怪人二十面相67

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問題文
(あんのじょう、そのくるまはふたりのまっているまえまでくると、ぎぎーと)
案のじょう、その車はふたりの待っている前まで来ると、ギギーと
(ぶれーきのおとをたててとまったのです。)
ブレーキの音をたててとまったのです。
(「それっ。」)
「ソレッ。」
(というと、ふたりは、やにわに、やみのなかからとびだしました。)
というと、ふたりは、やにわに、やみの中からとびだしました。
(「きみは、あっちへまわれ。」)
「きみは、あっちへまわれ。」
(「よしきた。」)
「よしきた。」
(ふたつのくろいかげは、たちまちきゃくせきのりょうがわのどあへかけよりました。そして、)
二つの黒い影は、たちまち客席の両がわのドアへかけよりました。そして、
(いきなりがちゃんとどあをひらくときゃくせきのじんぶつへ、りょうほうからにゅーっと、)
いきなりガチャンとドアをひらくと客席の人物へ、両方からニューッと、
(ぴすとるのつつぐちをつきつけました。)
ピストルの筒口をつきつけました。
(とどうじに、きゃくせきにいたようそうのふじんも、いつのまにかぴすとるを)
と同時に、客席にいた洋装の夫人も、いつのまにかピストルを
(かまえています。それから、うんてんしゅまでが、うしろむきになって、その)
かまえています。それから、運転手までが、うしろ向きになって、その
(てにはこれもぴすとるがひかっているではありませんか。つまりよんちょうの)
手にはこれもピストルが光っているではありませんか。つまり四丁の
(ぴすとるが、つつさきをそろえて、きゃくせきにいる、たったひとりのじんぶつに、)
ピストルが、筒先をそろえて、客席にいる、たったひとりの人物に、
(ねらいをさだめたのです。)
ねらいをさだめたのです。
(そのねらわれたじんぶつというのは、ああ、やっぱりあけちたんていでした。)
そのねらわれた人物というのは、ああ、やっぱり明智探偵でした。
(たんていは、にじゅうめんそうのよそうにたがわず、まんまとけいりゃくにかかってしまった)
探偵は、二十面相の予想にたがわず、まんまと計略にかかってしまった
(のでしょうか。)
のでしょうか。
(「みうごきすると、ぶっぱなすぞ。」)
「身動きすると、ぶっぱなすぞ。」
(だれかがおそろしいけんまくで、どなりつけました。)
だれかがおそろしいけんまくで、どなりつけました。
(しかし、あけちは、かんねんしたものか、しずかに、くっしょんにもたれたまま、)
しかし、明智は、観念したものか、しずかに、クッションにもたれたまま、
(さからうようすはありません。あまりおとなしくしているので、ぞくの)
さからうようすはありません。あまりおとなしくしているので、賊の
(ほうがぶきみにおもうほどです。)
ほうがぶきみに思うほどです。
(「やっつけろ!」)
「やっつけろ!」
(ひくいけれどちからづよいこえがひびいたかとおもうと、こじきにばけたおとこと、あかい)
低いけれど力強い声がひびいたかと思うと、乞食に化けた男と、赤井
(とらぞうのりょうにんがおそろしいいきおいで、くるまのなかにふみこんできました。そして、)
寅三の両人がおそろしい勢いで、車の中にふみこんできました。そして、
(あかいがあけちのじょうはんしんをだきしめるようにしておさえていると、もうひとりは)
赤井が明智の上半身をだきしめるようにしておさえていると、もうひとりは
(ふところからとりだした、ひとかたまりのはくふのようなものを、てばやく)
ふところから取りだした、ひとかたまりの白布のようなものを、手早く
(たんていのくちにおしつけて、しばらくのあいだちからをゆるめませんでした。)
探偵の口におしつけて、しばらくのあいだ力をゆるめませんでした。
(それから、ややごふんもして、おとこがてをはなしたときには、さすがの)
それから、やや五分もして、男が手をはなしたときには、さすがの
(めいたんていも、やくぶつのちからにはかないません。まるでしにんのように、ぐったりと)
名探偵も、薬物の力にはかないません。まるで死人のように、グッタリと
(きをうしなってしまいました。)
気をうしなってしまいました。
(「ほほほ、もろいもんだわね。」)
「ホホホ、もろいもんだわね。」
(どうじょうしていたようそうふじんが、うつくしいこえでわらいました。)
同乗していた洋装夫人が、美しい声で笑いました。
(「おい、なわだ。はやくなわをだしてくれ。」)
「おい、なわだ。早くなわをだしてくれ。」
(こじきにばけたおとこは、うんてんしゅから、ひとたばのなわをうけとると、)
乞食に化けた男は、運転手から、ひとたばのなわを受けとると、
(あかいにてつだわせて、あけちたんていのてあしを、たとえそせいしても、)
赤井に手つだわせて、明智探偵の手足を、たとえ蘇生しても、
(みうごきできないように、しばりあげてしまいました。)
身動きできないように、しばりあげてしまいました。
(「さあ、よしと。こうなっちゃ、めいたんていもたわいがないね。これで)
「さあ、よしと。こうなっちゃ、名探偵もたわいがないね。これで
(やっとおれたちも、なんのきがねもなくしごとができるというもんだ。)
やっとおれたちも、なんの気がねもなく仕事ができるというもんだ。
(おい、おやぶんがまっているだろう。いそごうぜ。」)
おい、親分が待っているだろう。急ごうぜ。」
(ぐるぐるまきのあけちのからだを、じどうしゃのゆかにころがして、こじきとあかい)
ぐるぐる巻きの明智のからだを、自動車の床にころがして、乞食と赤井
(とが、きゃくせきにおさまると、くるまはいきなりはしりだしました。いくさきはいわずと)
とが、客席におさまると、車はいきなり走りだしました。行く先はいわずと
(しれたにじゅうめんそうのそうくつです。)
知れた二十面相の巣くつです。
(かいとうのそうくつ)
怪盗の巣くつ
(ぞくとてしたのうつくしいふじんと、こじきと、あかいとらぞうと、きをうしなったあけち)
賊と手下の美しい婦人と、乞食と、赤井寅三と、気をうしなった明智
(こごろうとをのせたじどうしゃは、さびしいまちさびしいまちとえらびながら、)
小五郎とを乗せた自動車は、さびしい町さびしい町とえらびながら、
(はしりにはしって、やがて、よよぎのめいじじんぐうをとおりすぎ、くらいぞうきばやしの)
走りに走って、やがて、代々木の明治神宮を通りすぎ、暗い雑木林の
(なかにぽつんとたっている、いっけんのじゅうたくのまえにとまりました。)
中にポツンと建っている、一軒の住宅の前にとまりました。