なぞなぞ -7-(完)

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(そのとき、ふいにおもったのだ。)

その時、ふいに思ったのだ。

(すうねんまえ、ひとのいないぷーるではじまったじぶんのなつが、)

数年前、人のいないプールで始まった自分の夏が、

(おわってしまったのはいつだろうかと。)

終わってしまったのはいつだろうかと。

(おもえば、ずっとなつだった。あきも、ふゆも、はるも、またやってこたなつも。)

思えば、ずっと夏だった。秋も、冬も、春も、またやって来た夏も。

(みたものきいたもの、やることなすこと、なにもかもむちゃくちゃで、)

見たもの聞いたもの、やることなすこと、なにもかも無茶苦茶で、

(むちゃくちゃなままずっとなつだったきがする。)

無茶苦茶なままずっと夏だった気がする。

(やまのなかにみをふせてむしのおとをきいたあきも。さむさにふるえたふゆのよるのうみべでさえ。)

山の中に身を伏せて虫の音を聞いた秋も。寒さに震えた冬の夜の海辺でさえ。

(やがて、べつのせかいにつうじるとびらがひとつ、ひとつととじていき、)

やがて、別の世界に通じる扉がひとつ、ひとつと閉じていき、

(きがつけばながかったなつもおわっていた。)

気がつけば長かった夏も終わっていた。

(「なつへのとびら」というしょうせつがある。)

「夏への扉」という小説がある。

(そのなかでぴーとというねこは、じゅういちもあるいえのそとへつうじるとびらを)

その中でピートという猫は、十一もある家の外へ通じる扉を

(かいぬしであるしゅじんこうにつぎつぎとあけさせる。)

飼い主である主人公に次々と開けさせる。

(とびらのむこうがふゆであることにふまんで、)

扉の向こうが冬であることに不満で、

(なつのせかいへつうじるとびらをさがしてしゅじんこうをせかすのだ。)

夏の世界へ通じる扉を探して主人公を急かすのだ。

(なんどさむさにしつぼうしても、すくなくともどこかひとつはなつへのとびらであるとうたがわずに。)

何度寒さに失望しても、少なくともどこかひとつは夏への扉であると疑わずに。

(おれはしつぼうはしていない。そんなべつのせかいへつうじるとびらなど)

俺は失望はしていない。そんな別の世界へ通じる扉など

(ないほうがいいということはよくわかっているからだ。)

ない方がいいということはよくわかっているからだ。

(ただそのころかいまみた、ありえないせかいのけしきに)

ただそのころ垣間見た、ありえない世界の景色に

(いまさらかんしょうをおぼえることはある。)

今さら感傷を覚えることはある。

(そんなきずが、むねにかすかないたみをもたらすのだろうか。)

そんな傷が、胸に微かな痛みをもたらすのだろうか。

など

(「じゃあ、さようなら」)

「じゃあ、さようなら」

(てをふってこうえんをでる。)

手を振って公園を出る。

(そのひとはべんちからたちあがり、こちらをみおくっている。)

その人はベンチから立ち上がり、こちらを見送っている。

(これからそのひとがかえるとびらのむこうには、ありふれたせいかつがあるのだろう。)

これからその人が帰る扉の向こうには、ありふれた生活があるのだろう。

(ななふしぎのせかいなどではなく。)

七不思議の世界などではなく。

(おれはもういちどさようならとつぶやいて、あるきながらゆっくりとせをむけた。)

俺はもう一度さようならと呟いて、歩きながらゆっくりと背を向けた。

(こはるびよりのべんちと、ずっといだいていたとおくほのかなかがやきと、)

小春日和のベンチと、ずっと抱いていた遠く仄かな輝きと、

(そしてかつてあいしたなつへのとびらに。)

そしてかつて愛した夏への扉に。

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