。総監自身の目で、博物館を見守って
(いなければ、がまんができなくなったのです。)
いなければ、がまんができなくなったのです。
(そうかんたちはいちどうのけいかいぶりをしさつしたうえ、かんちょうしつにとおって、きたこうじ)
総監たちは一同の警戒ぶりを視察したうえ、館長室に通って、北小路
(はかせにめんかいしました。)
博士に面会しました。
(「わざわざ、あなたがおでかけくださるとはおもいませんでした。)
「わざわざ、あなたがお出かけくださるとは思いませんでした。
(きょうしゅくです」)
恐縮です」
(ろうはかせがあいさつしますと、そうかんは、すこしきまりわるそうにわらって)
老博士があいさつしますと、総監は、少しきまりわるそうに笑って
(みせました。)
みせました。
(「いや、おはずかしいことですが、じっとしていられませんでね。)
「いや、おはずかしいことですが、じっとしていられませんでね。
(たかがいちとうぞくのために、これほどのさわぎをしなければならないとは、)
たかが一盗賊のために、これほどのさわぎをしなければならないとは、
(じつにちじょくです。わしはけいしちょうにはいっていらい、こんなひどいちじょくを)
じつに恥辱です。わしは警視庁にはいって以来、こんなひどい恥辱を
(うけたことははじめてです。」)
受けたことははじめてです。」
(「あはは・・・・・・。」ろうはかせはちからなくわらって、)
「アハハ……。」老博士は力なく笑って、
(「わたしもどうようです、あのあおにさいのとうぞくのために、いっしゅうかんというもの、)
「わたしも同様です、あの青二才の盗賊のために、一週間というもの、
(ふみんしょうにかかっておるのですからな。」)
不眠症にかかっておるのですからな。」
(「しかし、もうあますところにじゅっぷんほどですよ。え、きたこうじさん、)
「しかし、もうあますところ二十分ほどですよ。え、北小路さん、
(まさかにじゅっぷんほどのあいだに、このげんじゅうなけいかいをやぶって、)
まさか二十分ほどのあいだに、このげんじゅうな警戒をやぶって、
(たくさんのびじゅつひんをぬすみだすなんて、いくらまほうつかいでも、すこし)
たくさんの美術品をぬすみだすなんて、いくら魔法使いでも、少し
(むずかしいげいとうじゃありますまいか。」)
むずかしい芸当じゃありますまいか。」
(「わかりません。わしにはまほうつかいのことはわかりません。ただひときざみも)
「わかりません。わしには魔法使いのことはわかりません。ただ一刻も
(はやくよじがすぎさってくれればよいとおもうばかりです。」)
早く四時がすぎさってくれればよいと思うばかりです。」